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箱持ちの大魔法使い ~箱の中身はかつての魔王~  作者: アーリーセブン
第3章 魔銀の行方~技術者誘致編~
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第40話 品評会Ⅰ

 グンターの鍛冶場で造った魔道具は宿の二階、エルザの部屋に持ち込まれた。


 目の前には木箱に収められた魔道具。

 天井からの光を受け、魔道具には銀の濃淡が文様のように浮かび上がっている。


 その細腕をしなやかに伸ばし、そっとエルザが触れた。


 指先から伝わる冷たい金属の感触。

 美しさに魅了されたように、エルザは恍惚とした表情で魔銀の触感を味わうかのようになぞる。


 魔道具を触ることしばしのち。

 この部屋にいるのは一人ではなかったと、我に返ったエルザは振り返った。


「ノードの国宝にしてもよいくらいの出来です。これが王国に接収されるとは納得できませんね」


 鼻息荒く、捲し立てるようにエルザは喋る。

 しかし、ため息を吐き、考えを散らすように頭を振った。

 これを品評会に出品しなければ目的を達成できないのだと、エルザは自分自身に言い聞かせる。


「ミック師匠、リーヴェ。ありがとうございました」


 エルザは目の前のミックとリーヴェに感謝の言葉を捧げる。


 残すところ、品評会まで四日しかない。

 これから急いで魔道具性能評価書の作成に入らなければならない。


「次は私が頑張る番ですね」


 仲間たちは力を尽くし、やり遂げてくれた。

 その想いを無駄にしないよう、エルザは颯爽と動き出した。



   ◆ ◆ ◆



 品評会当日の早朝。

 魔道具を積み込んだ荷馬車が宿を発つ。

 一時間ほどかけ、品評会が行われる会場にエルザたちは到着した。

 城塞都市オスファを小さくしたような建物に感嘆の声を上げつつ、会場へと入る。


 品評会はネイザーライドの町、西端に位置する会場で行われる。

 会場となるのはドワーフたちの手で造られた楕円形の建物。建物といえど屋根となる部分はなく、壁で囲っただけのものだ。

 切り出した石を真四角に加工して積み重ねた壁は、近寄らなければ継ぎ目もわからないほどであり、ドワーフの加工技術の賜物といえるだろう。


 建物内部は外見と同じく楕円形になっており、収容人数は3万人と広い造りになっている。

 その最奥には舞台が組まれていた。ここが魔道具を披露する場所だ。


 舞台の右手には、この場に似つかわしくない建物がある。

 豪華な建物であり、小さな貴族屋敷と呼べるようなもの。

 そこは王国魔法ギルド、王国鍛冶ギルド、ネイザーライド鍛冶ギルドの審査員のための主賓席となる建物だ。

 国賓となる王国の要人を迎えるため、この建物には魔道具技術の(すい)が凝らされている。

 今の時期はそれほど暑くはならないが、風の魔道具、氷の魔道具を使い、過ごしやすいように空調にも配慮されている。

 また、建物の前面には、ドワーフ屈指の技術力で造られた透明度の高いガラスがはめ込まれていた。


 主賓席となる建物の横には品評会運営本部が設置され、こちらは天幕が張られるのみとなる。

 舞台左手は民芸品などが展示される場所。

 舞台前は一般観覧席となり、数百人が座れるように長椅子が設置されている。

 その後方には、王国国民の場所として領地ごとに区切られ、テーブルや長椅子が置かれていた。



 内周の壁際には、露店を出す準備をするドワーフたちがあくせくと作業をする。

 そんなドワーフたちを横目に、エルザたちはオスファ領の場所に向かう。

 ノードの場所はないため、オスファに割り当てられた場所の一部を間借りすることになっていた。


 指定された場所に着くと、それぞれが動き出す。


「さっそく向かいましょうか」


 エルザはフェルゼンとグンターに告げる。

 フェルゼンが頷き、魔道具の入った木箱を軽々と持ち上げて肩に担ぐ。

