第14話 その強さと優しさに触れて
「…では、皆さんも彼らを見習って、怪我のないように模擬試合してみてください。もし大怪我したら私が治しますから」
リゼ先生が掛け声をかけると、クラスの皆はペアの人に声を掛けて、俺達が戦っていたのと別の台の上で続々と模擬試合を始める。
「…大丈夫?」
「……この惨状が大丈夫に見えますか?晒し者ですよ晒し者」
「……私はナイスガッツだったと思うわよ。まあ反省したようだから、もう許してあげますけど次の授業は真面目にね。あと魔法の事も、いつか聞きますからね」
「………はい」
地面に伏せていたままの俺に声を掛けたリゼ先生は俺の肩をポンと叩くと、そのままどこかへ行ってしまった。
ずっとこうしてるのも子供みたいなので、タイミングを見計らって起き上がる。
やっぱり勝てなかった。
全部が俺より上だった。
そもそも勝てるはずなかったんだ。
(……いや、これが駄目なんだよ)
ヘンリ君が自分よりも優れている。
そんなの事実として知ってるけれど、それを認めてしまえば、同じなんだよ。
少なくとも俺は、駄目なんだ。
その時、ふいに俺の肩が叩かれる。
「よ、大丈夫か?」
「……ここはどこ?私はだーれ?」
「記憶喪失でさっきの戦い無かった事にしようとしても無駄だぞ」
俺の作戦すらも看破し、片手に木刀を持ちながら俺に向かって手を伸ばす、青色の混じったラノベのキャラクターのような髪色をしているこいつは、ヘンリ君だ。
俺はその手を掴んで立ち上がる。
「…よっと。サンキュ」
「いいって、いいって。にしても結構飛んだな」
「クラスメイトの頭に落ちたらヤバいと思って、咄嗟に力込めたらこんなに飛んじまった」
「なるほどな、意外と冷静だったのな……ってお前、血出てんじゃん、膝小僧」
そう言われて見てみると、確かに俺の膝小僧は擦りむいたのか、血が出ていた。
落ちた時、それなりに勢い残ってたからな。
「待ってろ、確か先生が救急箱持ってきてた気がするから。ちょっと取りに行くわ」
「あ、うん、ありがと!」
俺が返事を返す前にはもうヘンリ君は走り出していた。
こんな傷、大した傷じゃないのに。
俺はまたその場に腰を下ろして膝の傷を見つめる。
(くっそ、また悔しくなってきた)
この戦い負けたくなかった。
というのも、ヘンリ君が原作でグレた理由に、その強さがあるんじゃないかと睨んでいたからだ。
原作中にこんなセリフがあった。
『ヘンリ君は最初はいい人だったんだ。こんな僕にも優しくしてくれて、そして僕なんかより何倍も強くて人望もあった。でも、いつの日からか僕を見てくれなくなった。強さばっかりを求めるようになって、いつしか弱いままの僕を許してくれなくなった』
これは物語の序盤から中盤、その頃には一人でダンジョンに潜り始めていたアレクが、酒場でシャルロッテさんに対し自分がヘンリ君に追放された旨を説明するときのセリフだ。
もちろんこれに対しシャルロッテさんはヘンリ君への怒りを募らせるのだが、このセリフから俺は、ヘンリ君がグレた原因を見つけていた。
つまり、ヘンリ君の周りにヘンリ君の強さを凌げる人がいなかったんだ。
皆がヘンリ君の強さを崇め、皆がヘンリ君の強さに甘えた。
きっとそんな現状に甘んじる事が、ひたすら強さを追い求めたかったヘンリ君にとって許せなかったんだ。
だから俺が、全部知ってる俺だけは、そういう奴になったら絶対駄目なんだ。
「ほいっ!持ってきてやったぞ」
「……あんがと」
「なんだ?まだ引きずってんのかよ。足出せ、足」
「いや、いいよ、一人でできる」
「ここまで来たんだ、俺にもっと授業サボらせろ」
「そういう理由?!」
そう言うとヘンリ君はいたずらな笑みを浮かべて俺の足を奪う。
ヘンリ君は一瞬傷口を眺めると、救急箱を開けて中身を物色する。
俺は足をヘンリ君に向けながら、不思議な感覚だった。
「なんか、すごい違和感。こういう事絶対しなさそうなキャラなのに」
「どんなイメージだよ。俺だって人並みに人を思いやる心くらい持ってるっつーの」
ヘンリ君は少し笑いながら答えると、消毒液のような液体の入った瓶を取り出す。
まるで普通の生徒と変わらない、そのままのヘンリ君がそこにはいた。
俺は唇を噛みしめて、覚悟を決めて聞く。
「……ヘンリ君、やっぱり君は強くならなきゃ駄目なのか?」
風が俺とヘンリ君の間を通り抜ける。
春のしっとりとした温かい風が、少し鬱陶しかった。




