金髪紅眼の討滅の刃ー幕間ー
「➖➖➖➖➖➖ッ!!」
夜陰に鬼の咆哮が轟いた。
「アァッ! 違ウ! 違ウ! 違ァウッ!! 誰ダ!! 誰ガオレっちのシェイラたんを奪ったんだッ!! こんな……こんな人形を置い……置いテェェエエッ!! 許さないッ!! オレっちは絶対に許さないかんなぁっ!! 見つけ出して絶対二……絶対二ぬっ殺ス!!」
ザッという玉砂利が微かに鳴る。
その音が喚き散らす鬼の耳に届く。
「ァ?」
鬼が誰だ、と振り返ろうとして言葉を失う。そこには息を呑むほどの絶世の美少女が見事に三点着地を決めていたからだ。
風に靡く金髪のツインテール。花の顔に夜闇に炯々と燃え灼ける様な紅い鬼灯の瞳。
華奢であるが弱々しさは感じられず、活力に溢れ、獲物を狩る猫科の動物を彷彿させる。
「ヒッ!?」
鬼と成ったばかりの青年に原始的な恐怖を抱かせた。
まだ人が森の住人で最弱の獣で在った時の。夜が真の闇で在った頃の恐怖。夜闇に輝く夜行性の獣の瞳に怯えたのだ。
アイドルを標的にした鬼が、この夜、自分が目の前に立ち上がった美しい獣に狩られる側に回ったことを悟った。
だが、そんな理性も匂い立つような美しい少女への興奮で染め上げ、劣情で塗り潰す。
鬼の嗅覚が金髪美少女の香しい甘い匂い。血の匂いを嗅ぎ取った。
鬼の力を望む本能が目の前の獲物を欲した。貪り喰らいたい、と思った――
「アァァアァァッ!! シェイラたん! シェイラたん!! シェイラたァァァァんッッっっ!!!! アァァアァァッ! オレっちのシェイラたぁん!! そんなとこに居たんでしゅね!! 誰が連れ去ったかは知らんけど!! シェイラたんはオレっちのもとに帰って来てくれた!! やっぱりオレっちを愛してくれてたんでふねぇっ!! オレっちも愛してるよん!! 見てくれよこのパワー!! オレっちとシェイラたんのラブベリーな新婚生活を邪魔する奴は皆まとめて追い払ってあげるかんね!! 安心して良いよぉ!! デュフフフフ!!」
――しかし、そんな事よりもヲタク心が勝った!!
「シェイラたぁぁん!! 最っ高でふぅぅっ!!」
狩衣、もしくは水干をちょぴりセクシーに可愛らしくファンタジーっぽいアレンジを施した意匠のコスチュームを纏う美少女に歓喜した。
「それって!! それって!! アレでふよねっ!! 『デモンスレイヤー グランシャリオー』の天宮 七星ちゃんが悪鬼を討滅する時に変身した姿!! ベネトナシュ―― 決戦フォームのコスプレをしてくれるなんてっ!! 嬉しすぎまふぅっ!! 流石オレっちの嫁でしゅでