第12話 実は学年最強の男
俺とヘンリ君はお互いに向き合い、目を瞑って集中する。
ヘンリ君は左手に木刀を持ち、俺は両手を合掌して魔法を感じ取る。
昨日までのルーベルトさんとの訓練の成果だ。
「…これどういう状況?」
「あ、シャルロッテさん。僕はよく知らないんだけど、どうやら魔法の打ち合い訓練をふざけ合いながらやっていたシエル君とヘンリ君をリゼ先生が見つけて…」
「罰として皆の前で魔法を使った試合をするように言われた、ってところね…。皆への指南のお手本として」
「まさにその通り……」
「まんま、あいつらの自業自得ではあるけど、シエルからしたら、酷ね」
「うん……ヘンリ君、ああ見えて学年でもトップの実力って言われてるからね」
アレクとシャルロッテさんは二人して憐みの目を向けてくるが、この魔法を使ったヘンリ君との模擬試合、正直俺には勝ち目はない。
しかし今、ここにはクラス36人分の視線が集まっている。
誰だって赤点のテストをクラス中に晒されたり、マラソン大会でビリを取るのを見られれば、次の日の学校を休みたくもなるだろう。
醜態を晒すという意味で今回のヘンリ君との戦い、まさにその状況なのだ。
クラスメイトの前で負けてなんていられない、だけど勝ち目も少ない。
「あまりにひどい怪我をしたら私が治すから、思い切りやりなさい」
「はーい」「……はい」
そうだ、思い出した。
リゼ先生、彼女の得意魔法はなろう系チート能力でお馴染みの、ヒールだった。
普通くらいの怪我は治してくれないんだ、と言いかけたが、すんでのところで飲み込む。
これ以上余計な事は言うべきでない。
「皆の手本となる戦いをするように……では、はじめ!」
リゼ先生が始まりの合図を出すが、お互い一歩も動かない。
静かな時がただ過ぎる。
そしてゆっくり木刀を自分の目の前に持ち上げるヘンリ君。
ヘンリ君、原作『僕最強』の中では、最初から主人公アレクを陰湿なほどにいじめ、挙句パーティーから追放するという、ざまあの星の元に生まれてきたようなキャラとして描かれていた。
もちろんアレクを追放したヘンリ君には可哀想とも思えるほどの仕打ちが待っているのだが、それは今関係ない。
大事なのはその性格、俺がこの世界に来てからというもの、原作くらい性格の悪いヘンリ君というものを見たことがなかった。
見ている限り、アレクにだって普通に接している。
それではなぜ原作の中でヘンリ君はアレクをあんなにいじめていたんだ?
頭を振ってそんな考えを振り払う。
違う違う、今はそんなこと考えてる時間じゃないんだ。
思い出せ、ルーベルトさんの特訓を……
『「太陽よ、火の鳥よ、われの心の灯に炎を授けたまえ」……本当にこれで合ってます?』
『あぁ、火の魔法の呪文は確かこんなのじゃった気がするが…』
俺は不思議がるルーベルトさんを一瞥し、なんで出ないんだ、と手を振っていると…
なんか出た!
そしてそれは偶然にも目を瞑って考え事をしていたルーベルトさんの顔に直撃する。
『あっつ!ワシに恨みでもあるのか!』
『ま、マジですんません。でも俺にもできましたよ!ルーベルトさん!』
『本来この魔法は小学生がやっとる程度なんじゃがな…あとは反復練習あるのみ!地獄の詰込みじゃあ!』
『ええええええ!』
うん、あんまりいい思い出は思い出せなかったけど、今日まで練習してきた火の魔法の感覚は思い出した。
でも相対するヘンリ君、確かその魔法は…
原作知識を思い出そうとしていると、ヘンリ君は目を見開き木刀を肩の後ろまで振り上げる。
次の瞬間、ヘンリ君が木刀を振り下ろしたかと思えば、水しぶきを上げて水の刃がこちらへ猛スピードでやって来ていた。
「……っぶな!」
水の刃は俺のいた所を通り過ぎると、ただの水となってその場にパシャリと落ちる。
俺は事前に原作でヘンリ君の魔法を知っていたため、右足を左後ろに下げ体を捻る事ができたが、知らなかったらと考えると恐ろしい。
ゆっくりとヘンリ君の方へ振り向く。
「ん?どうした?ただの挨拶だぞ?」
「そ、そそそ、そそ、そ、そうか」
「動揺しすぎだから、シエル君!」
アレクが何か言ってるようだが気が抜けない。
原作の時から思ってたけど、やっぱりこいつ普通に滅茶苦茶つよいじゃん!
俺は膝に手をつき、そんなヘンリ君を打ち倒す方法を探す。
あるはずだ、何か。
……シャルロッテさんの胸を触る以外の方法で!
ヘンリ君との戦いが今幕を開けた。




