第101話 悪代官?
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俺は空をゆらゆらと泳ぐ鳥達を見上げながら、この世界と俺が読んでいたラノベとしての原作世界とでどこが違っているのかを、改めて考えてみた。
まず大きな相違点としてアレクがチート能力を一切持っていないというものがある。
これに関しては、アレクの大きすぎる力がもたらした原作での世界滅亡エンドを避けるために必須の変更であり、今更どうにもできない問題でもある。
しかし原作でのチートアレクの存在は原作中で重要な役割を与えられていた。
その一つが魔物や魔人に狙われるシャルの防衛だ。
ダンジョンや魔物、魔人を狩りまくった原作アレクとシャルロッテへのヘイトは無視できないが、圧倒的魔力をその身に宿すシャルロッテは元々魔物や魔人を引き寄せやすく、戦地において度々原作アレクがシャルロッテの防衛に奔走する羽目となっていた。
対する俺のいるこの世界においてアレクやシャルはほとんど何もしていない。
アレクを無力化し、魔物との戦争になるべく関わらないよう俺が上手く立ち回っていればシャルに危険が迫る可能性もほとんどなくなると、思っていた。
物語の強制力、又はシワ寄せというものだろうか。
原作では描かれる事のなかった登場人物によって、原作のようにシャルロッテが狙われるという場面が今、再現されている……のかもしれない。
世界秩序が滅茶滅茶になったあの世界と、この世界は違う。
冷静に状況を見極め、正しい選択肢を選び続ける必要が有る。
俺には原作アレクのようなチート能力なんてない。
だけど、俺にしかできない事もある。
俺はぎゅっと手綱を握って、再び前を向いた。
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高層の建物群が並ぶその壮観な景色に、俺とアレク、リアラさんの三人は息を呑む。
「こ、ここが……」
「さすが国家の中核を担う機能が集中する政治都市、コリントスだ…」
「話には聞いていたけど、こんなにでかいのか」
確かに『僕最強』の作中にもこの都市の名前はちらりと出ていた記憶がある。
学園からもそれほど離れていない場所に位置する都市であるが、まさしく政治都市という名前の通り国家の政治に携わる大人たちの集う場所という印象が強い。
ましては政治になんの関心もない俺達ズッコケ田舎者三人組がここに来たことはあろうはずがなく、まだ街の入り口だというのに圧倒されて立ちすくんでいた。
「……つ、つまり学長先生はシエルさんに追いかけろって事を言っていたって事は、この街で学長先生を探していくって事でいいですよね?」
「そうだね。とてつもなく広い街ではあるけれど、学長先生が恐らく立ち寄るところは絞られてる。そこを一つ一つ探していけば何かシャルロッテさんについての手がかりがつかめるかもしれない」
「まずは地図があればいいんだけどな」
俺達はひとまず歩き出して街の中を入っていく。
ちらりと街の時計台を見てみるが、時刻は既に昼の14時をまわっている。
朝、アレクを呼びに行った際ついでに訪ねたルーベルトさんから頂戴した朝刊の新聞によると、全国元老評議会が開催されるのは16時頃だったはず。
俺達よりも先に学園を出たであろう学長先生は既にこの街のどこかに居る。
「しかし普段姿を現す事のない学長先生が、これまでずっとこういう会議に欠席した事がないというのは少し意外だよね。会議の内容は毎回極秘にされているけれど、会議には学長先生も姿を現すのかな」
「……多分何かしらの魔法を使って参加はしているんだろうと思う。あの人の使う魔法については考えても意味がないだろうけど、少なくとも会議のその場に学長先生は居る。そこから何かしらの手がかりを……」
「でもそれはだいぶリスキーじゃないかな?毎回評議会の開催には厳重な警備が敷かれてる。普通に考えて一学生に過ぎない僕達がそもそも学長先生に会えるとは思えないよ。学長先生がシエル君に期待している事は、学長先生に会う事ではなく、何か別にあるのかもしれない」
「別の意図か……。もしかして学長先生は……ん?」
そこまでアレクと会話しながら俺は後ろを振り返ると、後ろをついてきているはずのリアラさんの姿がない事に気付く。
一瞬心がざわりと震えるが、すぐにその心配は杞憂である事を知る。
「あ、あの、これ落としましたよ?」
「あら、ごめんなさいねぇ。わざわざ拾ってもらってありがとねぇ」
「い、いえいえ!……あ、そうだ!」
通りがけにハンカチを落とした老婆の元まで落とし物を届けていたのだろう、リアラさんはこちらに背を向けて老婆と話していると、突然こちらを振り返って俺達に手を挙げる。
俺とアレクは一度顔を見合わせてからゆっくりとリアラさんの元へ向かう。
「あ、あの私達、この街の地図を持ってなくて……今日全国元老評議会が開催されると思うんですけど、それってどこでやってるか分かりますか?」
「あら、そうなのねぇ。確かこのストリートを北にあがった中央議会でおこなわれる予定だったはずだけど……でもごめんなさいねぇ、道案内できるほど詳細には……」
「いえいえ!それだけでも、全然、十分なので……」
「あ、そうだ!あの人に聞いてみるといいわ。彼ならこの街の事を色々知ってるはずよ」
リアラさんは手を仰いで老婆に感謝を表現するが、上品な服装を身に纏った老婆は何か思いついたようにストリートの一角を指さす。
俺達は一斉にその方向へ顔を向けると、人混みのその先にその人はいた。
「な、なんで僕がこんな事を……」
「多分ここら辺に落としたんだけどなぁ」「早く早く!」「あ、ニュートだ!食らえ、悪代官成敗パーンチ!」
「ぐへえええ!タイムタイム、僕悪代官じゃないし、今両手ふさがってるからあぁ…!」
その男は一人びっしりとスーツを身に纏いながらも、両手に食料品が詰まったバックを抱え、背中に背負う子供の指示を受けながら腰を曲げて恐らくその子の落とし物を探している傍ら、子供達からパンチを受けてすっ転んだりと、はたから見たら大の大人が楽しそうに子供達と戯れる微笑ましい風景がそこにあった。
子供達に文句を言っているその男も本気で怒っているという訳ではなさそうで、すぐに立ち上がると引き続き落とし物の捜索を再開した。
そんな様子を眺めていると、笑顔で老婆は説明する。
「いい男でしょう?彼はニュートと言って、見ての通り優しい、というよりも優し過ぎる男よ」
「へぇ、いい人なんですね」
「えぇ、そしてこの国の中央議会に所属する議員でもあるわ。史上最年少で当選した新進気鋭の若手議員。彼なら詳しい道案内もしてくれるはずよ」
その出会いは偶然か必然か。
このニュートさんとの出会いが、今からたった4時間後にこのコリントスの街で起こる大事件のきっかけになる事を俺達はまだ知らない。




