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第108話 イレギュラー

一旦ここで章としては区切って、次回は幕間書きます!



******




「隊長、目標は予想通り4番ストリートを進んでいますが、こちらには気付いていないのでしょうか」

「いいや、十中八九気付いているだろうな。あの男は我々の目をかいくぐり何度も議会を出入りしている、絶対に目を離すなよ」


この国の中央憲兵の制服を着た大男二人は人混みを押しのけながら、視線の先で逃げ続けるニュートとの距離を縮めていく。


2週間ほど前に憲兵の中でも信頼の重い数人にのみ発出された議員ニュートの捕縛命令。

本来逮捕されない権利を持っているはずの議員を捕える事に疑問を持つ者もいたが、命令に背く事は許されない。

それから彼らは憲兵が立ち入る事の許されてない議会の中ではなく、入退場をするニュートの身を捕えようと何度も試みてきたが、その度にニュートは姿を消し、いつの間にか議会の中に居たり、議会から居なくなっていたりしていた。


しかもその居住地も転々とし、憲兵は完全にその足取りを掴むことができないでいた。

そんな男がついに議会の外で姿を現したとなれば、こんなチャンスはない。


徐々に距離を詰めていくが、ニュートは突如として身をひるがえし背後の学生達?に何かを呼び掛けたかと思えば横の裏道へ逸れていく。


「隊長!」

「あぁ、追うぞ!」


ニュートと共に行動する者達に一瞬目を奪われるがすぐに二人の憲兵はニュートの姿にだけ視線を集め、急いでその後ろ姿をついて行く。


そして二人の憲兵が再びニュートの姿を捉えたと思えば、再びニュートは人通りの少ない路地の中へ入っていく。


「急げ!」


隊長と呼ばれていた男は声をかけて駆け足でニュートを追う。


しかし角を曲がった次の瞬間、目を見開く。



「あれ、隊長?」

「なぜ、お前が?お前は先回りをしていたはずだろ?」

「えぇ、恐らく隊長達と同じタイミングでニュートが裏路地に入っていくのが見えたので、先回りしてきたはずなんですけれど…」



そこにいたのは、当初ニュートを挟み撃ちにするつもりで先回りさせていた隊員の男だった。

突如として消えたニュートに首を傾げる3人の男達であったが、次の瞬間、その路地にコロン、と何かが落ちてくる音に反応して全員が振り返る。


そこにあったのは小さな石ころだった。


「あ、当初目標は屋根の上に居ました!今回もそこに逃げたのでは?」

「…確かに、奴のまだ我々が特定できていない魔法を考えると捨てきれない可能性だ。急いで屋根の上を調べるぞ」


彼らは一斉に頷き、一度その路地を後にする。


その路地のゴミ捨て場の中に、小さな魔水晶が転がっている事に気付かないまま。




******




「へぇ、これがニュートさんの空間魔法ですか!魔水晶の中に魔法空間をつくり出す魔法、凄い便利ですね!」

「そうだろう、そうだろう!魔力の消費がえげつないのと、珍しい魔法ゆえにこの魔法を使えることを公言して皆にマウントを取る事ができないこと以外は完璧な魔法だ。しばらく憲兵たちがどっか行くのを待ってから出よう」


アレクに対し胸を張って説明するニュートさんと俺達は、広大な草原のど真ん中にいた。


ここはニュートさんの魔法空間、どこまでも続いているようにも見えるこの草原だが、魔法空間は術者の魔力と比例してどこまでも広がり、術者の思うままの空間を生み出すことができたはずだ。


そして小石を真上に向けて思い切りぶん投げてから魔水晶の中のこの魔法空間に逃げ込んだから、今頃憲兵たちも惑わされている頃だろう。

改めて利便性も高く凄まじい魔法だ。


俺は草原の草をそっとさすりながら呟く。


「これ、ダリアさんの時と同じ感じ…」

「あぁ、君は姉御に会ったと言っていたね。姉御のとこの魔法空間はローラン先生の特製だ。ローラン先生の手を離れても尚あの空間は消えることなく存在している、という事がどれほど人外じみてるか、これは空間魔法の使用者にしか分からないだろうな。ま、空間魔法の使用者は恐らくこの世界に僕とローラン先生の二人だけなんだけどね」


ローランさんを思い出しているのか、少ししみじみと語るニュートさん。


確かによく目を凝らしてみると、この広大な草原の遠くの方はゆらゆらと風景が揺れているように見える。

恐らくニュートさんの魔力の限界があそこなのだ。

しかし今になって思い出してみれば、ダリアさんのお店があったあの魔法空間にはあのような揺らぎはどこにもなかったような気がする。


そもそも空間魔法は伝説級の魔法として扱われ、禁術指定もされていたはずだ。

原作知識の中でも浮遊魔法とは対照的に高度で習得難易度が鬼レベルの魔法として扱われていたこの魔法を使えるようにしようと試みた事はなかったが、なぜそんな魔法をニュートさんやローランさんが習得しているのか。


