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第103話 奇妙な噂


8月7日 15時



「悪いね、最後まで手伝ってもらって。遠慮せず食ってくれ」

「はい、もう38本目です」

「ごめん、さっきの撤回。少しは遠慮しろ」


俺達一行とニュートさんは横並びに広場のベンチに座って、ニュートさんのお金で露店で買ってきた焼き鳥を一人一人頬張っていく。

横には朝から腹が減っていたのも相まって俺達で一気に食ベ尽くされた38本分の焼き鳥の串がまとめられており、それに気が付いたニュートさんは目を細めてからはぁと息を吐く。


しかし俺達の中の誰もニュートさんに同情する者はいない。

最初は落とし物探しとお使いの手伝いだけだったはずが、頼みを一切断らろうとしないニュートさんが俺達という戦力を手に入れて調子に乗ったのか、屋根の修理から人妻の浮気調査、更には過払い金の相談まで、ありとあらゆる厄介事を引き受けやがったおかげで大幅な時間のロスをくってしまった。

やっと子供達の鬼ごっこの鬼役という最後の役目を終えた俺達が焼き鳥にむさぼるように食いついたのは無理もない話だ。


アレクはジト目でニュートさんに言う。


「というか浮気調査とか断ってくださいよ。過払い金の相談とかひどいですよ?一通り相談を聞いて、僕らに『とりあえず彼の為に全額取り返してくる事ってできる?』って聞いてきた時はぞっとしましたよ」

「わ、悪かったと思ってるよ。でもこうした市井に溢れる社会問題を政治に反映させるのが僕の仕事なんだから。ほら、焼き鳥はいくらでも食っていいから」


アレクの小言から逃げるように耳を塞ぐその姿はとても大の大人とは思えない姿であったが、俺とアレクとリアラさんは一斉に目を合わせてから、はぁと溜め息をつく。


でもそれも仕方ない。

シャルがいなくなり、学長先生からの助言を頼りにここまでやってきたもののここからの算段なんてほとんどない。

シャルロッテ失踪が本当に事件性を含んでいるのだとすれば、緊急を要するのは分かっている。

しかし何か手がかりを見つけるまでは俺達だって動きようがなく、今の所このニュートさんだけが頼りなのだ。


先程から広場を走り回る子供達をぼーと眺めていると、ニュートさんは声をかけてくる。


「君は子供が嫌いかい?」

「……嫌いではないと思います。ただ、苦手なんです。純粋すぎる相手に、どう接したらいいのか分からなくて……」

「そうか、でもそれは君が子供達と頑張って接してあげようと思い悩んでる証拠でもある。嫌いでも、苦手でも、それでも愛そうと努力する事ができる奴が結局のし上がっていく。それは政治の世界に入ってからも感じる事だ」


焼き鳥を口に運びながら笑顔で諭すニュートさんは、先程まで子供達と戯れていた近所のお兄さんというよりも最年少中央議会議員ニュートの姿をしていた。

さっきは散々小言を言ったけれど、たった1時間触れ合っただけでこの人がなぜ今の地位にまで至る事ができたのかが分かった。


この人はまっすぐで、決して裏切らない。


ニュートさんは焼き鳥を食べきると、串を片手に背中を伸ばす。


「それで、中央議会までの道案内だったね。それならば僕もちょうど用事があったんだ、一緒に向かおう」

「あ、ありがとうございます!」

「そしてこれは僕の興味の問題なんだけれど、一体あんな場所に行って何をするって言うんだい?」

「会いたい人がいるんです。僕らの学園の学長先生になるんですけど……」

「はは、なるほど。学長先生なんてふざけた肩書であんな場所に立ち入る事ができる人は一人しかいない」


ニュートさんは乾いた笑いを浮かべると、俺達を見渡して納得するように頷く。


「そうか、ならば君達は僕の後輩だったのか」

「え!それじゃあニュートさんも?」

「あぁ、10年ほど前にあのおっかないエンドレッド魔法学園を卒業した先輩になる」


誇らしげに言い切るニュートさんであったが、俺はそこで少し考える。

10年ほど前という事は、もしかして……



「もしかして学生時代グリムさんとか、ダリアさんに会った事って……」


「え……あ、あ、あ、あ、()()に会ったのか!!?ど、ど、どこでいつ!?」

「いや…つい昨日なんですけど…」

「き、昨日だと!?それじゃあもしかしてこの街に姉御が!いや、待て待て!以前姉御がこの街に来た時を思い出して…ヤバい、そういや僕5回ボコられて3回カツアゲされてる!?早く逃げなきゃ…じゃ間に合わない!かくなる上は地球爆破爆弾で……!」


「いや、ネズミが野比家に現れた時のドラえもんか!?なんちゅう焦り方してるんですか!」

「さっきまでの威厳は何処に…」

「ベ、ベンチからひっくり返ってますね」


ギャグ漫画よろしく焦ってベンチから逆さに転げてしまっているニュートさんの姿を見て、ニュートさんにとって学生時代のダリアさんがどんな人だったのか分かる。

直近でも5回ボコられて3回カツアゲされるってどういう状況だ?

学生時代一体何をすればここまでのトラウマを植え付ける事ができるのか気になるところであったが、ちゃんとこの街で会ったわけではない事を説明しておくことにした。


土埃を払って立ち上がるニュートさんはようやく落ち着いたのか、ハンカチを差し伸べるリアラさんを断りながら俺に問いかける。

その瞳は打って変わって真剣そのものであり、どこか寂しさすら感じさせた。


「……それならば君はローラン先生にも会った事があるんじゃないか?」

「そう、ですけど…」

「そうか。僕も先生の家族に関して、()()()()()を耳にしたんだ。もしかして君達がここまでやって来た理由の一つが、僕が今調査をしているこの噂に少し関与しているんじゃないのかなと思ってね」

「噂?それって…!」

「続きは歩きながら話そう。となると、どうやら時間もなさそうだ」



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