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第17話 素材の持ち込み

 冒険者ギルドを出たリーヴェは大通りを歩く。

 リーヴェが向かう先は同じ大通りに面した三階建ての大きな建物――魔法ギルドだ。


 少しばかり歩き、魔法ギルドに着くと、リーヴェは扉を押し開けて中へと入った。

 受付のカウンターにいるアンネを確認して、ロビーのテーブルへとミックを降ろす。

 箱を開け、中をごそごそと漁る。目当てのものを手に取り、両手に抱えると、リーヴェはカウンターに向かった。


「おはようございます。アンネさん」

「お、おはようございます。リーヴェさん」


 少しよそよそしい風体のアンネだが、リーヴェは疑問に思わない。

 この手に持っているものに驚いているのだろうと考えた。


「あの……そ、それは……?」

「今日はこれについて聞きたくて来たんです」


 両手に抱えるものをカウンターの上に降ろしていく。

 獣臭を放つ棘の生えた毛皮、白い獣の牙がアンネの目の前に並べられた。


「これって魔法ギルドで買い取りとかできませんか? 氷柱狼のものなんですけど」

「買い取りは可能ですが……」


 転がる牙の一つを手に取り、アンネは目の前に掲げると、興味深げに色々な方向から眺める。


「これが氷柱狼の牙……」


 氷柱狼はノード北部の山岳部に生息している。

 特徴としては、さながらハリネズミのように体全体を覆う棘の毛だ。

 魔力をたっぷり含んだ唾液でのグルーミングにより、硬化された毛は針のように鋭く尖る。

 尖る真っ白な毛が氷柱のように見えることから氷柱狼と名付けられた魔物だ。


 魔物とは魔力を多く体内に含んだ獣のことであり、その素材は魔道具にも使われる。

 氷柱狼はローバスト山脈でリーヴェが修業に励んでいた時の食料であり、肉以外の部位が売れないかと素材を持ち帰っていた。


「毛皮が大銅貨1枚、牙は銅貨数枚ですね」

「そ、そんなに安いんですか!?」


 そんな金額であれば、持ち帰ったものすべてを売っても数日の食費程度にしかならない。

 銀貨数枚になるのでは、と目論んでいたリーヴェはうなだれる。


「魔法使いや魔道具開発者には売れるのですが、魔物の素材は加工しづらく価値が低いんですよ」


 ノードの加工技術力は低く、王国の技術者に頼っているのが現状だ。

 代替品があるような素材は相対的に安くなる。


 鋭い棘に気をつけながら、毛皮に触れていたアンネがリーヴェに尋ねた。


「あの、肉はどうされたんですか?」

「え? もちろん食べましたけど」

「氷柱狼の肉は高級食材です。今の相場なら、一頭当たり銀貨数枚で取り引きされていると思います」

「そうなんですか!?」


 高級食材と聞いたリーヴェは肉の美味しさに舌を鳴らしたことを思い出し、出てきた唾を飲み込んだ。


 リーヴェは北の地に行くまで、ほとんど肉を食べたことがなかった。

 年末の一日、女神降臨を祝う記念日に鶏肉を食べるくらいだ。

 肉を食べ慣れていないために美味しく感じているのだと思っていたのだが、高級食材と聞いてあの美味しさに納得する。


「食肉ですと魔法ギルドで扱えませんが、商業ギルドへの紹介は可能です」

「わかりました。持ち込む時はよろしくお願いします」

「ところで、この素材……氷柱狼はリーヴェさんが狩ったものですか?」


 顎に手を当てたリーヴェは考え込む。

 これまでにリーヴェが狩ったのは一頭だけで、それ以外はミックが狩ったものだ。


『おい、私の名前を出すなよ』

「すべて私が狩りました!」


 得意げな顔を浮かべ、リーヴェは胸を張って答える。


「それはすごいですね! お時間があるなら、そのお話を伺ってもいいですか?」


 時間と聞いて、リーヴェはこれからしなければならないことを思い出す。


「すみません、冒険者ギルドから受けた仕事の途中なんです。アンネさん、色々とありがとうございます!」


 カウンターに並べた素材を両手に抱え、リーヴェはミックの元まで移動する。

 そそくさと木箱に仕舞い、一礼したリーヴェは箱を背負うと魔法ギルドから出て行った


 出て行くリーヴェを見送ったアンネは手元にペンと紙を用意する。

 先ほどの会話の内容を思い出しながら、紙に書き止めていく。


 魔物が増えないように、年に数回は冒険者を使って大規模な討伐隊が組まれる。

 それでも何人かは負傷したり、死ぬことすらある任務だ。

 魔物が跋扈(ばっこ)する、人にとっては危険な場所であるローバスト山脈。そのような場所で、リーヴェは師と魔法の鍛錬を積んでいたのだろうか。


 そんな予想をしながらアンネはペンを走らせた。

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