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箱持ちの大魔法使い ~箱の中身はかつての魔王~  作者: アーリーセブン
第5章 求める先にあるものは~王都編~
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第66話 王都魔法ギルドⅡ

 ミックの声に、リーヴェはきょろきょろと顔を動かして周囲を見渡す。


「どの人?」

『あの階段の前にいるやつだ』


 中央カウンターの横には階段がある。

 その階段の前、ギルド職員たちに囲まれている二人の人物が目に入った。


 まとめた白髪を肩から垂らし、ローブを着た品のよさそうな老婆。

 その隣には、貴族服を着た背の低い少年。

 老婆は大きな杖を持ち、少年は腰に短い杖を差している。

 ミックがを感知できるほどの魔力持ちということからも、二人は魔法使いなのだろう。


 老婆が二言三言、ギルド職員と会話をすると、こちらに向かって歩き始めた。後ろには少年が続く。

 リーヴェが遠目に見ていると、老婆が笑った気がした。


 リーヴェとララがいるのは掲示板のある場所だ。

 魔法使いであれば、掲示物に目を通すなど普通のこと。

 しかし、老婆が笑ったように見えたことで、とある考えに思い至ったリーヴェは掲示板を見ているララの肩を叩く。


「あの人たち、ララ様のお知合いですか?」

「うん?」


 振り返ったララが固まる。

 女神像のように、ぴくりとも動かない。止まったまま何も喋らない。

 リーヴェが目の前で手を振ってみても反応はない。


「おーい、ララ様? ララさん? ララちゃーん?」


 リーヴェが肩を揺すると、かかっていた魔法が解けたようにララは動きだした。

 ララがゆっくりと顔の向きを変え、リーヴェの両腕を掴んで激しく前後に揺さぶる。


「バ、バカッ! なんで知らないんだ! 超有名な人だぞ!」


 ララは早口で捲し立てる。

 しかし、周囲に聞こえないよう配慮してか、小声でだ。


「あの勇者の家系であり、女性にして初めて王都魔法ギルドの副ギルドマスターを勤めていたお方だ! それに、近年もっとも魔力量が多い魔法使いと言われてるんだ! ああ、直接お見かけできるだなんて……」

