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第91話 勇者の器

「シエルがいなくなった……こういう時どうすればいいんだろ」


シャルロッテはベンチから移動することなく、延々とその場を行ったり来たりしていた。

あんな一瞬の間に居なくなるなど、普通じゃ考えられない。

十中八九、シエルは何かに巻き込まれた。


それではシャルロッテには何ができるだろうかと考えた時、状況を完全に把握できていない中で選ばなければいけない行動というものがシャルロッテには分かっていなかった。

というよりも判断ができなかった。


誰かが迷子になった時、取るべき選択肢はいなくなったそいつを探すか、同じ場所でひたすら待ち続けるかだ。

そこで前者を選ぶというのは、すれ違いの可能性、更なる混乱を生む可能性等、相当にリスキーである事は承知の通りだ。

しかしこの明らかに異常な状況、ここにいるだけでは解決しないであろう事はシャルロッテにも分かっていた。


シャルロッテは、はあ、と息を吐いて再びベンチに座る。


「こういう時、きっとシエルだったら躊躇なく判断する。あいつはそういう奴だから……やっぱり私はリーダーに向いてない」


「何かお困りのようでしたら、私が助けてあげましょうか?」


シャルロッテは突然かけられた声にびっくりして、鞄を抱きしめながら恐る恐る隣に座る声の主の姿を見る。

その人は金色の髪を肩まで伸ばした、白く透き通った肌の美人。

ずっとベンチの前を行ったり来たりしていたところでも見られていたのだろう、その表情は本当にシャルロッテを心配するようであり、シャルロッテはこの美人に対する警戒心を一旦とく事にした。


誰だ、と疑問を抱きながらもシャルロッテは一瞬ミサンガを見つめてから意を決して相談する事に決めた。


「すいません、多分何を言ってるかわからないと思うんですけど、一人友達が目の前でぱっと消えてしまったようで…」

「いいえ、大丈夫。私も見てたから。お姉さんに任せて」

「え?」


この時のシャルロッテはまだ知らなかった。

この女こそ、昨日リアラとアレク、ヘンリの3人を一人で追い詰めたフローラその人であるという事を。

そしてさっきシエルに対し腸内フローラの冗談を言っていたら人間の方のフローラが現れてしまったという、ちょっとだけ面白い状況になっているという事を。



****



原作アレクの最もよく使う魔法、それは光魔法という魔法だった。

というのもその魔法、武器に纏えば岩を豆腐のように切る事ができ、傷を一瞬で癒すこともでき、普通に魔法として相手に向けても滅茶苦茶な火力を生み出す。

まさにチート、神がバランス調整を間違えたとしか思えない魔法だ。


それではその魔法についての知識のある俺がなぜここまで使ってこなかったのか。


それは至って単純、どれだけ祈ったり念じたりしようとも、俺には全く使える気配がなかったからである。

もちろん何度も趣向を変えて試したりもしてきたが、一度たりとも光魔法の発動には成功していない。


それでは原作のアレクがどのようにして光魔法を習得したのかというと、なんか習得してた、これに尽きてしまう。

チート売りの婆さんとは既に出会っていて光魔法も授かっているはずだったが、月影草イベントの時には光魔法を使いこなすといった描写はなかった。

しかし前にも言ったと思うが、アレクは『始まりの洞窟』でシャルと一緒にダンジョン下層まで落下し、そこで窮地に陥るのだが、その時にはなぜか敵を前にして光魔法を発動するアレクがいたのだ。


何の都合かは知らないけれど、光魔法を習得するまでの流れを全てばっさりカットでもしたのだろう、不自然な流れと繋がりで、さも当然のように光魔法を扱うアレクの姿がそこにはあった。



「無理じゃ」


だから婆さんが俺の願いをばっさり切り捨てた事にも、納得はできた。


「前にも言ったが、お主は器ではない。仮に私が力を授ける事ができたところで使いこなすことができずに死んでしまうじゃろう」

「……ま、覚悟はしてましたけど、実際あなたに言われたら諦めるしかなさそうですね」


俺は婆さんの手首から手を離し、天を見上げる。

この何でも知っていそうな婆さんが言うんだから間違いないんだろうが、やはりここが原作アレクと俺の違いという事だろう。

浮遊魔法に関しては誰でも使う事の出来る魔法という紹介がされていたからこそ4か月かかって何とか俺も習得できたのだが、光魔法はそうはいかない。


先程の説明にもある通り、このチート魔法はその性能から伝説の魔法と言われ、アレクにしか使う事の出来ないものという説明が原作中にあったのも確かだ。



「……実際その魔法があればここからの未来、何かと便利だったんですけど、そうは問屋が卸さないって事ですか」

「それがお主の望んだ未来なんじゃろ?あるもので何とかせい」


婆さんは吐き捨てるようにそう言うと、水晶を拾って、両手に乗っける。


「……しかし必ずしもお主が光魔法を使えんという意味ではない」

「……ん?それはどういう……」

「お主も見たであろう、ベンチの上のビー玉を」


そう言われて俺はハッとする。

そうだ、確かにあの時ベンチの上に置いてあったビー玉から放たれるあの光は魔法だった。

あれは光魔法に違いない。


すると婆さんはポケットの中からあのビー玉を取り出して俺に見せるように掌の上に乗せる。


「…これはアレクという少年の前、つまり先代の勇者の器だった男が実際に使った光魔法を吸収した魔法道具じゃ」

「えっ、え、えと、聞きたいことは色々あるんですけど、勇者って一体なんなんですか。それに先代の勇者って、一体誰なんですか?」



「その者の名は確か…そう、ローランという男じゃ」

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