第107話 空間魔法
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「…一つだけお前の質問に正直に答えてやる、クソガキ」
グリムは最後の手紙をぱたりと閉じて前を向くと、向かいに座るヘンリは瞑っていた目を開いてグリムと視線を合わせる。
もうすぐでコリントスの街にも着く頃、グリムの単なる気まぐれなのだろう。
しかしその目は単なる思い付きにしてはじっとヘンリを見据えており、何かを確かめているようにも見えた。
とは言え千載一遇のチャンス、昼寝で若干寝起きの頭をフル回転して質問を探すがうまい質問は簡単に思いつかない。
「…なんでもいいんすか?」
「それが質問なのだとしたら、答えは…」
「ああああああ!!なし、なし、タンマ!!あっぶな、高度な引っ掛けに引っかかるところだった…!」
「言うほど高度でもねぇよ馬鹿」
「ぐぬぬぬ…。それじゃあ、考えても分かんないから、単純に気になった事を。なんであんたは今日俺をここまで連れてきてくれたんだ?」
ヘンリが腕を組みながら向かいのグリムに問うと、グリムは少し目を細めて背もたれに背中を預ける。
「……そうだな、悪くない質問だ。そして答えもまた、悪くないから、だ」
「悪くないから?」
ヘンリは首を傾げるが、グリムは腕を組んで続きを説明する。
「……お前のようなアホを同行させずにこの俺に張り付かせる、この作戦は悪くないって話だ。俺が逆の立場であったならきっと同じ作戦を取った。最善手だ」
「…俺にはシエルの考えもあんたの考えもよく分からないが、どういう事だ?」
「お前のような無能にも立場というものがあるように、この俺にも立場がある。そして今の俺の大きな弱点というのもまたそこにある。俺はあくまで副学長という役職に縛られた行動しかできないという事だ。なぜなら俺の上にはあのババアが未だに君臨しているから。しかも先日釘を刺された、下手な事はできない」
腕を組みながらニヤリと笑みを浮かべるグリムの姿は、自らの状況を楽しんでいるようにも見えた。
先日、というのは前にアレク、リアラ、ヘンリの三人でグリム、フローラの二人を相手にしようとしていた際の事だろう。
そこに仲裁に現れた学長先生、というのはまさしく今後グリムが生徒に対して手をあげるような事があれば学長先生本人が出てくるという警告の意味も込められている…とアレクがヘンリに教えてくれたのを思い出していた。
そして窓の外に目を移したグリムは、おもむろにポケットから何かを取り出すと、それを親指と人差し指でつまんで左目に近づける。
「……シエルとか言うガキは、ここまでを読み切り俺がお前を手にかけるなんて事はないだろうと完全に割り切った。…そしてよく知ってる。仮に俺が犯人だった場合、必ず俺は今日の内にターゲットに接触しようとするという事を」
「…ターゲット?あぁ、シャルロッテさんの事か。そうか!それで俺に1日中張り付いてろって…」
「…シエル、てめぇにはまだ会った事はないが、俺の思考に少し似ている節がある。…お前には何が見えてるんだ?」
グリムは独り言のように呟くと、左手につまんでいたビー玉のような玉をヘンリの方へ向ける。
そこまで見てから、ヘンリにもその正体が”魔水晶”と呼ばれる世にあまり出回っていない極めて珍しい魔法道具であることが分かった。
そしてグリムはヘンリに向かって言う。
「最後に教えてやる、クソガキ。シエルのガキがてめえに俺の隙を狙わせているように、俺はお前を利用してクソガキ共を一掃してやるつもりだ。そしてそこにお前らの勝算はない。なぜなら一つ、これまでの根本を覆す重大な事実をお前らはまだ知らないからだ」
「重大な、事実?」
「話は以上だ」
それだけ言ってグリムは閉口し目を閉じる。
ヘンリは首を傾げるが、グリムは思いの外色々な情報を教えてくれたようにも思う。
なぜわざわざ教える必要のない情報を教えてくれたのかを考えると、勿論すべてが真実と思って行動する事はできないが、ヘンリはグリムの教えてくれた様々な情報をぐるぐると頭の中で反芻していく。
ちらりと窓の外を見てみれば、だいぶ人の往来も増えてきた。
もうコリントスの街に着くまで10分もかからない距離だ。
ヘンリは胸に抱える木刀をぎゅっと握り、近いうちに訪れるであろうその時に備え、イメージトレーニングに時間を費やすことに決めた。
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「シ、シエル君!いったい何が起きたの、急に血相変えて憲兵の人たちが追ってきてる気がするんだけど!?」
「それはニュートさんに言ってくれ!リアラさん、ちょっと走るけど大丈夫?」
「だ、大丈夫です、けど、シャルロッテさんは?」
「それもニュートさんに当てがあるらしい、一旦学長先生はスルーしてそっちに向かってみようと思ってる」
俺達3人は前を走るニュートさんの後ろについていくようにして簡単に現状を説明する。
アレクとリアラさんの2人は突然憲兵に追われるという状況に困惑しているが、それは俺とて同じだ。
仮にも国の政治を担ってる若手議員のニュートさんがこれほどまでに狙われるなんて、異常事態だ。
これまでどうやってこの憲兵達から逃げてきたのかには興味があるけれど、まだニュートさんから教わっていない事でよほどの事をしでかしたのだろう。
「でも、正直僕はまだニュートさんを信じる事はできないし、なにより僕らに憲兵に追われる義理はないはずだ。犯罪者になりにきたわけじゃない、僕らはただ人を探しにきただけで…」
「アレク君、と言ったね。僕の事は最悪信じなくてもいい、だけど今回の件に関しての責任は全て僕が負う。というか、君達が何も言わなくてもきっとそうなる」
「どういう事ですか?」
「それだけ嫌われてるって事さ。声が大きくて反抗的な若手新人議員なんて、そんなもんだ」
俺はそれを聞きながら、言っている事は本当なのだろうがやっぱりニュートさんはまだ何かを隠しているように感じた。
どんな事情を踏まえても現状明らかにニュートさんに対する方々からの当たりが強すぎるの事に加え、ニュートさんも俺達にそれを誤魔化そうとしている節がある。
例えば、憲兵を指揮できるほどの権力者と呼ばれる特定の誰かにとって生命線となる何かをニュートさんただ一人が握っているとか?
アレクはうーんと頭を捻りながらもとりあえずニュートさんについて行く事を決めたのか、後ろをチラチラを振り返りながら状況を報告する。
「議会の門番をしていた憲兵の人が3人僕らを追ってきてたはずですけど…一人いないですね」
「挟み撃ちにでもするつもりかな、少し固まって動こう。折を見て僕の魔法を使う」
「ニュートさんの魔法、ですか?」
「あぁ、かつてローラン先生から教わった、空間魔法をね」
その魔法はまさに、なろう小説では定番、そしてこの世界の原作物語におけるチートアレクも頻繁に使用をしていた魔法の一つ、浮遊魔法に並ぶチート便利魔法だった。




