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第09話 歴史

 ノード国は貴族が中心となって治める国である。

 国としての始まりは人間と魔族が争っていた時代、今から400年ほど前までさかのぼる。


 当時、魔族と戦っていた人間たちは魔王城攻略のため、その南側に陣地を構築した。

 その場所がゲアストの町としての始まりだ。


 構築した陣地を拠点とし、魔王城に出立した勇者一行は、人類悲願の魔王討伐を果たす。

 しかし、魔族がすべて滅びたわけではない。

 魔王討伐後、ベルツ王国は魔族の残党を狩るために、陣地を拠点として発展させるよう貴族たちに命じた。

 大量の人員が投入され、瞬く間に建物が建ち並び、食料をまかなうために土地は開墾される。

 貴族たちの働きにより、ゲアストと名づけられた町は魔族残党狩りの本拠地となった。


 勇者たちを筆頭にした討伐隊はゲアストから各方面に散る。

 北へ東へ西へ。

 各地に赴いた討伐隊は残る魔族を駆逐していく。

 勇者たちの強さもあり、ほどなくして残党狩りは終わりを告げる。


 残党狩りも終わり、勝利を誇示するために魔王城は破壊されることとなった。

 魔王城を破壊した討伐隊が王国に帰還すると、ベルツ国国王は魔族撲滅の宣言をする。

 大陸中が歓喜に沸く中、ゲアスト発展に尽力した三つの貴族にベルツ国国王は下命した。

 本拠地としての役目を終えたゲアストを国として興すようにと。


 与えられた国名はノード。

 魔族勢力下にあった場所が、貴族三家によりノード国領地として統治されることとなる。

 その貴族がソルダート家、カザーネ家、サニテーツ家だった。



   ◆ ◆ ◆



 ベルツ王国国王による魔族撲滅の宣言から四年。

 人類に希望を与えた女神レーツェルを称え、王国暦から降神暦へと時代は変わる。


 降神暦3年のこと。


 広大で肥沃な土壌、温暖な気候も相まって、ノードは周辺国に農作物を輸出する農業国となっていた。

 領地には新たな町や村が作られ、そこに住む者たちが耕地を増やし、順調に繁栄する。


 ノードは国といえど、ベルツ王国の直轄領という扱いに近い。

 新たに町を作る場合は王国の承認が必要であるし、輸出する農作物の価格は王国側で決められていた。



 ノードにとって、ベルツ王国は宗主国にあたる。


 ベルツ王国は大陸の半分を統治し、周辺国が逆らえないほど力が強い巨大国家である。

 しかし、その力を一方的に振りかざす独裁的な国ではない。

 魔族との戦争では陣頭に立ち、多くの戦費と人員を消費したもっとも尽力した国であり、もっとも疲弊した国でもある。


 そんなベルツ王国も、戦争から数年経てば復興も終わりを見せ、領地に住まう人々は平和を謳歌していた。


 人々が元の生活を取り戻す中、逆に大きく変化するものもある。

 それが魔法使いの地位だ。

 戦争における功績により、魔法使いは戦士と比べものにならないほどの地位を得た。


 戦争において評価を得た魔法だが、日常における使い方でも利便性は高い。

 何もないところから火を生み、水を出し、明るい光を放つ。

 特に光と水の魔法は重宝された。

 松明などを用意する必要もない光、水源のない場所での水の確保が容易と、復興が早まったのも、魔法に依るところが大きい。


 これにより、大陸では魔法至上主義という思想が生まれることとなる。


 国王は国内にいる魔法使いを宮廷に召し抱え、優遇した。


 しかし、これには問題があった。

 力の強い魔法使いたちは、そのほとんどが魔族との戦争で命を落としていた。

 召し抱えられた宮廷魔法使いの多くは、まともに魔法を扱えない者たちだ。


 宮廷魔法使いたちは魔法を使うだけで称賛され、寝食を保証され、高い給金を得られる。

 言葉は絶対的であり、下々の民の身を自由に扱うことも可能だった。


 宮廷魔法使いの多くは平民の出自。

 戦争前からは考えられない環境。芳醇な美酒を浴びるように飲むような、この境遇に酔いしれる。


 地位、権威、富といった贅を手に、この立場を守ろうと宮廷魔法使いたちは画策した。


 賄賂を渡し、貴族を買収する。

 魔法至上主義に異を唱えようものならば、容赦なく殺す。

 私刑、暗殺、冤罪での極刑。宮廷魔法使いによる犯罪が横行することとなった。


 さらに、新たなる魔法使いが生まれることを危惧し、他者の追随を恐れた宮廷魔法使いたちは、魔法の技術を秘匿した。


 これらにより、ベルツ王国は汚職にまみれ、次第に腐敗していく。



 国内にいたの魔法使いの多くは宮廷魔法使いとなったが、すべてではない。

 王国の魔法使いは三つの派閥にわかれている。

 宮廷に属する派閥、女神教会に属する派閥、両方に属さない派閥だ。


 女神教会派閥の筆頭は、かつて世に降臨した女神レーツェルによって選ばれた神官。

 人々は畏敬の念を込め、この神官を大神官と呼び、敬った。

 戦後復興においては尽力を注ぎ、各地に女神を祭る教会を立ち上げるなど、周囲からの人望も厚い。

 大神官は魔法の力も強く、ベルツ王国において国王に次ぐ権力を持っていた。


 そんな大神官は腐敗していく国を憂い、ベルツ国王と対立する。

 魔法とは女神から与えられた叡智なのだと、魔法使いは清廉潔白であるべきだと説いた。

 大神官と国王の対立により、女神教会派と王国宮廷派、二つの派閥に亀裂が生じる。


 女神教会派の魔法使いは数が少ないものの、力の強い魔法使いが多い。

 対して、宮廷派の魔法使いの数は多いが、その大部分を力の弱い魔法使いが占める。

 総合的に見れば、拮抗した力を持つ二つの派閥。


 その小さな亀裂は時と共に広がり、やがて大きくなって裂け、戦乱の渦となって国全体に波及した。


 降神暦9年。

 大陸の半分を占めるベルツ王国で内乱が勃発する。

 互いに殺し合うのはどちらも人間。それも同じ魔法使い同士によるもの。

 どちらの派閥にも属さない魔法使いたちは徴兵されることを恐れ、国を出奔した。


 この内乱は5年間続き、ベルツ内戦と呼ばれる。

 終戦後、統一ベルツ王国領はいくつかの国に分断された。

 その一つが大神官を国家元首とするレライア神聖国である。


 この内戦によって数少ない魔法使いはさらに減り、魔法技術は数十年遅れることとなった。

 後世には、魔法使いの暗黒時代と呼ばれている。

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