月灯の下
夜空には五日月がひっそりと雲の隙間から暇そうにぼんやりと光っていた。
声がした。
「ん?」と下を覗く月は「どけどけ、見えない。」と取り巻く雲を風に乗せて追い払う。すると流れる雲の間からチラリ。一輪の花が月明かりに浮かんだのだった。
「君かい?」
花は俯いたままだった。月はあるはずのない首を傾げながらその花を見つめていると夜露で濡れた淡いピンク色の花びらから一滴の雫がきらりと落ちるのを見た。
「あらま。泣いているじゃないか。どうする?どうする?」
月はそわそわ辺りを見回す。花の周りには誰もいなかった。あるのは瓦礫と砂の山。花はひっそりと独りぼっちで咲いていた。
「おーい。こっち。こっちだよ。私はここにいるよ。」
ひっそりとしたその場所に不機嫌な音で車が走り去る。煌々とヘッドライトは何かに反射しそのまま上空に駆け上がると、安易と月明かりを消した。
車が去って、再び現れた月明かりと静かな夜。
無力感でいっぱいになった月は「誰かいないか?」とキョロキョロと辺りを探していた。すると、夜道、決められた仕事をぼけーっとこなす外灯に一つの小さな影がパタパタと通り過ぎた。
「あっ」と月は目を凝らす。
小さな影は、外灯の光を辿って、工事現場の方に向かっている。
あれは?月は見失わぬようにその小さな影を追いかけた。
忙しなくパタパタと羽を動かすその小さな影の正体が分かると、月は、ホッと息を漏らした。
「やっと来やがった。」
もう一度、風は雲を静かに月の前から追い払った。月明かりが、その小さな影を照らせるように。