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クソラノベの世界に転生した俺は原作を破壊する事にした  作者: 雪本 弥生
第13章 物語の主人公が抱く嫌な予感は当たるもの
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第110話 プランB


8月7日 17時46分



「つまり僕のプランAとしては、君らの友人探しの一貫という理論を盾にグリムの事務所へ押し入り、恐らく中で待ち構えてくれているであろうフローラという女に裏金資料の返還を交渉する。仮にも僕も議員の一人ではあるからね、中には招き入れてくれるだろう」

「確かにリゼ先生が加わった事で説得力は増す作戦ですけど、なぜフローラさんが居ると思ったんですか?」

「ただの推理だよ。僕が思うに、シャルロッテ嬢の身柄は間違いなくグリムが取り押さえている。あの学園内で学長先生の目を無視して行動ができるのはグリムだけだからね。しかし、グリムは少なくとも君達が学園を出るまでは学園に居た。だとするならば、目を覚ましたシャルロッテ嬢を大人しくさせる誰かが傍についていなきゃいけない」

「それができるのが、フローラさん、という訳ですか?そして今も事務所で一緒に居ると?」

「あぁ、その通り」


俺達一行はニュートさんの作戦説明を聞きながら辺りを警戒する。

ここは既にグリムさんの事務所の前、通りを挟んだ向かい側にはその建物も見えている。

だから俺達は道を挟んだこちら側で再び浮遊魔法を使い、適当に選んだ大きな商店の屋根の上にのぼっていた。


屋根の下を覗いてみると、憲兵の隊員たちがまばらに闊歩しており、迂闊に下に降りる事はできなさそうだ。


「す、すぐ隣が憲兵さんの詰所、みたいですね…」


気配を勘づかれないようにか、いつにも増して小さな声で報告するリアラさん。

確かに屋敷くらい大きなグリムさんの事務所と思われる建物の隣には、それにも引けを取らない大きさの詰所に憲兵が出入りするのが見えた。

しかしそんなリアラさんを無視してリゼ先生はニュートさんへ声をかける。


「しかし、先輩はそんな作戦が本当に実現できると思ってるんですか?確かにグリムさんが相手というわけではないですけど、交渉でどうにかできる相手なのか…」

「そう、多分この作戦は破綻する。議員という紋所を振りかざしたとて、素直に話を聞いてくれるかも怪しい。だからこそプランAの代替案としてプランプランAを用意してある」

「プランプランA!?語感がちょっと面白いので、プランBにしてください」

「……っく、分かったよ、つまり僕のプラン…プラプラ…うーん、プラマイ…違うなぁ」

「ボケようとしないでください!」


恐らく憲兵に見つかったらこの中で真っ先にボコボコにされるであろうニュートさんは謎の余裕をかましているが、俺は年上二人組の会話に耳を澄ましながら小声でアレクに語りかける。


「…アレク、あの事務所の中にシャルが居ると思うか?」

「…うーん、分からない。けれど、ニュートさんの言う通りあそこにいる可能性は高いと思う。理にかなってはいたと思うよ」

「そうか、それなら…」

「でも、感じるんだ。何か…何か違和感がある。今はまだこの違和感が何か分からないけど、何か僕らは重大な事実を見逃している気がする」

「……」


アレクはじっと事務所の方へ視線を向けて目を細めている。

改めて、凄い集中力だ。

物語で主人公が何かを感じ取ったという事は、そこには確かに見逃してはいけない何かがあるという事を意味している。

しかしあのアレクですら到達できていない真実に俺なんかが辿り着けるわけもない。


俺はぎゅっと拳を握ってから、答える。


「…分かった、なら俺はいつでも浮遊魔法で離脱できるように準備はしておく。最悪を想定しながら行動するしかないか」

「…うん、そうだね。僕の方でも頭に入れて…」


「つまり僕のプランBは、強行突破だ」


俺とアレクは一緒に振り返ると、ニュートさんは人差し指を立ててリゼ先生に向かっていた。


「たぶん、あの中に入る事には成功するんだ。だけど交渉は90%くらいの確率で破断する。だから、チーム分けをする」

「交渉役と、書類奪取役とで、私達を分けるという事ですか?」


リゼ先生は明らかに眉を顰めて問いかける。

しかしニュートさんは意に介することなく、俺達を見渡しながら続ける。


「いいや、違う。フローラとの交渉役は僕がやる以外に方法はない。生徒の捜索という建前に説得力を持たせるためにも是非リゼとアレク君には同席してもらいたい。だからシエル君、君には浮遊魔法で事務所を回り込み、シャルロッテ嬢の捜索を任せたい」

