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第1話 あの世界の学園へ向けて

評価・ブクマ・応援、是非是非よろしくお願いします!


作者が喜びます!(/・ω・)/


「準備できた?」

「…うん」

「学園できちんと友達作るのよ」

「…はい」

「緊張してる?」

「…やばい」



日が高く照り付ける頃、俺は木々から漏れ出た日の光をぼんやり見つめながら、三十路の金髪女性に襟元を正されていた。

目の前に聳え立つ俺の家、らしい建物は周りと比べてもなんら変わったところのない至って普通の一軒家なのだが、


(街の風景が古きヨーロッパを思わせる石のつくりの建物で埋まってる。さっきから何度も家の前を馬車が通っているのを見ると、いわゆるナーロッパという奴か?)


ナーロッパというのは、主になろう系小説に登場する中世ヨーロッパを舞台にしたであろう異世界作品のガバガバすぎる世界設定の事だが、この世界もまさにその世界観をなぞったものであろうという、うっすらとした確信が俺にはあった。



「ちょっとほんとに聞いてる?」

「うん」



目の前でフランクに接してくれるこの女性も、朝からこれまでのやり取りから察するに、俺の母親のようだ。


とりあえず頭は混乱したままだが、憑依系異世界転生みたいなものだと説明づけて、流されるままにここまで来てしまった。


憑依系なのだとしたら、あまり突然人格が変わった事を周りに悟られると面倒そうだからと、朝から「うん」「はい」「やばい」の三つの単語だけで凌いでいたが、なんで乗り切れちゃうんだよ。



「シエル、大きな荷物はもう積んであるから。あとは自分の持ち物と学園での生活費、落とさないで」

「うん」



そう、この世界における俺の名前はシエルという名前で、どことなく女の子らしい名だと思って急いで股間を確認してみたが、憧れの美少女へのTS転生とは流石にならなかった事が分かった。


とまあそんな事はどうでもいいとして、ここで大事なのは俺が今日、遠方の学園へ入学するために、この家を発つという部分だ。

なぜここが大事なのかというと、



「あなたもあの『エンドレッド魔法学園』に入学するんだから、しっかりしないとダメなのよ」

「……やばい」



『エンドレッド魔法学園』その名前は前世の俺が、最初で最後に読んだライトノベル『パーティーに追放された僕は、最強の能力に目覚め、レベル9999で世界を無双する。するとツンデレ美少女に懐かれ、人生逆転しました。今更パーティーに戻れと言われてももう遅い』に出てくる主人公と、その仲間達の通う学園と全く同じ名前だったからである。



(マジか俺、よりによって『僕最強』の世界に転生したのか?)



もしそうだったら…もう考えるのやめようかな。


先の展開が読めるだけに、考えるだけで憂鬱な気分になる。

ナーロッパ世界観に主人公ご都合展開、そしてそれに付き合わされる周りの人達……。


溜め息をつきながらリュックサックを背負って馬車に乗り込む。


お別れだ。

今日知ったこの女性でも俺の母親なんだ、このまま別れるのはどこか申し訳ない。

僕は振り向き、母親の目を見つめる。




「…それじゃあ、行ってきます。お父さんにも、よろしく言っといて」

「……っ!?」



頭を掻きながら別れの挨拶を言ってみたが、母親らしき女性は口に手を押さえ、目を丸くして驚いている。


お父さん、不思議とその単語が頭に浮かんだから言ってみたのだが、何かしくじったのかもしれない。

俺は急いで馬車の扉を閉めると、馬車はおもむろに動き出した。



「元気でね!」



母親は最後まで手を振って俺を見送ってくれたので、俺も恥ずかしがりながらではあるが、手を振ってそれに応えた。


シエルという男がどんな男であったかなどは知らないが、とりあえずは自分の家族のことは乗り切ったと考えていいだろう。

やっと3単語縛りからの解放だ。


俺は両手を挙げて背中を伸ばすと、背負っていたリュックサックを下ろし、中身を確認する。朝からずっと落ち着かない時間を過ごしてきたが、思えばシエルについて自分は何も知らなすぎだ。


恐らく昨日からシエル自身が用意していたのであろうリュックサックを慌てて持ってきたのだが、何かシエルの人物像が掴めるようなものは入っていないだろうか。


「なになに…パンツに筆記用具、パンツ、パンツ、参考書にお菓子、そしてパンツ、パンツ、パンツ……どんだけパンツ入れてんだ、こいつ!」


え、もしかしてこいつお漏らし野郎なのか、と本気で心配になるがパンツの山をかき分け、一冊のノートを引っ張り出した。

何か日記のようなものだったら嬉しいのだが、と期待してみたがノートをひっくり返してみて俺は眉をひそめた。



『英雄になるために!』



ノートの表紙には、でかでかとその文字が書かれていた。

なぜヨーロッパ風世界観で日本語なのか、という疑問は抱くだけ無駄だという事を俺は知っている。

でも、



「よりによって、英雄、か…」



俺はふっと息を吐くとノートを膝の上に置き外の景色を眺める。

俺は知っている、決して俺が特別な存在になんてなれない事を。

俺は知っている、俺はこの物語のモブでしかないのだという事を。


ガラスに淡く反射して映る茶髪のイケメンへ問いかける。


(お前はどうしたいんだ?)


俺は顎に手を当て視線を膝元へ向ける。


そしてゆっくりとノートの1ページ目を開いた。

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