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箱持ちの大魔法使い ~箱の中身はかつての魔王~  作者: アーリーセブン
第5章 求める先にあるものは~王都編~
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第61話 王都へ向かう道中にてⅡ

「私の夢……ですか?」


 リーヴェの夢。

 それはミック以外に知る者のいない夢だ。

 他人に言うのは小恥ずかしいのだが、ララは臆面もなく自分の夢を話してくれた。

 リーヴェはララの緑がかった瞳を見つめ、ゆっくりと口を開く。


「私の夢は大魔法使いになることです」


 頬が熱を帯びるのがわかる。きっと顔は真っ赤になっているのだろう。

 恥ずかしさのあまりにリーヴェはうつむいた。


「大魔法使いって……?」


 そう言われ、顔を上げたリーヴェは慌てて補足する。


「女神様に選ばれた魔法使い様のことです! そんな魔法使いになりたいってことで……」

「へぇ、そっか。そんな呼ばれ方があるんだ。りべちんは物知りだね。でも、大魔法使いってどうやってなるの?」

「それは……」


 魔法試験にも合格し、リーヴェは魔法使いになることができた。

 昔に比べ、金銭にも不自由することはなくなった。

 充実した日々を過ごす中、大魔法使いと呼ばれるためにはどうするのか、まったく考えていなかった。


 どうやって大魔法使いになるのか。

 必要なのは魔力に知識、そして名声。

 その三つがリーヴェの頭の中をグルグルと巡る中、一つの方法がふと閃いた。


「世界中を旅しながら、色んな人を魔法で助けたいですね!」


 己の腕を磨きながら知見を深め、困っている人々がいれば魔法で助ける。

 これならば、おのずと大魔法使いと呼ばれるようになるのではないか。

 閃きにしては素晴らしい案であり、これしかないと思える。


 それに、今までの旅は楽しいものだった。

 ローバスト山脈の(ふもと)や城郭都市オスファ、ネイザーライド。

 人に出会い、食に出会い、知らない文化に出会う。


 世界を旅する想像をして、にんまりと笑うリーヴェを前に、静かに聞いていたララが問いかける。


「世界中って、王国も?」

「はい!」

「神聖国とかも?」

「行ってみたいですね!」

「助けるって、無報酬で?」

「もちろんです!」


 ララが左右に首を振りながら、大きなため息を漏らした。


「それ、魔法ギルドや教会から絶対に目をつけられるから」

「えっ!? そうなんですか?」

「でも、夢としては壮大でいいかもね」

「ですよね!」


 口元を緩ませるリーヴェに対し、ララの表情が先ほどよりも暗く、悲哀なものに変わっていく。


「夢か……。ボクは悪夢からいつになったら解放されるのかな」


 ぽつりと零したララの言葉にリーヴェの表情は硬くなる。

 エルザやフェルゼンから、ララのことはそれとなく聞いている。


 占星の魔女姫。

 そう呼ばれていたのは過去のこと。今の二つ名は嘘つき姫だ。

 悪夢とは、そう呼ばれる原因になったもののことだろう。


「悪夢って……未来視の魔法で見たっていう戦争のこと……ですか?」

「そう。今さらながら本当に起こるのかどうか、ボク自身もわかんなくなっちゃったけどね」

「魔法で見えた未来なら、本当に起こる未来じゃないんですか?」


 未来が見えるのであれば、それが起こってしかるべきではないのかと、リーヴェには疑問が浮かぶ。


「そう思っちゃうよね。自分で研究していくうちにわかったことなんだけど、未来視の魔法って不安定なんだよ。この話、聞きたい?」

『聞かせてくれ!』


 腕の中の木箱が興奮したようにカタカタと蓋を揺らした。

 リーヴェは上蓋を手の平で押さえつける。


「聞きたいです!」

「面白い話だとは思わないけど――」


 ララは遠くを見つめるように視線を前に向け、説明を始めた。


 未来視には目で見るもの、夢で見るものの二通りあること。

 どうやって見えるのか、どんな感覚なのか。

 どのくらい先が見えるのか、どのくらいの時間が見えるのか。


 ララは未来視の魔法を簡潔に説明した後、不安定である理由を二つ述べる。

 一つはララ自身の魔力量が少なすぎること。

 そして、もう一つ。

 未来は変わるということ。


「見えた時点での未来は変わることがある」

「ノードで戦争が起こるかもしれないし、起こらないかもしれないってことですか?」

「そうなんだよね。でも、魔法で見えているから戦争という未来は存在するし、今のままだと確実に起こるはず。これが研究結果から推察したこと」


 一呼吸置き、ララは続ける。


「次は魔法でなく現実的な考察。普通に考えれば、まず戦争がありえない。相手は誰? 王国? そんなわけがない。もっとも可能性のある相手は神聖国なんだけど、そもそもノードで戦いが起こる理由がまったくない」


 ララは強調して再度「ありえない」と答えた。

 それから、どうしてありえないのかを説明していく。


 神聖国がノードに攻め入ると仮定すると、その経路は二通りある。

 王都、オスファを通りノードに入る経路。

 もう一つが神聖国影響下にあり、ノードと隣接するノベスト国を通る経路。


 最高峰の戦力を持つ王都、オスファを通る経路はありえない。

 神聖国の戦力はわからないが、王都、オスファを通って無事では済まないだろう。


 ノベスト経由であれば可能に思えるが、神聖国軍の北上を王国が座視するとは考えられない。

 宣戦布告と捉え、王国が神聖国へと攻め入るだろう。


 そして、そもそもなぜノードが戦いの地になるかということだ。

 ララは地位もあるため、情勢なども気にかけているが、理由に皆目見当がつかない。

 これならば未来視(予知夢)ではなく、偶然何度も同じような夢を見たと考えたほうが妥当だ。


 馬車の中、静寂が訪れる。

 蹄の音、車輪の音も小さくなったとさえ感じてしまうほどに。


 いまだにララは悪夢を見る。

 現実的に考えれば、戦争など起こりえない。しかし、ララは起こると信じている。

 予想もつかないこと、とてつもないことが未来に待ち受けているようで、そのことを考えると不安に押し潰されそうになる。


 うつむいていたララは顔を上げ、努めて明るく振る舞った。


「ごめんね、なんだか変な話をしちゃって。でもね、何も悪いことばかりじゃないんだよ。この魔法は女神様がボクだけに、こっそり教えてくれているって思ってるんだ」

「それ、素敵ですね!」


 女神がララにそっと耳打ちするような姿を想像し、リーヴェは膝上の木箱をギュッと両手で抱き締めた。


「そうそう、女神様と言えば。聞いてると思うけど、大聖堂とかボクが案内するからね。エルザちんは忙しいみたいだし」

「そうみたいですね。王都に着いたら是非お願いします」


 交流会の開催日までの間、エルザが観光案内をする予定だったのだが、案内役はララに代わった。

 王都滞在中、エルザは貴族訪問(挨拶回り)をするため、別の馬車にて段取りの準備中だ。


「ララ様は一緒に行かなくていいんですか?」

「いいのいいの。ボクは別件で動くんだから。適材適所ってやつだね。それにしても、りべちんと王都巡りなんて楽しみだよ」

「私も楽しみです!」


 二人は顔を見合わせると、互いに笑い合った。

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