第25話 ダンジョンへの突入
「は!?フレアとイレーナの二人とダンジョン演習で競う事になった!?」
「しーっ!!先生に聞こえるだろ!!」
俺はシャルロッテさんの肩を持ち、班で円陣を組むように促す。
「……なんで、早速厄介事持ち込んできてんのよ!しかもダンジョン入るまであと10分もないわよ」
「…仕方ないだろ、馬車の中で喋ろうとしてたのに先生が乗ってきちまったんだから」
「…シャルロッテさん、ご、ごめんなさい…」
「…別に起きた事ならもういいわ。なぜか私達の命運まで勝手に賭けられてるのだけは腹が立つけど、それはあなたじゃなくてこの男のせいだから」
「…それでなんか対策あんのか?」
俺はヘンリ君の問いかけに一瞬間を開けて、ジャック君達の班を見る。
例の二人は相変わらず談笑していて、ジャック君達はジャック君達で何かしらの打ち合わせをしている。
「…いや、普通にやるんだったら、対策なんてそもそも必要ない。それだけヘンリ君とシャルロッテさんという駒は強力な駒なんだ」
「…シエル君はまるで普通にやる事になるとは、思ってないような言い方だね」
「…当たり前だ。奴らの自信、きっとその裏には何かある。それを見破れなければ、厳しいかもしれない」
「…だからそれをどうするのよ」
「……ずっと考えてたんだ、奴らが何をしてくるか。だからいくつか可能性の候補は既にあるんだ。だからとりあえず、あいつらは俺に任せて、皆はヘンリ君、シャルロッテさんに接触しようとしてくる奴がいたらそいつらを叩いてほしい」
「…色々腑には落ちないけど、リーダーであるあなたが言うなら従うわよ」
「…僕も、シエル君に任せるよ」
「…俺に心配は無用だぞ」
「……し、シエルさん!いざとなれば私も使ってください。私にも責任はありますから」
「…ああ、ありがと!じゃあ……」
「それじゃあ、5人班グループ、こっちまで来て!」
リゼ先生が大声で俺達に呼びかける。
既に4人班は殆どがダンジョンの入り口にまで帰ってきている。
最後の1班も既に入り口にその姿は捉えていた。
次は俺達と、ジャック君達の班だ。
俺達はぞろぞろとダンジョンの入り口に立つリゼ先生の元へ向かった。
「ダンジョンの地図と順路を回すから、各班2枚ずつ配るので確認してください。二つの地図の順路は、それぞれの班がぶつからないようにできてます。注意点としては、ダンジョンの中には隠し穴と呼ばれる、地面の崩れやすい地帯がよくあります。落ちてしまえばダンジョンの下層まで一気に落ちてしまうので、今回の場合は、地図の中に絶対に立ち入ってはいけない場所として、その地点が立ち入り禁止に設定してあります。だからそこには絶対近づかないように!」
そう言ってリゼ先生は地図を配ろうとすると、ジャック君達の班から例の二人が立ち上がり、地図を配る役を買って出る。
この前の食堂ではああであったが、普段はこうして優等生を演じている。
「今回の演習の主目的はダンジョンというものを体感する事。何よりも安全と慎重な対応を心がけて、探索を行ってください!」
リゼ先生が声を掛けている間に、二人のうちの一人、イレーナさんが俺に地図を雑に渡してきた。
一々腹が立つが、笑顔でお礼だけ言っておいた。
「魔物やダンジョンの仕組み、その他諸々、授業で教えた事を思い出して……それじゃあそろそろ時間ね」
リゼ先生は懐から砂時計を取り出すと、入口の方に置く。
俺達は薄暗く、禍々しいオーラを放つ洞窟、ダンジョンの正面に立ち、息を整える。
アレクは首を回し、シャルロッテさんは腕を組み、ヘンリ君は軽く跳ねて笑みを浮かべる。
そして俺とリアラさんは目を瞑っていた。
横にはジャック君達の班が準備を終えて立っているのだろう。
「用意はできた?」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「1時間で帰ってくるのを目標に。それじゃあ、気を付けて!」
リゼ先生が砂時計をひっくり返し、最初の砂が落ちた時、俺達のダンジョン演習が始まった。
「おいおい、見てみろよ、このコケ、青く光ってるぞ!!」
「シエル君、ヘンリ君、地面に魔法打ってみたけど、すっごいゆっくりだけど、直って来てる!!ダンジョンは生きてるって聞いてたけど、本当なんだね!!」
「え、マジで!?本当だ、直ってる!!」
「あんたらちょっとは危機感持ちなさいよ!?なんだったの、さっきまでの緊張感」
「…み、皆ダンジョン初めてなんだから、ちょっとくらいは許してあげても…」
「そうだぞ?せっかくの機会なんだから、楽しまなきゃ。どうせ出るって言っても、ゴブリンくらいしか出ないって先生も言ってたし、それにこういう調査もあとで報告書として出さなきゃいけないし」
そうは言いつつも、ずっとこうやって遊んでいるのもよくないので、シャルロッテさんたちに合流して隊列を組む。
この隊列というのは事前に決めていたもので、先頭を圧倒的火力のあるヘンリ君、その後ろを状況判断の鬼アレク、真ん中には火の魔法でできた例の蝶で索敵と明かりの役割を担っているリアラさん、その後ろを魔力モンスターであり後方爆撃要員シャルロッテさん、最後尾にリーダーの俺という編成だ。
改めて見てもメンツがえぐい、というか隙がどこにも見当たらない。
なによりリアラさんの蝶は、魔力を意識して数こそ少ないものの、周りを照らし、辺りを索敵するという面で非常に優秀だ。
ついつい気が緩むのは無理もない。
「……で、フレアとイレーナに対する対策は?」
「まだそれを気にするタイミングじゃないから安心してていいよ。むしろ気にして変な事しようとするのが駄目だ。いつも通りでいい」
「……そう。考えてるなら、いいわ」
俺は先程受け取った地図を眺めながら、シャルロッテさんの問に答える。
そう、まだここじゃないんだ。
ダンジョンはいくつもの分岐をしているが、間違えた分岐を選んだとしても大体は同じ場所へつながっている。
間違えてはいけない分岐はこの地図を見る限り、二つだ。ゴール手前とおよそ中間地点の分岐、ここが肝だ。
俺が地図を片手に頭をフル稼働していると、前方の足が止まる。
「どした?」
「あ、あの、前の方に……ゴブリンが…」
ここで俺はこの世界に来て1か月と少しを経て初めて、魔物にエンカウントした。