 グンターも負けじと、もう一つの木箱を持ち上げる。

 魔道具を納めるため、三人は品評会本部へと向かった。


 本部で受付を済ませた三人は、運営委員のドワーフに本部裏手の倉庫へと案内された。

 倉庫内で指定された場所に、フェルゼンとグンターは持っていた木箱を降ろす。


 フェルゼンが周りを見回すと、地面や棚にはほかの出場者が持ち込んだ木箱が置かれていた。

 紐や板で区切られているが、乱雑に置かれているようにしか見えない。


「こんなところに置くのか? 盗まれたり壊されたりしたらどうするんだ?」


 フェルゼンは冒険者であり、主な任務は商隊の護衛だ。

 もちろん、危険なことは今まで幾度となくあり、高価なものは気持ちを惑わせるものだと知っている。

 今の時間帯、会場内にいるのは出場者や露天商だが、品評会が始まって一般客が増えるとなると警備や場所に不安を覚える。


 不貞腐れた顔をしたグンターがぶっきらぼうに答える。


「我らドワーフがそんなことするか。この若造が」

「王国に納めるものですし、警備として王国から派兵もされているので大丈夫ですよ。とりあえず、これで後は順番を待つだけですね」


 出場の申し込み、魔道具の制作や書類の作成。

 考えていた以上に余裕のないものとなっていた。

 しかし、何事もなく無事にここまで来られたと、エルザはほっと安堵のため息を漏らす。


 そんな気を緩めたエルザの後ろから近づく人影があった。


「もしかして、エルザかい?」


 後ろから急に声をかけられ、三人が揃って振り返る。

 振り返った先、そこには一人の老婆が立っていた。

 端然と立ち、一つにまとめた白髪の長い髪を肩からさげ、豪奢なローブを着た老婆。

 振り返ったエルザの顔を確認した老婆は、凛としていた表情を崩して顔をほころばせる。


 誰なのか気づき、驚いた表情をするエルザが数歩前に出た。


「お、お師様! ご無沙汰しております!」


 近づいたエルザを老婆が抱きしめる。

 久方ぶりの抱擁を懐かしむように、エルザは老婆の胸元に頭をもぐり込ませて抱きしめ返した。


「久しいね。最後に会ったのは四年ほど前か。元気にしてたかい?」

「はい。おかげ様で。報告遅れましたが、無事3級魔法使いの資格も取れました」

「さすがはエルザだ」


 しわを深くして笑った老婆はエルザの頭を撫でる。

 エルザは、少し恥ずかしげな表情を浮かべながらも笑みを零した。


「……お師様はなぜここに?」

「今日は品評会だろ? 私がいちゃ、変かい?」

「いえ……」


 二人が抱擁を交わす中、フェルゼンが声をかけた。


「エルザ様……そのお方は?」


 老婆から離れたエルザはフェルゼンとグンターに紹介する。


「王国の1級魔法使いであられるベルタ・ファル・ヘア様です。私の師でもあります」


 ベルタは王国留学中のエルザの師だった。

 1級魔法使いであり、王国魔法ギルドの副ギルドマスターを務めたこともある人物だ。

 ただ、それは過去のことであり、今回の来賓として参加するとはエルザは思いも寄らなかった。


「ところで、なぜエルザがこんなところに?」

「それは……話せば長くなるのですが……」

「そうかそうか。そいじゃこっちにおいで。この際だ。王国のギルドマスターにも顔を見せたらいいだろう」

「わ、私がですか!? そんな恐れ多い……」

「かまわんだろ。あいつはあたしの言うことにゃ逆らわないからさ」


 エルザは強引に手を引かれ、外へと連れ出されていく。

 呆然としているフェルゼンとグンターに、エルザは顔を向けた。


「あ、後のことは頼みましたよ!」


 突然現れたかつての師によって、エルザは主賓席に連行されることとなった。



   ◆ ◆ ◆



 リーヴェたちのいる場所にフェルゼンとグンターが戻る。

 ちょうど二人が戻った頃、会場は一般開放された。

 建物外で待っていた一般ドワーフや、工房の鍛冶職人、王国の商人たちがぞろぞろと入場を始める。

