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笑う

異様な笑い声の隙間から、花の声が聞こえた。


 「・・なさい。」


 うるさいコチの笑い声が花の一言によって止まった。


 なんて言ったのだろう。悲鳴ではなかった。コチは、恐る恐る花の横顔を見た。花の表情はやはり曇っていた。花のあの笑っている顔は、もうまぼろしのように遠くへ行ってしまった。「大丈夫さ」コチには、瓦礫に溶け込むくすんだ羽がはっきりと見える。「大丈夫。大したことじゃない」と羽で瓦礫の表面を軽く撫でる。


 静かになった夜。月の世界では、花の声がやっぱりよく聞こえた。


 「ごめんなさい。私、ひどい勘違いをしてしまったのね。失礼な事を言ってしまって本当にごめんなさい。」


 花の言葉は案の定、悲しみに満ちていた。でも、それは、悲鳴のようなコチを追い出す悲しみではなかった。花の悲しみの中にはちゃんとコチがいたような気がした。大声でバカみたいに笑っていた自分が急に恥ずかしくなった。


 「おいおい。謝らないでくれよ。別に構わないよ。僕はそんな蝶のような大したやつじゃないから、間違えてくれて光栄さ。」


 コチは花を慰めるため、今まで思ってもみなかった事を口にした。コチはすぐに自分が言ってしまった事を後悔する。思わず蝶なんかを持ち上げてしまった。小さなコチの小さなプライドだ。そんな小さな舌打ちはきっと花には聞こえなかっただろう。


 「本当にごめんなさい。恥ずかしいわね。飛んでいるあなたを見て蝶だと思い込んでしまったみたい。実は、私、この世界のことをあまり良く知らないの。ここには、ほとんど誰もこないから。お話するのも久しぶり。最初、私の会話おかしかったでしょ?本当に笑われてしまわないか、ヒヤヒヤしてたわ。」


 コチは、壁の中で広がる瓦礫の山を見回した。ここで独りぼっちの花が謝るにはどうしてもおかしい状況だ。


 「実はさ。君が不自然に「ごきげんよう」とか言った時、必死で笑いを堪えていたんだよ。でも、心の中では爆笑さ。だから、もう謝らないでくれよ。そんなに謝られたら、今度、ふと、君を思い出した時に思い出し笑いがしづらくなっちゃうだろ?」


 コチは笑いながら話す。花は、恥ずかしくなったのか。大きな声を出した。


 「ひどいわ。やっぱり笑っていたのね。」


 「だから笑っていないって。必死で堪えたって言っただろ?でも、君は見たかな?あの時、月は腹を抱えて笑っていたよ。やっぱりあいつはひどい奴だな。デリカシーを知らない。」


 唖然と空にぽつんと浮かぶ月。


 「嘘ね。あなたはさっきお月様の笑った顔を見た事がないって言っていたわ。また、お月様を悪者にして。ひどいわね。」


 ホッと月は空に浮かぶ。


 「やっぱりダメか。君と一緒に月の悪口を言う事は、どうやら今日は本当に難しいみたいだ。もう諦めるよ。」


 花は、また、クククっと笑っていた。


 「私とお月様の関係は特別よ。そんなに簡単に切れないわ。お月様が来てくれなかったら夜が寂しくてしょうがないもの。」


 「それは、悪い事をしました。」 


 「謝らないで。あなたも私の失礼を許してくれたんだから。これでお相子になるかしら?」


 どんな計算をしたらそれがお相子だと導く事が出来るのだろう?こんな難問、人間だってきっと解けやしない。コチは、少し後ろめたさを感じながらも「うん。」と小さく頷いた。


 「良かったわ。これであなたも思う存分、思い出し笑いができるわね?」


 「そうだね。でも、なるべく控えるよ。」


 花は、ほっとしたように、コチに言った。


 「あら、優しいのね?」


 クククっと笑う花の笑い声は確かにコチに向けられていた。


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