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第94話 世界一のいい女


「私ラミィって言うの!お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

「私はシャルロッテ。そしてこっちがデストロイヤー」

「とうとう行くとこまでいったな、お前!騙されるんじゃない、俺はシエルっていうんだ。決してそんな破壊神みたいな名前じゃないから」

「よろしく、デストロイヤー」

「なんでやねん!…いや、これ君らコントやってる?なにこのお約束みたいな流れ」


俺とシャルは生首と楽しく会話をしながらまっすぐ砂浜を歩いていく。

しかし生首の足元に目を向けてみると、やはり小さな足跡はしっかりついている。


「…それでラミィ、あなたのその姿は透明になるマントのようなものを羽織ってる、って事でよかった?」

「おぉ、すごい!すぐに当てられちゃった!うん、そだよ!」


シャルが指摘するとラミィの生首はくるりとこちらを向いてにっこり笑顔を浮かべながら勢いよくマントを脱ぎ捨てる。

こうしてようやくラミィのまともな人の姿を見る事ができた俺とシャルであったが、その瞬間俺の両目は視界を奪われる。


というか、隣の誰かさんに思いきり目を潰された。



「うぎゃぁぁああ!!」

「え、ちょ、なんであなた裸なの!?服を着なさい、服を!」

「あはははは!だからマント羽織ってたんじゃん!」



俺は蹲りながらチカチカする目の回復を待っていると、背後では透明になるマントを元通りなんとかラミィに着せようと奮闘するシャルがいた。

これぞ文字通り酷い目にあったと言ったところか。


しかしシャルには助けられた、ここでじっくり幼女の裸体を観察しようものならこの物語は18禁確定だった。

そして俺一人だった場合、突然の裸体に頭が処理できず高確率でそうなってた気がする。



俺はようやく視力が回復してきたことを確認して、後ろに振り返るといつの間にかすぐそこに見た事のない褐色美人が立っていた。

その容姿はまさしくラミィをそのまま成長させたような、とにかく色っぽくてかつワイルドで男勝りな雰囲気。



「あ、お母ちゃん!」

「…不思議。あんた達からは先生と同じ匂いがする」

「え?先生?あなたは…」


「よくぞ聞いてくれた!私こそ世界一の魔法道具職人であり、世界一のいい女!ダリアだ!!」



…さて、ダリアさんすごいドヤ顔だけどこんな時どう反応すればよいのだろうか。

ポカンとする俺たちをよそに、ラミィは手を叩いてダリアさんを賞賛している。


腰に手を当ててポーズを決めながら名前を名乗るダリアさんであったが、すぐに俺の手首に巻かれたミサンガに気がつくと何やら真剣な表情でミサンガに指をさす。


「…おい、あんた。これをどこで手に入れた?」

「え?これは貰い物で…」


「それって、もしかしてローラン先生の事かい?」

「そ、そうですけど」

「あんたが…?」


すると突然俺の頬を両手でパチンと挟み込むと、俺の両目を見据えて何かを確かめるダリアさん。

しかしこの人、結構強い。

感じる魔力、身体能力、風格、その全てが強さを感じさせる。


「…あんたらの用件はなんとなく分かってる。ついて来な」

「あの、あなたはローランさんを知ってるんですか?」

「あの人は、私の恩人だ」


そう言うとダリアさんは俺の頬から手を離し、俺が抱えていた金の入った鞄を容易く奪い取る。


「あ!」

「あんたら二人!もしもこれを返して欲しければ私と決闘しな!これが最後の試練だ!」


ビシッと指をさすダリアさんに俺とシャルは目を合わせ、そして本日何度目か訪れたこの面倒ごとに、同時に肩を落とすのであった。



*****



「え、これは何?」

「これは魔力探知機、商品名は『探し物はなんですか、見つけにくいものですか』だよ!」

「井上陽水か!!……いや、ちゃんと井上陽水の『夢の中へ』が出てきた自分の記憶力を褒めてあげたいけど、じゃあこれは?」

「これは魔力圧縮装置、商品名『魔力砲第893号機』だよ!」

「カッコいい…って一瞬思ったけど、アウトレイジすぎるだろその数字!?え、それじゃあ、こっちのなんかぶよぶよした奴は?」

「あ、それはただのゾウのうんこだね」

「うんこかい!?なんでこんなの商品棚に並べてんの!」

「あははははは!」


「……なんであなたは決闘前に余裕で漫才してるのよ」


ダリアさんが決闘の準備をすると言って、ポツンと海の家のように佇む『ダリアのどきどきなんでも作っちゃう屋さん』の店の中へ入っていった待ち時間で、俺は商品棚を物珍しく眺めていくと隣で南国風の服に着替えたラミィが一つ一つ解説をしてくれる。

