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第51話 冬のノード攻防戦Ⅱ

 頭にサークレットをつけたエルザは、手に持った紙に視線を落とす。

 その紙はララから渡されたものだ。

 庭のどこに雪の壁や高台を作るのかといった指示が書き込まれており、どこから手をつけるかとエルザは思案していた。


「エルザ様、俺はどうしたらいいですかい?」


 雪に突き刺したスコップに、寄りかかるよう座っているフェルゼンが尋ねる。

 このスコップもララの考案したもので、先端の金属部分が発熱するようになっている魔道具だ。


「ちょっと待ってください。まずは中心の位置を確認しないと」


 今、二人がいるのは魔法を使い、玄関先から進んできた庭の中心辺りだ。

 周りは高い雪の壁に囲まれているが、建物の屋根は見えている。

 建物の位置と紙に書かれた指示を比べつつ、エルザは頭の中に配置を思い浮かべた。


「だいたいの位置は把握できました」


 エルザが魔法を使って大量の雪を動かしていく。

 フェルゼンはエルザの指示に従い、スコップで雪を掘る。

 二人は雪合戦の陣地作りを開始した。


 そんな作業をする二人を横目に、リーヴェはララから魔道具(受話装置)の説明を聞いていた。

 リーヴェは手に持ったサークレットを様々な方向から眺めた後、頭に乗せる。


「そこが受話器ね。受話器を左耳に当てるようにして」


 ララから言われ、リーヴェは受話器の部分が左耳に当たるように調整する。

 受話器部分には布が当てられ、金属の冷たさを感じることはない。

 そして軽量化してあるためか、思っていたよりもサークレットの重さは気にならなかった。


 ララが距離を取り、5メートルほど離れたところで、二人は互いに背を向けた。

 腰からぶら下がる送話器を手に取ったララは、口を開く。


『エルザちんは――実はデベソッ!』


 聞こえてきた内容はともかくとして、魔道具からララの声が聞こえてきたことに、リーヴェは目を丸くする。

 ミックにも聞こえていたようで、上蓋が動いてカタカタと音を上げる。


「おーっ!?」

『おお!?』


 リーヴェとミックは揃って驚きの声を上げた。


 片耳を押さえながら飛び跳ねるリーヴェの様子を見て、ララはにんまりと笑う。


『この効果範囲はどうなんだ?』

「声ってどのくらいの距離まで届くんですか?」

「まだ狭いんだけど、この庭全域には届くはずだよ。ちょっと待っててね」


 ララが庭側を見ながら歩き、エルザを探す。

 ちょうど門扉に近い場所にいるエルザを見つけると、ララはリーヴェを手招きした。


「あの位置なら届くね。ちょっとだけ声が遅れるかもだけど」

「遅れる……ですか?」


「まあ見ててよ」と、ララは腰の送話器を手に取った。


「あー、こちらララ工房長。エルザちん聞こえる? 聞こえたら右手を上げてね」


 一呼吸置き、紙を見ていたエルザがきょろきょろと顔を動かした。

 ララとリーヴェに気づいたエルザが右手を上げる。


「すごい! ちゃんと聞こえてるみたいですね!」


 手袋をした手をぽふぽふと打ち鳴らし、リーヴェはララに拍手を送る。


「よし! じゃあ、軽く確認してみようかな」


 エルザは手を上げたままだ。

 どうしたらいいのか指示を待っているようで、困惑しているのが見て取れる。

 ララは薄笑いを浮かべながら送話器を口元に当てた。


「右手下げてもいいよ。通話の確認するから指示に従ってね。じゃあ、今度は左手上げて」


 エルザが右手を下げ、左手を上げる。


「左手下げて、右手上げて」


 左手を下げたエルザが、今度は右手を上げる。


「左手上げて、左足上げて」


 ララの言葉にエルザは戸惑いを見せた。

 しかし、それも一瞬のこと。

 素直に従ったエルザは、両手、左足を上げ、右足一本で立っていた。


「左手下げて、右手左足下げ――ない!」


 平坦ではない雪の上だ。

 エルザはグラグラと揺れるものの、なんとか踏みとどまる。

 そんなエルザの姿を見て、ララは声を押し殺して笑う。


 笑い声を漏らしながら、ララは送話器を握りしめた。


「左手上げて、右足上げる!」


 両手両足を上げたまま、エルザは空中に飛び上がる。

 しかし、空中に浮けるはずもない。

 飛び上がったエルザはそのまま地面に落ち、臀部(でんぶ)を打ちつけて雪の上を転がった。


 それを見ていたララは耐えられず、腹を抱えて笑い転げる。


「……ララ工房長。ちょっとやりすぎなのでは?」

「大丈夫、大丈夫。エルザちんは優しいからね。これくらいで怒りはしないよ」


 リーヴェの視界には、顔を真っ赤にしたエルザがこちらに向かってくるのが見えていた。

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