第33話 終わりと始まり
「それじゃあ、地図は貰っていくぞ」
「……持ってけ泥棒!!」
「意外と元気ね、イレーナさん…」
座り込むイレーナさんから投げつけられた地図を広げると、うん、やっぱり前までの地図とは順路がまるで違う。
それに地図の右上に可愛らしくシエル班と書かれている。
これは間違いなくリゼ先生の文字だ。
すると、リアラさんがそろりそろりと、フレアさん達の前にやって来る。
「あ、あの……」
「なに?まだ負けた私達に何か言ってくれるの?」
「そ、そうじゃなくて……あの、私!…」
「ひゃー!!ゴブリン、ゴブリン!!ジャック氏、ヨークs……ぶほおおお!な、なんで?」
「空気読めや!!今絶対重要な話しようとしてただろうが!!」
カンザスとヨークが二人でコントを繰り広げてる間に、ジャック君は静かにゴブリンの方へ向かう。
俺も特に何をするという事もないので、そのまま地図を眺めるふりをしておくことにした。
「私、あの日声をかけてすごい嬉しくて、初めて声を掛けてくれて……だからフレアさんも、イレーナさんも、嫌いじゃ、ないよ!ただ対等になりたくて、一生懸命二人を目指して頑張って…」
「「………」」
「……だから、さ、明日一緒に学校の食堂で、ご飯、食べませんか?」
「「………え?」」
「あ、だからこれは、ちょっとでも仲良くなれたらなーというか、仲直りしたいなーとか……駄目ですか?」
リアラさんは顔を伏せながら顔を赤くする。
その様子を見てイレーナさんとフレアさんは顔を見合わせ、そして笑う。
「いいよ、分かったわよ。私達はどうせ負けた身だから、何でも言う事聞くわ」
「あ、あの、決して強制したいわけじゃ…」
「あーあー仕方ない。リアラさんに言われちゃったら断れないなー」
「あ、あの…!」
「リアラさん、いいって言ってるんだよ、こいつら。まったく素直になれない奴らだ」
俺が地図を見ながら助け船を出してやると、リアラさんはフレアさんとイレーナさんを見て確認する。
すると二人もリアラさんに向かって笑みを浮かべたまま目を閉じて肩をすくめる。
「…………っ!?よ、よかったあぁ!私食事に誘うのとか初めてで…」
「ちょ、なんでリアラさんが泣いてるのよ!」
「な、なんか、安心して…」
俺が振り返って見てみると、泣き崩れるリアラさんをフレアさんとイレーナさんが介抱している所だった。
二度と近づくなっていう条件で、競っていたはずだが……ま、いいだろう。
なんだがこの光景を見ていると、俺まで感情移入して泣きそうになるが、俺は地図を丸めて立ち上がる。
そして傍らに置いてあったリュックサックを拾って、リアラさんたちの元に歩み寄る。
「んじゃ、俺達も暇じゃないんでな。あとこれ、返す」
「え?もう行くの?それにこれって…」
「あぁ、俺達の地図2個のうちの一つをお前たちに預ける。ヘンリ君達がその分岐から戻ってきたら渡してくれ。ジャック君達はヘンリ君達がここに戻るまでここで待つ、そのくらいのハンデはくれるだろ?」
「まぁ、もう勝負とかどうでもよくなっちゃったからいいけどさ…」
「あなた達もヘンリ君達がここに戻るまで待てばいいんじゃないの?」
「何言ってんだ?」
俺がリアラさんを立たせると、リアラさんは急いで土を払って支度を整える。
「俺達はこのダンジョン演習をぶっちぎってクリアするって目標でやってんだ。アレクにはその事ちゃんと言ってあるから、俺達はゆっくり進んどくんだよ。魔物もリアラさんと二人ならまだ対処はできるはずだし」
「あ、シエルさん、私のリュック、持ってきてくれてありがとうございます!」
「……はなから私達との勝負は二の次だったってわけね」
「どこまでも腹立つわ、この男」
「言ってろ。…じゃあね、ジャック君!!俺達行くよ!」
「さっさと行きやがれ!」
ジャック君が俺の別れの挨拶をうざがるように手を振って、顔を背けてしまう。
まったく、素直になれない奴らばっかりだな、この班は。
そんなくだらない事を考えながら、行き止まりではない方の分岐に、俺とリアラさんは入っていく。
そんな奴らではあっても、皆根は悪い奴ではない。
地図だって素直に渡してくれたし、ヘンリ君にもちゃんと渡してくれることだろう。
「とりあえずまぁ、ハッピーエンドって事でいいのかな」
「そうですね!」
この時俺は知らなかった。
俺達のダンジョン演習は、ここからが本番で、そして俺達はこれから深い絶望の谷に突き落とされてしまうという事を。
「…ん?この地図おかしくない?」