シャルは決闘を前に一人集中力を高めているようだったが、俺達がはしゃぎまくるものだから気が散ったのだろう、呆れるような顔で俺とラミィの方へ歩み寄って来る。


「……しかし、ここの店の商品の値段……えげつないわね」

「そりゃあ、お母ちゃんの技術は世界唯一だもんね!!これでもまけてる方って言ってたよ!」


ラミィはない胸を一生懸命に張ってドヤ顔でアピールするが、確かにこんな魔法道具たちはあまり見た事がない。

相当な技術力と秘伝の奥義のようなものが隠れているに違いない。


俺はふっと微笑んでラミィの頭に手を当てる。


「ラミィはダリアさんの事が好きなんだな」

「うん、大好き!尊敬もしてる!」


純粋な笑顔ではっきり言い切るラミィに、俺も思わずほっこりしてしまいそうになるが、その後ろで少しだけ寂し気な瞳でその様子を見守るシャルを見つけ、一旦話題を変える事にした。


「へぇ、それじゃあさっきの透明になるマント、あれはいくらなんだ?」

「あれは非売品だよ!偶然の産物で100年以上も前にご先祖様がつくったって!この世に一着しかないから私が管理してるの!」

「そりゃ残念……えー、マジか……クッソ、うぅ…」

「なにマジで悔しがってんのよ。子供の前で下心少しは隠しなさいよ」

「そうだけどさ……ん?」


俺は夢の透明マントを買う事ができず心の中で滅茶苦茶凹んでいると、あるものを見つけて目を見開く。


「これ……」

「あぁ、これは……」

「これは『魔水晶』だ。そして今回あんたにお使いを命じた奴の目的でもある」


すると店の奥から出てきたダリアさんが俺の手に持つビー玉を見て教えてくれる。


これは今の俺があのチート売りの婆さんから貰ったビー玉と同じものだ。

俺はポケットに隠してある巾着袋の事を思い出すが、ダリアさんは続ける。


「これは使い勝手のいい魔法道具でね。使用者の魔力を吸収して水晶の中に半永久的に保存する。この技術一つで私達の一族は魔法道具の業界で唯一の地位を築いてきたとも言える。だけど簡単に作る事ができない物でもある。見て分かる通り大きさがそれぞれバラバラだろう?」

「確かに。大きさの違いが保存できる魔力の量の違いですか?」

「その通り。だから大きさに応じて値段も変わってくる。本当の水晶くらいの大きさを売ろうものなら小さな国一個の国家予算にも匹敵するだろうね、それほどのレアものだ」


ダリアさんを観察してみれば腰にいくつかのポーチを装着して中には何やら魔法道具が入っていそうだ。

そして俺の傍までやって来たダリアさんは魔水晶を一つつまみ上げると、ぽつりと呟く。


「……だけど、私がはじめて作る事ができたたった一つの水晶サイズの魔水晶を、かつて買い取った奴がいる」

「え?そんな人が…」

「それよりもあんた、そのミサンガだ」


ダリアさんは話を変えるように俺の腕を掴み上げると、じっとミサンガを見つめる。


「戦う前に一つだけ、あんたらはこのミサンガをどう思う?ローラン先生の孫娘も」


ダリアさんは後ろのシャルにも振り返りながら尋ねる。

いつシャルがローランさんの孫だと知ったのかは知らないが、俺とシャルは突然の質問に困って一瞬フリーズするものの、最初にシャルが答える。


「このミサンガ、ですか。デザインはとてもいいと思いますし、ここに流れる魔力から……私のお爺様のぬくもりが感じられるような、不思議なミサンガです」

「そうか……あんたは?」

「そうですね……」


俺はうーんと首を捻ってみるが、ダリアさんの質問の意図が分かるなんて事はない。

ならばと、俺は開き直り素直な感想を口にする事にした。


「正直デザインとか、魔力がとか俺には分かりません。でも、このミサンガは手作りだって分かる。作り手がこれをつける人の事を思って一生懸命に作ったんだろうという優しい温かみを感じる事ができる、純粋ないいミサンガだと思いますよ」


「……はんっ、そうか。やっぱりな」


するとダリアさんは俺の答えになにやら満足したのか、ニヤリと笑みを浮かべると引っ張っていた俺の腕をそのままグイっと捻って店の外にまで連れ去られる。


「いて、いてて!」

「あんたに興味が出てきた!だから先生の孫娘、あんたは見学でもしてな。これは一対一のさしの勝負だ」

「「え?」」


突然の展開にぽかんとその様子を見届けるシャルであったが、その袖を引っ張るラミィに促されて一緒に店の外に出る。

しかしシャルは納得ができずに眉を顰める。


「……何よ、私の答えじゃダメだったって事?」

「違うよシャルお姉ちゃん。あの質問の意図を私は知ってるから!だから一緒に見学しよ!」

「…?」


ふふふ、と笑顔でシャルを引っ張るラミィと、今から断頭台にでも向かうのかってくらい顔から血の気が引いた俺。


決闘での戦いは全部シャルに任せようと思ってたのに、早速計算が狂った。

というかこの人ガチで馬鹿みたいに力強いし、魔力も凄そうだし戦いも慣れてる雰囲気だし…俺の負けが確定しちゃったじゃん(^o^)


俺の腕を振りほどきその場に立たせると、ダリアさんは少し距離の離れた場所まで歩き、そして振り向く。



「さぁ、始めようか」

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