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箱持ちの大魔法使い ~箱の中身はかつての魔王~  作者: アーリーセブン
第5章 求める先にあるものは~王都編~
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第63話 大聖堂Ⅱ

 石造りの広い通路に足音が反響する。

 ただ、その足音は定期的にぴたりと止まった。

 足音が止まれば、今度は二つの声が響く。


「これは何て書いてあるんですか?」

「ええっと、ここは……女神様が王都に降臨された日……の記述だね」


 難しい顔をしたリーヴェは目の前のものを覗き込む。


 見ているのは、国内最古の経典と案内板に書かれている巻物。

 開かれた部分に書かれているのは、うねうねとミミズがのたくったような文字。その達筆すぎる字はまったく読めない。


 二人がいるのは大聖堂内の見学路となっている場所だ。

 進行方向の左側には、様々な展示品が並ぶ。

 古い経典や教会に関連する書物。過去の神官たちが使っていた聖具や装飾品。兵士たちを導く女神を描いた絵画。

 並ぶ展示品は特殊な加工をされたガラスで覆われ、上からは魔道具の照明が照らしていた。


 巻物を見ていたリーヴェはため息を漏らす。

 それは目の前の文字が読めないからではない。気にかかることがあったからだ。

 その心配ごとを払拭すべく、リーヴェはおそるおそるララに尋ねる。


「ララ様……さっき修道女さんにいくら渡してたんですか?」

「金貨1枚だけど?」

「やっぱりですか!?」


 先ほど見えたものは間違いであって欲しい。

 そう思いながら尋ねたリーヴェの願望は粉々に打ち砕かれる。


「拝観料……高すぎじゃないでしょうか……」


 その言葉を聞いたララは、少し間を置いてから口を開いた。


「さっきのは寄付……寄付の意味はわかる?」


 ララの言葉に不安を覚え、うろたえるリーヴェは首を左右に振った。


「じゃあ、心付け(チップ)はわかる?」


 それならわかると首を縦に振った。

 それと同時に、言葉の意味を理解したリーヴェは顔を青ざめさせる。

 大聖堂見学の経費はノードの公金で支払われると聞いていたために。


「さっき手渡したのは心付けだよ。拝観料は事前に別で支払ってるからね。二人で金貨4枚」


 心付けとは無償で渡すもの。

 ゲアストの食堂で、エルザが心付けとして給仕に手渡していたのを何度か見ている。

 しかし、エルザが渡していたのは金貨ではなく大銅貨だ。桁が違う。

 さらに拝観料は別とのこと。もはやリーヴェは頭の整理が追いつかない。


 金貨5枚を稼ぐことがどれほど大変か。

 それも、王都に来たのだから大聖堂を見てみたいとの理由だ。

 そんな理由で金貨5枚もの大金を使わせてしまったと、リーヴェは自責の念に駆られる。

 言葉に詰まり、目からは涙が滲みだす。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫! 大丈夫だから!」


 異変に気づき、理由を察したララは慌ててリーヴェを慰めた。

 肩に手を置いて、優しく諭すように語りかける。


「あの魔道具はりべちんがいたからこそできた、でしょ? 今日の午後には魔道具の利権を売ってがっぽり稼ぐんだからさ。高く売れたら、それはりべちんの功績! だから大丈夫!」

「高く……売れますか……?」

「売れる売れる! だからね、ほら先に進もう!」


 ララがリーヴェの背を押し、歩くように促す。

 そして二人は並んで歩きだした。


「拝観料なんかが高くなるのは仕方のないことなんだよ。この大聖堂だけじゃなくてね」


 ララは歩きながら説明を始める。


 王国統治内において、教会は国の公金で建てられる。

 しかし、運営費となれば話は別だ。維持運営費は教会側で賄わなければならない。

 だからこそ、寄付を募ったり、治療費、拝観料などで資金を集める必要がある。

 さらに、ここは王都の貴族街。すべての費用は桁が跳ね上がる。


「でも私、近くの教会(ゲアスト西の教会)で寄付なんてしたことないのですが……」


 教会から貰って(配給)ばかりのリーヴェは、寄付という言葉を初めて聞いた。


「まぁ、それも仕方ないよ。ゲアストの場合、他国とはちょっと違うからね。どちらかと言えば神聖国のやり方に近いかな」


 ゲアストには教会が二つある。

 貧民街にほど近い西の教会は拝観料を設けていない。また、寄付の受け付けもしていない。

 富裕層の多い東の教会と資金を共有し、運営や配給にはノードの公金も投入されているのだ、とララは語った。


「そんな仕組みになっていたんですね」

「神聖国だと建てるのも運営も、国が全額負担しているらしいけどね。これは王国側と神聖国側の考え方の違いかな」


 女神レーツェルを信仰するのは、どちらも同じではある。

 しかし、魔法に対する考え方が違う。


 神聖国において、女神とは絶対的な存在だ。

 そして、魔法とは女神様から賜った神聖なものであり、同様に信仰すべき対象となる。

 王国でも女神は信仰すべき対象ではあるが、魔法は違う。

 魔法とは利用すべきものであり、富や権力を求める手段となる。


「根本的な考え方が違うから分断されちゃったんだよね。どっちもどっちだと思うけど」


 神聖国では、狂信的に女神を崇拝するあまり、人々の生活が疎かになっていると聞く。

 王国では、いまだに魔法第一主義が根付いている。


 実際、魔法とは人智を越えた力ではある。便利な力ゆえに魔法第一主義が根付くのは当然だろう。

 しかし、問題は魔法使いによる貧富の格差だ。

 格差は腐敗を生み、役人や兵士の中にも金や権力に溺れる者がいると聞く。


「これからのノードのために頑張らないと。ボクは立ち止まっていた期間が長いからなおさらね」


 そう言いながら、ララは照れ隠しで頬をかく。


「りべちんはもう魔法使いで地位もお金もあるんだし、教会ではできるだけお金を使ってもらうほうがいいかな。特にゲアストではね」


 民を統率するためには教会の力が必要だとララは考えている。

 力を強めるためにも、教会への資金援助は不可欠だ。


「でも、自分で考えて納得した上で」と、ララは付け加えた。


 展示品を見て回りながら二人の会話は進む。

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