第90話 光魔法への手がかり
「……で、一体何を見つけたって……あれ?」
シャルロッテはハンカチで自らが落としてしまったグミを一粒拾い上げると顔を上げ、何かを見つけて隣のベンチに移動していたはずのシエルがそこに居ない事に気が付く。
「シエルが……消えた?」
シャルロッテは異変に気が付きすぐさま立ち上がると、お金の入った鞄だけぎゅっと抱きしめて今度はじっと隣のベンチを観察する。
しかしただ無機質な木のベンチがあるだけで、シエルが見つけたビー玉はそこにはなかった。
*****
「……今更何の用ですか?」
「世界の流れが徐々に歪んできておる。そしてその中心にはお主がおる」
「へぇ、そりゃ凄い。じゃ」
開口一番相変わらず訳の分からない事を言ってくるBBAに俺は別れを告げて踵を返そうとしたところで、BBAは掴んでいた俺の腕をぎゅっと握りしめ逃がしてはくれない。
やっぱりこの人と関わるのは、これまでの経験上絶対によろしくない。
何かしらの災難が降りかかってくる予感がビシビシ伝わってくるのだ。
「おい、シャル……はどこ行ったんだ?」
「お主とは二人きりで話してみたかったのでな」
俺は応援を呼ぼうと後ろを振り返って目を見開いていた。
すぐ後ろにはシャルがいたはずなのに、あるのは真っ暗なまさしく異空間の景色のみ。
まるで一人だけ違う世界に迷い込んでしまったような、そんな不思議な感覚だ。
やはりこの婆さん、うちの学長並みにヤバいにおいがプンプンする。
だから俺は腕をブンブンと降って、強引に俺の腕を婆さんの手からすっぽ抜かせる事には成功した。
「……お主、老人相手に気遣いゼロか」
「こっちだって、生まれて初めての女子とのデート邪魔されたんですよ!見目麗しきクラスの美少女から皺だらけの婆さんに変わったこっちの気持ち考えてください!ショートケーキ食べてると思ったら突然口の中にゴキブリ入れられた気分ですよ!」
「それを直接面と向かって言われる私の気持ちの方こそ考えんかい!!」
カンカンに怒る婆さんだったが、とりあえず頭だけ下げておいたら機嫌を直してくれた。
まったく、ちょろいものである。
「ここ、さっきまでいたはずのオミチョ―横丁、ですよね?」
「あぁ、そうじゃな。お主が隣の女子との初デートに緊張しすぎてしきりに手汗を拭ったり、共通の話題で盛り上がろうとするたびにすべっておった横丁の中じゃ」
「……悪意に満ちた説明をありがとうございます。それにしては横丁って感じじゃないこの場所って一体……いや、やっぱりいいです。どうせ教えててくれなさそうだ」
俺はその場に腰を下ろすと、手で示して、婆さんにも座るように促す。
この婆さんは恐らく俺を逃がすつもりがない。
ならばとことん付き合ってやろうとは思うが、疲れるのは嫌なので足をのばして座り込んだ。
「それで、何用ですか?また意味深な事でも言いに来ました?」
「一つお主に注意と忠告をしておくことがあってな」
膝を畳んで座る婆さんは、よく見ると脇にあの時の水晶を挟んでいた。
婆さんは落ち着くとその水晶を取り出して目の前に置く。
「一度歪んだものには、必ずしわ寄せというものがある。それこそが魔法にも通じるこの世の真理であり、道理じゃ」
「………つまり俺の周りで、何かとてつもないしわ寄せがやって来ると、そう言いたいんですか?」
「その通りじゃ。それはこの水晶にもあらわれておる。」
俺はじっと水晶を睨みつけてやるが、やはり俺の目から見ればただの透明な水晶以外の何物にも見えない。
もはや前世の時にもいたペテン占い師のような風貌にも見えてきた婆さんではあるが、この婆さんは俺がこの世界のシナリオを壊して回っている事を知っている。
そしてこのしわ寄せの話、多分これ以上ストーリーの道筋から離れすぎた行動をするなという忠告なのだろうと思う。
「これ以上お主が好き勝手に動いたら、取り返しのつかない事になりかねん。今はその岐路に立っておるのじゃ」
「……俺をビビらせて、あなたは一体……」
「私は通りすがりの占い師じゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
婆さんについて詮索はするな、という事か。
俺は息を吐いて首を傾ける。
「……それじゃあ、あなたには何の意味があるんですか?俺にこんな事を教える理由が分からないな」
「お主はずっと不安だったんじゃろう?自分が起こしてきた行動は果てしてよりよい未来へ向かって行くのか、その答えを求めておった。じゃから言うんじゃ。そんな都合のいい未来だけが訪れる事などないと」
はっきり言い切る婆さんに、俺はふうっと息を吐く。
「……それならです。あなたはしわ寄せが来ると言っていたが、それは誰が、何のせいで、どんな風なしわ寄せが来るのか、答えてもらおうか」
「それはお主も分かっておるはずじゃ。お主が、アレクという男の覚醒を引き延ばそうとしたせいで、全てを失う。そうなる事も分かっててお主はこれまでの選択をやってきたのじゃろ?」
俺は腕を組んで婆さんの言葉を頭の中で反芻する。
確かに未来を変えるという事はそういう事もあり得るわけであり、バタフライエフェクトなんていう言葉もある。
しかし、
「俺は確かな勝算と確信を持って、今までの選択をしてきました。世界も救うし、学園生活だって楽しんでやる。そういう気持ちを忘れた事はありません」
「……世界はそれを簡単には許してはくれない。お主でもどうにもならない事は必ず起きる。大事なのはそういう時、どうするかじゃ」
「…………」
婆さんは水晶に手を置いて、試すように俺の目の奥を覗いてくる。
俺は少し考えて、すぐに手を伸ばして水晶に置いてある婆さんの手に重ねるように手を置く。
「その時はその時で、何とかなる気がするんです。だって俺は一人で戦ってるわけじゃない、隣にいてくれるこの世界最強のあいつらがいる。だから心配ご無用です」
「…………それならよい」
婆さんは不満げではあったが、俺は婆さんの手に乗せた手をどける事はせず、むしろその細くてやせ細った手首をがっしりと掴む。
「……何のつもりじゃ?」
「…一つだけ聞きたい事があるんです」
「………何じゃ?」
「光魔法……という魔法に心当たりがあるはずです。その使い方を、どうか教えてくれませんか」
その魔法は、原作のアレクが使っていた、唯一無二の最強魔法。
アレクのチートを象徴する、そんな反則魔法だった。




