第100話 消えたシャルロッテと目指すべき場所
100話!?
これからもコツコツ満足するまで投稿頑張ります!
8月7日
「つまりシャルロッテさんが突然いなくなったって言う事?」
俺は小さな馬車の御者を務めている後ろでアレクは口元に手をやって尋ねる。
アレクの正面で馬車に揺られるリアラさんは戸惑いながらも説明を続ける。
「き、昨日の夜、シエルさんに言われていたようにシャルロッテさんの事は注意深く見ていましたし、朝だって、早く起きてシャルロッテさんの部屋に向かったんですけれど、その時にはもう、部屋はもぬけの殻で……」
「どうして突然昨夜になって、リアラさんにそんな注意をしていたの?」
「昨日の夜、学長先生に会ったんだ。その時言っていた言葉がどうも引っかかってな、シャルに何かが起こる気がしてリアラさんにお願いをしておいたんだ。確証は全然なかったから強くお願いはしてなかったんだけど……」
「ごめんなさい!!わ、私の責任で……」
「違う違う、リアラさんが気に病む事じゃない。それにシャルだって、ただ何も言わず学園を留守にしただけの可能性だってあるんだ」
俺は逐一後ろを振り返りながらアレクへの説明を捕捉していくが、悲壮な表情で頭を下げるリアラさんは責任を感じてか中々頭を上げない。
そもそもシャルを常に監視するなど誰にだって不可能で、ましてや夜間だ。
無理なお願いをしてしまったと、今になって後悔する。
アレクは続けて聞く。
「部屋の状況はどうだったの?襲われた形跡とかがあったわけではないって事?」
「は、はい。部屋はいつも私が通ってた時のように綺麗に整ってて……でも、なぜか鍵はかかってなくて、それにいつもダンジョンとか学園の外に出かける遠出に使ってた鞄や靴は部屋にあるままで、あと少し気になる手紙が置いてあったんです」
「手紙?」
「こ、こ、これです!」
アレクはようやく顔を上げたリアラさんが慌てて取り出した手紙を受け取ると、少しためらいながらもその文面を読む。
「……なるほど、どうやらシャルロッテさんのお爺様が亡くなったという通知の手紙だね。これが裸で置いてあったの?」
「そ、そうです、私も勝手に見るのは気が引けたんですけど、文面が表になるように置いてあってつい……」
「ふむ。これを見る限り、シャルロッテさんはお爺様の訃報を聞いて急いで学園を飛び出した。……って事で筋が通ってる気はするけど、違うのかい?」
アレクは眉を顰めて俺に尋ねる。
確かにアレクの言う通り、筋は通ってる。
ローランさんが死んだとなればシャルはきっと何を差し置いてもローランさんの元へ向かうだろう。
それだけあの人の事を愛していたのは俺が知っている。
けれど……
「……だけど俺はどうも信じられない。シャルは自らの置かれている状況を理解していたし、俺とローランさんが一度会った事を知っている。俺の知っているシャルならば俺に直接…ではなくても何らかのメッセージを残すくらいしてる、と思う」
「……確かに、こんなにひっそりと学園から出て行くなんておかしいのかもね。シャルロッテさんがまだ学園の中に居るという可能性は?」
「無いと見ていいと思う。お前を呼びに行く前に事務室に確認したら、外出証明が早朝にシャルの名前で出されていた。あくまで事務的な簡易な手続きだからシャル本人が手続きをやったのかまでは不明だけど、ジャック君達にも協力してもらって探せる範囲は既に全部探してもらってる」
うーんと唸るアレクであったが、ある事に気が付いて顔を上げる。
「あれ?ヘンリ君は?」
「ヘンリ君には一つ頼みごとをしてあるんだ。だから一旦学園に残ってもらった」
「なるほど」
アレクはたったこれだけの説明で俺の意図を察したのか、真剣な面持ちで再び考え込む。
そしてぶつぶつ何かを呟いたかと思えば、腕を組んで頷く。
「あ、アレクさん?」
「……うん、学園の事は分かった。だったら僕らは今どこに向かってるんだい?シャルロッテさんの故郷か、それとも……」
「あぁ、そこが一番迷ったんだ」
俺は前を向きながら答える。
朝日は昇り、既に昼の時間帯に突入してしまっている今。
シャルがいなくなり、あのローランさんが死んだと聞いて、にもかかわらず俺の頭は不思議なほどに冷静に状況を見る事ができていた。
ぎゅっと手綱を握ってちらりと後ろを振り返る。
「普通に考えたならば、シャルロッテさんはお爺様の通夜や葬式の為に故郷の実家に帰った、と考えるはずだよね。状況からしても、間違いなくシャルロッテさんの失踪にお爺様の死が関与してる。いったい何を迷ったの?」
「……アレク、今日が何の日か分かるか?」
「ん?」
俺の問いにアレクは一瞬首を傾げるが、隣で聞いていたリアラさんはある事に気付き声をあげる。
「あ、も、もしかして、全国元老評議会が開催されるのって今日じゃ、なかったですか?」
「あ!」
「そう、つまり今日は権力の頂点に君臨するあの学長先生が学園を留守にする日。そんな日に同時にシャルが学園から姿を消した。偶然か?」
俺は顔を上げて昨日の学長先生の最後の助言を思い出す。
『……明日の朝、ある事が起きます。それを見逃さない事。そして迷ったら追いかけなさい。』
この助言に従うとするならば、俺は……
「だから俺は学長先生を追いかける事にした。勘じゃない、きっとそこにシャルはいる」
目指すはこの国の中心都市、コリントス。
国の権力者たちが集まるその場所に、俺達は足を踏み入れようとしていた。
******
コンコンコン、と扉をノックする音が響き渡る。
たった一人しかいないその教室の中に佇むその男はぎろりと扉を睨むと、ため息をついて持っていた筆を机に置く。
「…はぁ。何か用か?クソガキ」
「今日一日、職場見学でもしようと思いまして。よろしく!」
そこにはニッコリ笑顔で言い切るヘンリと、それを睨みつけるグリムがいた。




