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第83話 迎え撃つオスファの軍

「でしたら、私たちもご助力します! 私とリーヴェの力はおわかりでしょう!?」


 オスファの城内、その一室でエルザはクラウスに食って掛かる。

 懸命に自分たちの有用性を説くエルザを前に、クラウスは顔色ひとつ変えない。


「必ずやお力になります!」


 詰め寄るエルザを見下ろしていたクラウスの口が開かれる。


「いらん、必要ない」

「ですが――」

「くどい!」


 腰の剣にクラウスの手が伸びるのを見て、慌ててララがエルザの隣に立った。


「すみません! ボクがよく言い聞かせておきますから! りべちん、そっちの腕持って!」

「は、はいっ!」


 二人に腕を抱えられ、エルザは引き剥がされるように後ろに下がる。


「敵は我がオスファが討ち取る。お前たちは客人でしかない。誰に指図しているのか、身の程をわきまえろ」


 そう言い残し、踵を返したクラウスは部屋を出ていった。

 エルザはソファーに座らされ、その対面にララとリーヴェが座る。

 うつむいてたエルザは顔を上げ、正面に座るララの目を見る。


「ララさん、これがあなたの見ていた未来だと思いますか?」

「よくわからないけど、たぶんそうだと思う」

「そうですか……」


 王都が落とされるという信じられない話。ララの言っていたことが真実味を帯びる。

 エルザは大きなため息を吐くと頭を抱えた。

 王国とのつながりを強めるどころか、王都は滅びてしまった。

 神聖国は王国に属するノードも滅ぼすつもりに違いない。


「今なら……のに」


 苦渋に満ちた顔のエルザを見て、ミックを膝の上に抱えたリーヴェが不安げな表情を浮かべる。


「これからどうするの?」

「……オスファの勝利を祈って待ちましょう」


 三人はゲアストからオスファの馬車に乗って来ているため、ここを自発的に発つのは難しい。

 下手な行動は外交問題になりかねない。

 クラウスの凱旋を待つことが最善だろうとエルザは判断した。


 それにララの未来視は確実なものではない。

 王都では激戦を繰り広げたはずだ。

 消耗している中、休息なしで大軍との連戦など正気の沙汰ではない。

 王都に次ぐ国力を持つオスファ領が勝つ可能も十二分にありうる話だ。


 鞄から単眼鏡を取りだしたエルザは立ち上がると窓際に近づく。

 エルザは単眼鏡を覗き込み、西の平野に布陣するオスファの軍勢を見た。



   ◆ ◆ ◆



 城郭都市から西の平野。

 オスファの主力部隊は鋒矢の陣(↑形の陣形)で展開していた。


 王都が攻撃される最中(さなか)、元に身を挺してオスファにもたらされた数々の情報。

 真っ先に討ち取るべきは、男の剣士と男女の魔法使いの三人。

 そして残る神聖国軍を撃滅せんと、クラウスは指揮を執る。


 斥候部隊の長がクラウスの元に駆け寄り、状況を報告する。


「進軍する神聖国軍は馬車での移動にもかかわらず、ゆっくりとしたもの。我が軍と対峙するまでに、まだ二刻はかかります」

「そうか。それで例の三人は?」

「先頭の馬上に該当の人物を確認しました。ですが男女の魔法使い、二人のみ。残る剣士の所在は不明です」

「わかった。下がれ」

「はっ!」


 クラウスは陣の最前に目を向ける。

 前に並ぶのは戦いを見越して投資してきた魔法使い、防御障壁に特化した者たち。

 実力は王都の魔法使いにも引けを取らない。

 その集団を統率するのは、若くして1級魔法使いになったヴィム・ファル・アングリフだ。


 ヴィムの一纏めにした髪が風に揺れる。


 魔力感知という最上の能力を持ち、さらに魔法の才能(魔力量)もあったヴィムは、幼い頃より魔法の鍛錬を始めた。

 痛いのは嫌だ、そんな考えでヴィムが選んだのは防御の魔法だった。