「………っ!?」


ニュートさんに指をさされた俺は一瞬驚いて息を呑むが、すぐにその意図を理解する。

遅れてリゼ先生も気が付いたのか、ニュートさんへ非難の表情を浮かべる。


「……騒ぎを起こしてフローラさんの注意を引く、という事ですか?」

「ほぼほぼ正解かな。それに加えて、お互いがいざという時の為の囮になれるようにしておくという事だよ。今回危ない橋を渡ってまでシャルロッテ嬢を連れてきたのだとすれば、事務所内でのどんな些細なボヤ騒ぎでも無視はできないはず。その隙に僕も虎の子の空間魔法を使って、なんとか僕の目的を果たしてみせる。反対に君に何かがあったとしても僕が何らかの騒ぎを起こすから、戦闘にはならないと思うが君のその浮遊魔法で逃げ切る事ができるくらいの隙を作ってみせる」

「反対です!シエル君たった一人を囮にしようというんですか?」

「何度も言うが責任は僕が負う。何ならリゼが学長先生に言いつけてくれても構わない。僕がポカをして渡してしまった書類の為だけじゃない。もしもグリムが良からぬ事を企んでいるのだとすれば、僕にとってだけじゃない、この国にとって、それだけの価値ある事なんだ」


覚悟を決めたように言い切るニュートさんに、リゼ先生は言葉に詰まる。

そんな様子を見て俺は肩の力を抜き、ニュートさんに向き直る。


すると隣で少し引いたところから話を聞いていたリアラさんが手をあげる。


「あ、あの、それじゃあ私は…」

「逃げる時の為に、一人はここに置いて行こうと思ってる。状況に大きな変化があった時とか、外から何らかの魔法を飛ばしてほしい。君は見るからに、そういう魔法が得意そうだ」

「は、はい、分かりました。…でも、なんで私が、サポートの魔法が得意だって…」

「見てれば分かるさ、君はあの頃の僕とよく似ているからね」


ニュートさんはリアラさんの目を見ることなく、顎に手を置いて軽く地面をコツコツと叩きながら答えた。

きょとんと首を傾げるリアラさんであったが、そんなニュートさんをリゼ先生が少し寂しそうに見つめていた。


ニュートさんは俺にしてみれば今では頼りになるお兄さんといった性格で、少し控えめなリアラさんとはとても似ているように思えないのだが、学生時代に何かがあったのだろうか。


そんな事を考えていると、ニュートさんは笑みを浮かべてリゼ先生に顔を上げる。


「憲兵の狙いは僕だ、ここに居れば狙われる事はないだろうさ」

「…リアラさんの心配はしていません。…でもやっぱり私はこの作戦を中止して、何か他に方法を…」


「あの!」


すると一貫して作戦中止を訴えるリゼ先生の言葉を遮ってアレクが声をあげる。

俺達はゆっくりとアレクの方へ体を寄せていくと、アレクが指さす方向に目を向けて息を呑む。


視線の先では、グリムさんの事務所から一人の女性が出てくるところだった。

たなびく金色の髪の毛、そして冷たい瞳。



「……あれって…」


「あぁ、あれがフローラ。グリムの唯一の弟子であり、”消えた天才”と呼ばれた女の子。……そしてこれは、千載一遇のチャンスかもしれない」



夕日が落ちてきて少しは涼しくなったというのに、頬に汗が一筋伝うのが分かる。

あれが、フローラさん。

俺がローランさんと出会った日に、アレクやヘンリ君、リアラさんが相対したという凄腕の氷魔法の使い手。


ふと隣に目を向けてみるとニュートさんはポケットから一つの魔水晶を取り出して、ぎゅっと掌に握りしめていた。

ニュートさんは始めるつもりだ。


それを見て俺も覚悟を決めた。




作戦開始まで、残り2分



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