こんな魔法をニュートさんに伝授したらしいローランさんという人物がどれだけ凄かったのか、今回だけじゃなく初めて出会ったあの日から毎日痛感している気がする。


ふと、その時疑問に感じてニュートさんへ問いかける。



「あ、そういえばニュートさんはローランさんが亡くなった事を知って…」

「え?先生が、何だって?なくなったって何が…」

「いや、その、ごめんなさい。何もないです…」



素直に、本当に何も知らないみたいに聞き返すニュートさんの顔を見て俺は咄嗟に口を噤む。


(どういう事だ?ローランさんの弟子としてこんなにもローランさんを慕っている人が、亡くなったという事を知らない、のか?…親族にだけ急いで通知をしたという事ならば、分からなくはない。だけど、少し違和感がある)


俺は口に右手を当てて俯くと、そんな俺の様子を見たアレクがニュートさんに何やら話を振って誤魔化してくれたようだ。


(考えろ、考えろ!ここは見逃してはいけないと俺の勘が言ってる。ここからは間違えちゃいけないんだ。ここはもう原作物語の世界じゃないんだ。この選択一つ一つに、この世界を変えた俺の責任があるんだ。ヴィンダーハイム財閥、グリムさん、シャル…この3つの立場に絡まる学長先生とニュートさんという存在。ここの関係性を今一度整理してから…)


その時、ピトっと俺の左手に掌が添えられるのが分かった。

温かくて、それでも少し震えたその手はぎゅっと俺の手の甲を握る。



「あ、あのシエルさん。…わ、私達も、いますよ?」

「リアラ、さん?」

「ご、ごめんなさい、余計かもなんですけど、少し思い詰めてるみたいだったので…でも、私も、シャルロッテさんの事を大事に思ってる気持ちは同じなので!なので、その、なんていうか…」



振り返ると、必死に言葉を探しながら俺を励まそうとするリアラさんの姿があった。

思い返せば、この街に着いてからはっきりとリアラさんだけではない、アレクの姿だってまともに見る事ができていなかった自分がいたように思う。


勝手に一人で皆の事やこの世界全ての責任を背負った気になって、きっとここにシャルがいたら真っ先に俺の頭をぶっ叩いていただろう。

それを、今回はリアラさんがリアラさんなりの励まし方で励ましてくれた。


その様子を見ていたアレクもふっと笑みをこぼして俺に言う。


「シエル君、気楽にいこう。大丈夫、僕らの知るシャルロッテさんは誰よりも強いから」


アレクはそれだけ言うと隣できょとんと首を傾げるニュートさんに声をかけ、この魔法空間から外に出るタイミングの相談を再開した。


(そうだ、シャルは俺達の誰よりも強い。だから俺がすべきなのは、勝手に心配して深刻になる事じゃない)


俺は顔を上げて笑みをこぼす。


(…どんなイレギュラーでも、どんな危機的状況でも、俺なんかよりずっと強い皆を信じていれば何とかなる。俺が笑えないでどうするんだ)


アレクとリアラさんの顔を順番に見てから、俺はニッコリと笑みを浮かべてニュートさんへ声をかける。


「すいません、ニュートさんが俺tueeeしてる大事な場面に変な空気にしちゃって」

「マジで大罪もんだからね。特に僕なんて持ち弾この空間魔法しかないんだから。ま、それで君の準備ができたならいいよ、そろそろ出ようか」


ニュートさんは特に俺を問いただす事無く地面に手をおいて目を瞑る。

この人はまだ謎が多い人物ではあるけれど、信頼はできる。

今はそれでいいんだ、きっと何とかなる。

俺は一人で戦っているんじゃない。



「さて、ここから出たら憲兵たちに気を付けながら、君らの友達の居る確率が高いと踏んでいるグリムの事務所に向かおう。君らに協力してもらいたい事は道中説明するから、ひとまずは隠密行動だよ。イレギュラーが起きたら、ホウレンソウだ」

「「「はい!」」」


「それじゃ…解除」



ニュートさんは魔法空間の地面を人差し指で三回ほど叩くと、次の瞬間途端に周りの風景は変わり元の路地裏に帰ってきた事が分かる。


「やっぱりすごい魔法ですね!」

「ふふん、そうだろ!もっと褒めてくれても構わな……っ!?」


俺は立ち上がりながらニュートさんに笑顔を向けていると、ゴミ捨て場の隅に転がる魔水晶を拾おうと腰を曲げるニュートさんの横からすっと腕が伸びてきて魔水晶を摘まみ上げる。


一瞬にしてニュートさんだけではない、俺達全員の鳥肌が立った。

誰もいないと踏んで出てきたというのに、居合わせてしまった…だけではない。

ニュートさんの空間魔法の存在すらもバレてしまった。


しかし急いで距離を取って魔水晶を摘まみ上げた主の顔を確認した俺達は、全員揃って目を見開くのであった。



「…相変わらずですね、先輩。そして、なぜあなた達がこの人と行動を共にしているのか、教えて貰えるかしら」



そこにいたのは、ロリな容姿で一人一人を凛と見渡す、俺のよく知る女教師、()()()()だった。


こうして俺達は早速どでかいイレギュラーに直面するのであった。

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