 魔法使いとしての評価は上々、賢者とも懇意の仲になった。

 順風満帆な人生だったはずが、今や戦いの最前線、敵から一番近い場所に立っている。

 ヴィムの手に持つ杖に汗が絡む。


 張り詰めた空気をまとうヴィムの肩に、枯れ枝のような細い手が置かれる。

 ヴィムが振り返ると、そこには三人の老人が並んで立っていた。

 同じローブに寸分(たが)わぬ形状の杖を持つ。髪も髭も同じように切り揃え、風体(ふうてい)からは三つ子に見える老人たち。

 この老人たちは三老と呼ばれる存在だ。


「ひゃひゃ、緊張するのはわかるがの、お主がやれねばこちらは全滅ぞ?」

「御三老方……」


 頭は白く染まり、顔には深いしわ、枯れ木のような(しな)びた体なれど、この三老こそが対魔法戦における最終兵器となる。

 数十年前に魔法ギルドの名簿からも抹消され、公に存在していないことになっている三老は、秘密裏に研究を重ね、ひとつの魔法技術を完成させるまでに至った。


「いつも通りにやるだけでよい。お主に必要なのは集中力のみ。仇討ちは儂らの役目じゃからの」

「ええ、わかっておりますとも」


 ヴィムに与えられた役割は、弟子の魔法使いたちと協力し、強力な防御障壁を展開させることだ。


 ヴィムの防御障壁は、かの賢者の魔法ですら完璧に防いだ。

 そんな逸話から呼ばれるようになった二つ名は鉄壁。

 だが、ヴィムの魔法障壁でさえ、三老の魔法は防げない。

 神聖国の魔法使いだろうと、あの魔法を食らっては無事では済まないだろう。


 攻めの要が三老ならば、守りの要は自分(ヴィム)だ。

 攻撃が上手くいけども守りで失敗すれば、それは敗けと同義になる。

 必要なことは、与えられた役割をまっとうすること。

 呼吸を整え、気を落ち着かせたヴィムは、接近する神聖国軍を見据えた。



 間もなく対峙、互いに射程に入る距離になる。

 こちらの行動など気にも止めない様子で、神聖国軍はゆったりと観光でもするように向かってくる。

 左右に並ぶ弟子に目を配り、ヴィムは奮い立たせるために叫ぶ。


「お前たち、我らが成功すれば勝ったも同然! その暁にはオスファ領が国都となろう! これが我々にできる弔いになる!」


 失敗などと微塵も考えていないのだろう。自信に満ちた声が返ってくる。

 師として失敗は許されない。

 ヴィムは気を引き締めて臨む。


「それではやるかの」

「そうじゃの」

「やるかの」


 三老がヴィムの前に並んだ。

 写し絵のように、三人はまったく同じ動きで杖を振るう。

 目の前に、赤い三つの巨大な魔法陣が一直線に並んだ。


 周囲の魔素を利用する魔法陣は、近距離だと互いに干渉してしまう。

 空気中の魔素を奪い合うため威力が半減する、というのが定説だった。


 しかし、その定説は覆る(くつがえ)

 数十年前、偶然にもある現象が発見された。

 なぜそうなるのか、原理は現在においても解明されていない。

 されど、現象としては利用できる。


 三つの魔法陣を特定の距離で並べた場合、干渉を受けずに威力が跳ね上がる。

 実測にして、その威力は100倍以上になる。


「ほいさっ!」


 三人が同時に魔法陣を発動させた。

 赤い魔法陣からは巨大な火の塊、粘り気のある液状のような物質が生みだされる。

 火山の岩しょう(マグマ)のような火は、近づくものすべてを焼き尽くそうと熱を放つ。


 魔法の威力が跳ね上がると伴う弊害。

 それを解決することがヴィムたちの役目だ。

 三老の魔法陣が反応した瞬間、ヴィムたちが合わせて魔法障壁を張った。


 障壁越しでさえ熱を感じる気さえする。

 神聖国軍など飲み込み、すべてを燃やし尽くしてしまえと、ヴィムたちは解き放たれた火の塊を目で追いかけた。

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