『なるほどな、あの魔力は勇者の末裔だからか』

「勇者様の……」


 ララにとって憧れの人らしく、普段は見せない恍惚とした表情を見せる。

 感激に頬を赤く染め、高鳴る鼓動を押さえつけるかのように、両の拳を胸元でぎゅっと握る。


 勇者の子孫であり、元王都魔法ギルドの副ギルドマスター。

 当然、魔法使いとしても最上位なのだろう。

 そのような偉い人物がこちらに向かって来ている。

 土産話にはなりそうだが、鉢合わせするのは厄介なことになりかねない。


 ここは王都の貴族街。

 出会う人には注意するようにと、エルザから何度も繰り返し言われている。

 何を不敬と捉えられるか、わからないためだ。

 粗相をすれば、リーヴェだけの責任だけでは収まらない。

 連座でララとエルザも、それだけでなく国としての責任を追及される可能性もある。


 リーヴェはそっと耳打ちする。


「ララ様、エルザの小言を覚えていますか? 問題にならないよう、ここは移動しましょう」

「そ、そうだね」


 リーヴェとララは、テーブルが並べられた場所へと向かって歩き始める。


『やはり、目的はララかリーヴェのようだな』


 リーヴェが横目で見ると、老婆はこちらのほうへと向きを変えていた。

 テーブルの置かれた場所に着いた二人は立ち止まる。


 もう距離もない。

 また移動するのは逃げだすように見えてしまうため、不敬だと思われかねない。


「たぶん、ララ様に用件があると思うのですがどうしますか?」


 不安な表情を浮かべるララは、無言のまま顔を左右に振った。

 そのままリーヴェの後ろに隠れ、小動物のように小刻みに震える。


 移動することもできず、ついには老婆が二人の前に立った。

 にやりと不敵な笑みを浮かべる老婆が口を開く。


「お嬢さん、ちょっといいかい?」

「えっと、私ですか?」


 リーヴェは自分を指差す。

 貴族とのつながりはほとんどない。用件があるのなら、ララだとばかり思っていた。


 にこにこと笑顔をたたえた老婆は、物腰の柔らかい口調でリーヴェに尋ねる。


「もしかして、箱持ちと呼ばれてる魔法使いかい?」

「……はい。そう呼ばれてるみたいです」

「噂だと、たった一年の鍛錬で3級試験に受かったとか。それは事実?」


 リーヴェは少し悩むが、今さら否定はできない。


「はい、そうです」

「……そうか」


 返答を聞いた老婆は、何か考え込むような仕草を見せて押し黙る。


 リーヴェがどうしたらよいのか迷っていると、後ろにいた少年が老婆の横に並んだ。

 赤い髪に勝気な目つき。

 ララと同じくらいの背丈で、リーヴェよりも頭一つは低い。

 そのことも相まって、歳は二つ三つ下に見える少年。


 髪と同じ色、少年の赤い瞳がリーヴェを鋭く睨みつけた。


「おい、まずは名乗るべきだろうが! これだから土臭い田舎者は」


 静粛たる建物内。

 少年の怒号のような声が響き、何事かとギルド職員たちの視線が集中する。

 慌ててリーヴェが名乗ろうとしたところで、それを遮るように老婆が右手を前に出した。


「いやいや、失礼した。気が()くあまり、礼を欠いてしまったようだ」


 出された右手は空中で反転し、老婆の胸元に添えられる。

 その中指にはめられた指輪が天井からの光を受けて輝きを増した。


「王都1級魔法使いのベルタ・ファル・ヘアだ。よろしくね、箱持ちのお嬢さん」


 ベルタは笑顔のまま、少年に視線だけを向けて「おい」と声をかける。

 少年は小さく舌打ちし、胸に手をやった。


「ヘルトだ」


 リーヴェも右手を胸元に添えて言葉を返す。


「お初にお目にかかります。ノード国、3級魔法使いのリーヴェと申します」

「これはご丁寧にどうも」


 ベルタとヘルトの視線がリーヴェの後ろに向けられる。

 リーヴェは数歩後ろに下がるとララの背を触り、耳元でささやく。


「ララ様」

「ひゃ、ひゃい!」


 ようやく現状を理解したララが一歩前に出て、名乗りを上げる。


「ノ、ノード国、5級魔法使いのララ・エル・カザーネです。こ、この度はお会いできて光栄です」


 ベルタが目を細め、まじまじとララの顔を見つめる。


「その髪色に瞳、カザーネの家名。たしか……そう、占星の魔女姫だったか?」

「……はい。昔はそのように呼ばれていたこともありました」

「はぁ!?」


 ベルタとララの顔を交互に見ながら、ヘルトが大きな声を上げた。


「ちょっと待て! 二つ名を持ちながらその魔力? さらに5級だと?」

「彼女の魔法は特殊なもので、あまり魔力を必要としなかったはずだ」

「こんな魔力量で使える魔法など、たかが知れているものでしょう?」


 口ぶりから、ヘルトは稀な能力持ち、他人の魔力を見ることのできる人物なのだろう。

 たしかに、5級でありながら二つ名持ちという魔法使いなど、自分(ララ)以外に存在しない。

 事実を言われ、ララは唇を噛み締める。


「カザーネの名は聞いたことがある。たしかノード三大貴族の一家。お前、その魔力量は恥ずべきものだと思わないのか?」


 そんなことは、自分(ララ)が一番理解していることだ。

 望んで得られなかった才能。

 努力し、足掻き、渇望してなお、増えることがなかった魔力量。


 心の傷をえぐる言葉にララはうつむき、羽虫の鳴くような声を絞りだす。


「いくら努力しようにも魔力が増えないのです」

「本物のゴミじゃないか。救いようもないな、才能のない貴族が治める国など」


 ララはその言葉に顔を上げた。

 憤怒に顔を歪め、悔しさで奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばる。


「なんだその目は? オスファも野蛮な土民を呼ぶなど、どうしようもない」


 肩を震わせるララが右拳を握りしめる。


『まずくないか?』


 ララの変化に気がついたリーヴェが後ろから両腕を押さえ込んだ。


「か、帰りましょう、ララ様! 失礼しました!」


 ララを強制的にくるりと反転させる。

 リーヴェはララの背を押して、その場から逃げるように立ち去った。

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