 観覧席を押さえようと走るドワーフ、露天の食べ物に目を奪われるドワーフ、同時に解放された工芸の展示品を見て回るドワーフと。

 会場内には多くの者たちがあふれ、賑やかになっていく。


 フェルゼンからエルザのことを聞いたリーヴェは声を上げた。


「えー、エルザ連れてかれちゃったんですか」


 品評会のメインとなる魔道具部門が始まるまでは、まだ時間がある。

 エルザと見て回ろうと思っていたリーヴェは残念といった表情を浮かべた。


 ミックはいるが、一人で回るには不安もある。

 リーヴェは周囲を見渡し、一人の少女に目が留まる。


「レイネちゃん、一緒に見て回らない?」


 ここでは料理も掃除もやることがなく、所在無さげに座るレイネに声をかける。

 レイネはこの国に来てから外出もしていなかった。仕事で来ているので当然とは言えるのだが。


「え? いいんですか?」

「もちろんだよ」

「嬢ちゃんが行くなら俺もついてくぞ」

「よし、じゃあ行こう!」


 ジークに一言告げ、三人は連れ立って民芸品の展示される場所に向かった。

 人のあふれる会場は熱気に包まれる。

 壁際には露天が並び、そこからは焼かれた肉や野菜のかぐわしい香りが漂ってくる。

 リーヴェとレイネは祭りのような会場に胸を躍らせる。

 はしゃぐリーヴェとレイネをフェルゼンが保護者のように見守りつつ、三人は工芸の展示品を見て回った。


 展示品は多種多様。

 木製の椅子やテーブルにタンス、金属製の調理器具、武器や防具まで、様々な物が並ぶ。


 とあるブースの前でリーヴェとレイネは足を止めた。

 髭がまばらに生えた若いドワーフの男が立ち、目の前の棚には様々な木彫りの工芸品が置かれていた。


 魚をくわえた豚のような動物を象ったもの。

 どうやって作っているのか、首がカクカクと動く馬のような動物のもの。

 そして、木で彫られた女の人形があった。


「これって女神さまですかねー?」


 隣りで馬の首をつつくリーヴェにレイネが尋ねる。

 リーヴェがその人形に目を向けると、確かに教会で見る女神像に似ているように思える。

 大きさは手の平ほどのものであり、細かく彫り込むことは難しいのか、ずいぶんと歪な形だ。

 それゆえに、女神を模したかもしれないという程度のものだったが。


 それを後ろから眺めていたフェルゼンがぽつりと零す。


「これはちょっとまずいかもな」

「なんでですか?」


 フェルゼンの声に、リーヴェは振り返って尋ねる。

 それと同時に人混みの一角が騒然としだし、ドワーフをかき分けるようにして幾人かの武装した人間の兵士が現れた。


「ここから離れるぞ」


 レイネはフェルゼンに抱きかかえられ、リーヴェは手を引かれる。

 先ほどまでいた場所から怒声が響いた。


「貴様ー! なんだこれは!?」

「これは女神様じゃないのか!? こっちで詳しく話を聴かせてもらう!」

「こ、これは違います! 女神様じゃないです! 違うんです!」


 若いドワーフは縄をかけられ、兵士に連行されていく。

 すぐさま運営委員のドワーフが現れ、そのブースを手早く片付けていく。


 そんな様子を離れた場所からリーヴェたちは見ていた。


「あれって駄目なんですか?」

「……女神様関連のものはどれほど質がよかろうが、教会の許可が下りなければ駄目なんだよな」


 リーヴェも女神を信じる一人ではあるが、目の前で起こったことに納得できなかった。

 そんなことを女神が望んだのだろうかと考えると、疑問しか湧いてこない。


 不満げな顔をするリーヴェにフェルゼンが声をかける。


「よし、二人とも出店のほうに行くぞ。何か買ってやる」

「本当ですか!?」

「ほんと? やったー! フェルゼンのおじちゃんありがとう!」


 レイネは両手を挙げて喜び、リーヴェは早く行こうとフェルゼンの手を引っ張った。

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