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箱持ちの大魔法使い ~箱の中身はかつての魔王~  作者: アーリーセブン
第5章 求める先にあるものは~王都編~
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第62話 大聖堂Ⅰ

 現在のベルツ王国は七つの領土にわかれる。

 国の中央には王都があり、その周りを六つの領土が囲むように位置している。


 王都の東には交易路を持つオスファ領。

 西には山脈を挟み、神聖国との国境を守備するウェスフト領。

 南には、森林資源の豊富なジュタイク領と魔銀鉱山を持つジューメル領。

 北には、広大な草原地帯で牧畜をするノルベル領と、湖での養魚が盛んなノルゼ領。


 400年ほど前のベルツ内戦後、大幅に領土は失ったものの、その国力は健在だ。

 一般的に、国力を示す建造物として教会と魔法ギルドがある。


 王都にある教会は大聖堂として大陸に名を馳せ、王国統治内でもっとも大きな教会となる。

 着工が開始されたのは今からおよそ300年ほど前のことであり、ベルツ国王四世が建設期間20年をかけて造ったものだ。


 古びていながらも洗練された造りの建物は、大聖堂としての気品を放つ。

 さらに、目を引くのは庭園に立つ巨大な女神像。

 右手には智杖(ちじょう)と呼ばれる杖を持ち、この地に住まう人々を見守るように女神像が見下ろしている。


 そして、王都魔法ギルドはすべての魔法ギルドを統括する本拠だ。

 魔法至上主義により、血税が湯水のごとく投入された王都魔法ギルドは、大聖堂に見劣りしない建物となっている。


 また、内戦以降400年近く王政を維持できているのも、随一の国力を持つ証拠と言えるだろう。



   ◆ ◆ ◆



 王都に到着した翌朝。

 オスファの保有する宿舎を出たリーヴェとララは、入口に待機していた馬車に乗り込んだ。

 目指す先は大聖堂だ。


 交流会までは残り五日。

 打ち合わせの日を除き、開催日までリーヴェにとっては余暇となる。

 しかし、時間が惜しいとばかりに到着して早々、リーヴェはララに大聖堂の案内を依頼していた。


 二人の乗った馬車は、絢爛豪華(けんらんごうか)な王都の中を進む。


 王都には城郭都市オスファと同じように、城壁が存在する。

 王都の中心にはベルツ王の住まう城があり、それをぐるりと取り囲んでいるのが第一城壁となる。

 第一城壁の外は貴族の屋敷、様々な高級店が立ち並ぶ。流行はここから生まれると言われているほどだ。

 そこを囲む第二城壁があり、第二城壁の外側には平民の住む城下町が広がっている。


 馬車は大聖堂のある第二城壁内を進んでいた。


 やはり大国の都だけあってゲアストとはまったく違う。

 オスファの城郭都市を煮詰め、密度を濃くしたような感じに、リーヴェは思わず吐息を漏らす。


 しばらくして、言葉なく窓に張り付いていたリーヴェの視界に変化が訪れた。

 広い道に出たかと思うと、金属の柵を通り過ぎた馬車は庭のような場所に入る。丁寧に剪定された庭木が窓の外を等間隔に過ぎていく。

 流れる景色がゆっくりとしたものに変わり、ついに馬車はその動きを完全に止めた。


「着いたよ」


 隣に座っていたララがそう言うと、タラップに足を乗せる音が聞こえ、扉がノックされた。

 ララが開扉(かいひ)の許可を出す。

 御者でもあるオスファの従者が扉を開け、立ち上がった二人は馬車の外へと降りていく。


 馬車から降りたリーヴェは驚きのあまりに口を開け、木箱を腕に抱えたまま空を見上げていた。

 視線の先にあるのは巨大な女神像だ。


「すっごく大きな女神様の像……」


 宿舎から見えてはいたが、近くで見れば、あらためてその大きさがわかる。

 三階建てや四階建ての建物よりも遥かに大きい。

 職人たちの手によって、丹念に削られ造られたのだろう。

 単に大きいだけでなく、命が宿っているかのように感じられるほどの精巧な造りをした女神像が、遠く西の地を見下ろしていた。


  突っ立ったままのリーヴェにララが声をかける。


「ほら、りべちん行くよ。帰りに御御足(おみあし)のところを通れるようになってるから」

「あっ、はいっ!」


 いそいそと木箱を背負ったリーヴェは、先に歩きだしたララの後を追う。

 庭園から大聖堂の正門に向け、二人は並んで歩き始めた。


 後から見られると言われても、巨大な女神像は気になる。

 歩きながらもリーヴェが像を見ていると、大聖堂の脇から喪服を着た人がぽつりぽつりと現れ、女神像のほうへと向かうのが視界に入った。

 それにララも気づいたようで、顔を像のほうへと向けている。


「今日は告別式をやってるみたい。ここでってことはかなり名の知れた貴族だろうね」


 しめやかに行われる告別式。

 人々が並ぶ中、棺が見えるとリーヴェとララは足を止め、名の知れぬ人物のために祈りを捧げる。


 経典に記されていることだ。

 肉は土に、血は水に、魂は魔素へと還る。

 善なる者の魂は女神に迎え入れられ、平穏の時を過ごす。


 魂の平穏を祈った二人は、どちらからともなく歩き始める。

 正門にたどり着くと、開いていた大きな両開き扉を通り抜けて、二人は大聖堂の中へと入った。


 天井からは魔道具の光が周囲を照らす。

 石造りであるために外に比べて内部の気温はまだ低い。肌を撫でるひんやりとした空気が緊張感を(いだ)かせる。

 足を踏み入れたのは、厳粛な雰囲気漂う広いエントランスホール。

 二人のほかに拝観に来ているのだろう人物は見当たらない。

 いるのは受付に並ぶ修道女たちだけだ。


 その修道女たちが二人を見ると駆け寄ってくる。

 品位に欠けると言われる寸前の動作、速度で近寄ってくると、横一列に並んで一斉に頭を下げる。

 代表と思われる修道女が頭を上げ、一歩前に出た。


「ベルツ大聖堂においでいただき、ありがとうございます。ララ・エル・カザーネ様、本日の案内はご入り用でしょうか?」

「いや、大丈夫だよ。ボクは何度もここに来ているからね」

「承知いたしました」


 頭を下げる修道女たちを前に、ララが手持ちの鞄を開けて、中から小さな袋を取り出した。

 取り出したのは金属の擦れ合う音が鳴る袋。

 口紐をほどき、ララはその中から1枚の金貨をつまみ上げると修道女に手渡した。


 修道女たちが両膝をつき、手を組んで祈りを捧げる。


「女神レーツェル様のご加護があらんことを」


 祈りが終わるとララが振り返る。


「じゃあ、りべちん行こっか」


 修道女たちに見送られながら、ララとリーヴェは大聖堂の中を進み始めた。

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