第21話 同じこの世界におけるモブとして
しかし、頭を下げるリアラさんに対して俺の意志は決まっていた。
「いや、皆がどう思っているのかは知らないけど、俺は班の順位なんて気にして演習に参加するつもりはない」
「……ど、どうしてですか?」
「他の奴らを気にして焦ったり、いつもと違う事をしようとするのが一番駄目なんだよ。自分達は自分たちのやる事を精一杯やる、その結果として順位はついてくるんだ。だからこの順位制度は多分だけど、教員側からの罠なんじゃないかって俺は思ったよ」
俺は目を瞑って浮遊魔法の詠唱を頭の中で終わらせると、体を浮かべながらリアラさんの特訓法を実践する。
まだ体はぐらつくが、この1か月で浮かんでいるのを維持するだけなら少しはできるようになった。
「そう……ですよね。シエルさんは間違ってないと思います。……でも…」
「何か勝たなきゃいけない理由がある?」
「…………はい。私の勝手になっちゃうんですけど……」
「話は聞くよ。話して楽になる事もあるだろうから」
リアラさんは何かを考えるように顔を見上げると、何か覚悟を決めて俺の前に向き合う。
「わ、私、今……大したことではないですけど、ちょっと女子の人達に避けられたり嫌がらせされたり…」
「……いじめ、みたいなもの?」
「いえ、まだそこまでは……でも、私こういう性格だし、中等部の時の事もあるから……このままいったらまた、あの時みたいになるんじゃないかって……」
リアラさんはまっすぐに俺の目を見ながら、目を赤くする。
「……怖くて、苦しくて、でもあの時とは違うって、見返したくて……でも何もできなくて……。その時、シャルロッテさんの言葉を思い出して……」
「…………」
『あなた、また何かされたら、うずくまってるんじゃなくて誰かに言いなさい。…私だっているんだから』
シャルロッテさんがどういう気持ちでそんな言葉を投げかけたのかは分からない。
でも少なくともリアラさんにとって、たった一人自分を助けてくれたシャルロッテさんの言葉は、何よりも大事な宝物として胸に受け止めていたのかもしれない。
「だから……私、変わろうと思ったんです。……でも一人じゃ、何もできないから……皆さんに頼っちゃうことだって多いかもしれないんですけど、精一杯私にできる事はしますから……だから、頼らせてもらっても、いいですか?」
リアラさんは目を伝う涙を必死に拭いながら頭を下げる。
きっとリアラさんもシャルロッテさんの言葉を自分なりに何度も考えたんだと思う。
誰にも助けを求める事ができなかった過去。
一人でできないなら、誰かに頼ってもいいんだ、ってやっと気づいたんだ。
「……リアラさん、俺はさ、リアラさんに頼られるほど強くない。浮遊魔法だってできない、普通の魔法だってできない、うまく立ち回ることだって、できない。今でもたまに思うんだ。自分はズルをしてここにいるだけで、本当はいちゃいけないんだって。何かを変える資格なんて、俺にはないんだって」
「…………」
「同じなんだ、俺とリアラさんは。俺は周りを見れば皆がいてくれた、だからいてもいいんだ、って思えた。救われたんだよ」
俺は目を閉じながら、思い出すように続ける。
この世界に来て、色んな人と出会って、色んな人と話をした。
その一人一人がいたから、俺は今もこうして、やっていけてる。
「だからさ、少なくとも俺はリアラさんを見捨てたりなんてしない。どんとしてたらいい、俺もリアラさんも、皆も、頼り合いながら、助け合えばいいんだよ」
「………う、うぅっ、ありがとう、ございます」
「……あなたにとって私がどう見えているか分からないけど、私にだってできない事はあるのよ」
すると、後ろの方から、台を降りながらリアラさんへ声を掛けるシャルロッテさんが歩み寄って来る。
アレクやヘンリ君たちがその後ろを続く。
「そうだよ、リアラさん、僕なんて結構隠れてるけど何にもできないで有名だからね」
「俺も戦うこと以外はとんちんかんだぞ!」
「確かに、この前の小テスト、一人だけ赤点だったもんね」
「そう!0点じゃなくて、赤点だったんだよ!感動したなあ」
アレクが呆れた顔でヘンリ君をジト目で見ていると、シャルロッテさんはリアラさんの元へ近寄り、1枚のタオルを渡す。
「……だから私達だって、あなたを頼るし、頼りにしてるんだから、シャキッとしなさい」
「……はい」
「……頼る事に罪悪感とか持ってるのかもしれないけど…頼られるのも意外と、悪くないのよ」
「はい……本当に、本当に、ありがとうございます」
リアラさんがタオルを顔に当てて涙を拭くと、目を赤くしながらも笑顔で返事をする。
俺は浮遊魔法と魔力の循環を解除して、周りを見渡す。
「よし、ならみんな揃ったようだし、今後の目標を発表します!」
「……目標?」
「そ、やっぱり何事も目標を持って活動しないとな、という事で…」
一瞬だけ間をおいて皆の顔を見渡す。
不思議とその顔ぶれを見ていると、自信が沸いてくる。
「目標、ダンジョン演習をぶっちぎりでクリアする!!これでどうだ?」
「……賛成ね、負けるわけがないわ」「僕、できるかな」「俺がいりゃ大丈夫だろ?」
「………シエルさん……」
「今回の演習は所詮ただの演習だ。楽しまなきゃ、損だろ?」
「………はい!!」
俺の掌くるっくる返しに、リアラさんが笑顔で頷く。
そうだ、俺も少し緊張していたらしい、これこそが俺であって、シエルだ。
「うん、ダンジョン演習が楽しみだ」
5月の足音はすぐそこまで来ていた。




