第13話 負けられない戦い
『アレク、お前は俺のパーティーから追放する』
『な、なんで…』
『お前は足手纏いなんだよ。皆そう言ってんだ』
『そんな…』
はあ、っと俺は溜め息をつく。
ネット小説で何回も見た、いつもの追放のパターンだ。
真面目が取り柄の主人公が、強さだけを求める短期なリーダーに疎まれて追放したら、その主人公実はめっちゃ優秀でしたパターンだろう。
そんな風に予想を立てて読み進めていくが、予想を全く裏切らない展開は、読む気を無くさせる。
「でもま、こんなアレクとヘンリがこじれる前に、誰かが二人の間を取り持ってやればよかったのに……」
結局そんな気の利いた奴がいなかった、って事なのだろうか。
それとも…
「…負けられない、な。少なくとも今の君にだけには負けられない」
「……?」
辺りを見渡すと、クラスの皆が俺とヘンリ君を囲うように座って様子を伺っている。
この前の決闘の時のような塀はないが、皆の座る床から一段階段を昇った台の上で戦っている。
しかしもし浮遊魔法が暴発し、俺の体がクラスメイトの頭の上から突っ込むような事態になったら最悪賠償問題に発展する。
「だがしかし!俺には秘密の訓練の成果がある!魔法を使えない素人だと思ってたら大間違いだ、ヘンリ君」
「ほお、なら見せてもらおうか」
「喰らえ、ファイアー!」
俺は手を前に出して、叫ぶ。
しかしいくら待っても、何も出てこない。
俺は焦って左手を何度も振って確認する。
「……え、なんで出ないんだ?出ろ!出ろ!」
「……こっちから行ってもいいのか?なら行くぞぉ…ぉおおおお!あっつぅうう!」
こちらへ向かって木刀を構えなおし、直線でやって来たヘンリ君へ、ちゃんと頭の中で詠唱していた火の魔法を発動させる。
油断もあったのだろう、俺のファイアはヘンリ君に直撃する。
「ははは!見たか、この攻撃の効果は昨日のルーベルトさんで確認済みなのだよ!」
「「「きったね!」」」
「名付けて『出ないと見せかけて本当は出るんだなこれが』作戦!」
「作戦名もそのままだ!」
アレクとシャルロッテさん、更にはジャック君までもがジト目でこちらを見ているが、無視する。
まともに戦って、原作中でも学年最強格だったヘンリ君に勝てるわけないんだ。
「…っかああ、やられたぁ!やっぱ面白いわお前、まさかそんなすげえ作戦だったとは」
「あ、ありがと」
「絶対今あの男、あっさり認めてくれたヘンリに罪悪感感じてるわよ」
「確かに歯切れ悪かったよね」
「そこ、うるさい!」
観客席に向かって怒鳴るが、やっぱりこのヘンリ君は滅茶苦茶いい男だ。
罪悪感は確かにあるが、まだ他にも……
「シエル君、これはクラスのお手本の試合です。そういうのいいから」
「……いぇっさー」
リゼ先生の説教で、俺の十八番が封じられてしまった。
まぁ仕方のない事だけど、
「え、ならどうやって勝てばいいんですか?」
「……し、知らないわよ。あとそんな純真無垢の目で先生の方を見ないでください。普通にやってればいいですから」
先生が困ったように答えるが、普通にやって勝てるなら誰も困らないんですよ。
「そういう事だ。申し訳ないが、さっさと終わらせてもらう」
ヘンリ君はさっきの魔法の一撃から立ち上がり、顔を拭いながら俺に向かって言う。
きっと本気で俺を倒しにかかってくる。
俺は負けるのか?
いや……
「勝った気でいるようだけど、俺の隠し芸はまだあるんだぜ」
「なんだ?先生のモノマネができるとか、そういう事か?」
「そう!『シエル君、そういうのいいから』」
「ははははは!意外と上手いな、お前!リゼ先生の声帯そっくり!」
「……あいつら先生に殺されたいの?」
「……多分そうなんだと思う」
「………二人共、授業が終わったら、職員室まで」
「おい、先生に怒られちまったじゃねえか」
「いいじゃないか、一緒に怒られようよ」
「いや、俺は……」
その瞬間、俺の姿がヘンリ君の前から消える。
ヘンリ君の隙をつくために頭の中で詠唱しておいた浮遊魔法だ!
しかしヘンリ君も一瞬で状況を理解して首をぐるりと後ろへ曲げる。
「なんだ、お前、それ使うんだな」
「使わないとは、言ってない!」
大丈夫だ、距離は少し行き過ぎた所があるが、部屋での自主トレとルーベルトさんとの訓練のおかげで、ある程度ヘンリ君の後ろで俺の体はストップした。
そして同時に頭の中で火の魔法の詠唱をする。
「ファイアー!」
「今度は普通に出てきたな」
ヘンリ君は俺の姿を補足すると同時に構えていた木刀を横薙ぎにして、俺の火を真っ二つにしてさらにヘンリ君の水の魔法で打ち消す。
そう、ヘンリ君の得意魔法は水の魔法。
自らの武器に纏わらせたその魔法を前に、数多の生徒、魔物は打ち負かされていた。
そんなヘンリ君に勝つ。
「生半可な覚悟で戦ってないんだよ!」
俺の体はすでにヘンリ君の後ろに飛んでいた。
そしてヘンリ君がまたしてもその動きを読んで、振り向こうとしたところで…
(もう一回!!)
ヘンリ君の振り向いた、その反対側に、俺はいた。
(とった!)
あとはこの前ジャック君にしたように、ヘンリ君の体を浮遊魔法で吹き飛ば…
「悪いが、俺だって負けたくねえんだ」
「……な!?」
俺が力を踏ん張っていた軸足の、その下にヘンリ君の水が…
読まれてたのかっ!
いや、見えてたんだ!
そして軸足をとられた俺の体はそのまま浮遊魔法の推進力に吹っ飛ばされ……
ベチン、とクラスメイト達を飛び越えた先の地面へうつ伏せに落ちた。
多少の衝撃は浮遊魔法で軽減したが、もはやここまで吹き飛んでしまえば戦えまい。
ヘンリ君の木刀を使う訳でもなく、俺の火の魔法を使う訳でもなく、何が起こったのかよく分からないまま終わった試合に対し、クラスメイトは苦笑いを浮かべるだけだった。
こうして俺とヘンリ君の戦いは、すごい気まずい空気の中終わった。




