第23.5話 幕間 すごろく戦争
本日の更新も幕間スタートです!
溜め息をつきながら私は、教室の扉に手をかける。
「あ、あの、シャルロッテさん、その、扉、開けないんですか?」
「……いや、毎度の事だからいい加減気を付けようと思って」
横で首を傾げるリアラさんは私がさっさと扉を開けない事を気にしているようだったが、安易に開けてしまえば過去二回の悲劇を再び辿る事になる。
しかし、今回は人影もなく、音だってあまり聞こえてこない。
奴もいなくなっているのかもしれない。
ずっと扉の前で突っ立っているわけにもいかないので、私は意を決して扉を開ける。
「……なんでいるのよ」
「いや、暇だったからさ。あ、リアラさんもいるじゃん」
「あ、お昼ぶりです!」
やっぱり奴は教室にいた。
しかし今回は前回までのようにヘンリやアレク君はいない。
だがシエルの机を見て私は絶句する。
「……あなた、一人でいったい何してるのよ」
「いや、見たら分かるだろ?一人すごろくやってんだよ」
「なに一人遊びの極致を極めてるのよ、あなた!?やる事ないなら帰りなさいよ」
シエルは一人でさいころを片手にすごろくを楽しんでいた。
確かに最近ダンジョン演習関連の授業が続き、大分疲れているのかもしれないが、そろそろ心の病気を疑った方がよいのだろうか。
「すごい……私こういうのした事なくて、一緒にしてみてもいいですか」
「おお!いいよいいよ!ちょうど三人でやってた所だから」
「……一人三役ですごろくやって事よね。架空の人物を二人を作り出すって、あなたいよいよよ…」
「とか言いながら、シャルロッテさんもしたいんだろ?入れてやるから、来なよ」
「はあ……ま、ここで断ってもめんどくさいから、入ってあげるわよ!」
「……最近段々シャルロッテさんの事分かって来たよ」
私は、仕方なしに、自分の席に座ると、途中までシエルが一人で進めていたすごろくを眺める。
駒はシエルの小さくなった消しゴムを使っていた。
さいころは三つ、ちょうど人数分あった。
「……全部丸くなってる上に黒くなって汚いわね」
「仕方ないだろ、これしかなかったんだから。また最初からだと時間がかかるから、この続きからでいいね。じゃあ順番はさいころ振って、1か2だったらシャルロッテさんから、3か4ならリアラさん、5か6なら俺から始めていくぞ。」
よくよく見てみると、駒たちはあるマスに集まっていて、どの駒も差はないようだった。
順番決めはシエルが行うようで、さいころを持ち上げて転がそうとした時、すかさずリアラさんが手を挙げる。
「あ、あの、シエルさん!そのサイコロ!……まさか1の所に重りつけてないですよね?」
「何を言ってるのよ、いくらこの男でも、ただがゲームで……」
「な、なぜバレた!?」
「やってたんかい!?」
シエルからサイコロを奪い取って重さを確認してみるが、確かに1が少し重いように感じる。
1が下に来れば、出る目は6。
肉眼でこのイカサマに気付いたリアラさんがすごい……っていうか、
「何してんのよ……」
「心底人を見下したみたいな顔で見ないで、シャルロッテさん。魔が差した、といいますか…後々悪い事に使えるかなと思ったというか…」
「これは捨てる!」
「やめろお、俺の血と涙の結晶!!」
私がゴミ箱へサイコロを投げると、シエルは涙を流しながらサイコロを見送る。
「っち、リアラさん、やるな…」
「……私の目が黒いうちは、不正は、許さないですよ」
「二人共、これもっと楽しんでやるものだって事、思い出して!」
二人がすごろくと関係ない所で火花を散らしている横でさいころを振ると、その目は1。
「じゃあ、私からね。それじゃあ始めるわよ」
「くっ、先手をとられたか!」
「……こ、これは最後波乱が起きそうですね」
「いや、このゲーム、順番あんまり関係ないでしょう……はぁ、3ね」
私は消しゴムを持ち上げて駒を三つ進める。
「えーと、『4マス戻る』?あぁ、残念……」
「何やってるんだ?4マス戻った所のマスの指示にも従うんだぞ?」
「え、普通戻った所は空白じゃなかったかし……ほんとだ、なんか書いてある。えーと、『4マス進む』。え、馬鹿なの?何この無駄な行ったり来たり」
「ほ、ほんとですね…」
4マスを永遠に行ったり来たりする羽目になりそうだったので、とりあえず4マス戻った所に駒を置いておくことにした。
「じゃ、じゃあ次は私……えい!あ、5です!」
リアラさんが消しゴムを持ち上げ、5マス先に進める。
「えーと、『トイレをしていたらゴキブリが出てきた。そういえば今朝の牛乳の賞味期限過ぎてたな。15マス進む』……ラッキー!」
「いや、もっと脈絡考えなさいよ!?ゴキブリ出てきて、なんで今朝の牛乳思い出しちゃったのよ!!そんな踏んだり蹴ったりで15マスも進むのも、絶対おかしいから!リアラさんも受け入れないで!」
「おいおい、今のリアラさんのファインプレーにけち付けるつもり?」
「ただの運ゲーにファインプレーなんてないのよ!」
「あ、私あと6出せばあがりです」
「クソゲー過ぎない?」
シエルが煩わしいと言わんばかりにサイコロを手の中で転がすと、一気に盤面に放り投げる。
「こういうのは落ち着いて、祈るように……死ねえええ!!」
「あなたの情緒!?本気になり過ぎだから!」
「……えーと、くっ…2だ」
シエルは悔しがりながら消しゴムを二つ先に進める。
「なになに、『6マス戻る』?えーと、次が『2マス戻る』で、次が『12マス戻る』、『6マス戻る』、『15マス戻る』、『2マス進む』、『18マス戻る』でスタート地点、と…」
「なんか光の速さで下まで落ちてった人がいるんだけど!?このすごろく絶対おかしいって」
ここまで来るとあのイカサマサイコロを使いたくなる気持ちも分かってきた。
しかし一人の悲しい犠牲のおかげで、出してはいけない目が分かった。
「私が今、最初に始めたとこの一つ前にいるから、3を出したら駄目なのね。リアラさんに追いつくためには6…よし!」
私は念を込めてサイコロを振る。
サイコロはころころと転がって、5!
「とりあえず地雷は回避、と。えーと、『2マス戻る』?えっと、2マス下がったら次は『6マス戻る』だから……(以下略)」
こうして私とシエルは仲良く最下層へ落ちたわけだが、リアラさんはどうなんだろうか?
「……俺も何度もあそこには行けたんだが、その先が一番厄介なんだ」
「…え、ほんとね。6以外だったら全部最低20マスは戻るマスになってる」
「そう、ここで6を出さなければ、また……」
「あ、6出ました!」
「「…………」」
一人喜ぶリアラさんを無視し、シエルはサイコロを手に取り、私は上着を脱ぐ。
「どっちが最弱か、決まるまでやるぞ!」
「望むところよ!!」
「ちょ、二人共、明日はダンジョン演しゅ……」
「ぐあああ、1だ!!」
「ふ、私はこれまでも出る目の数字だけは悪くなかったのよ」
この勝負の結末は最早語る必要もあるまい。
二人で永遠にすごろくをやっていると、遅くまで居残っていた私達に怒ったリゼ先生が乱入し……
あとのオチはおよそ皆さんの想像通りだという事は言っておこうと思う。
こうしていつもの放課後は、終わっていく。




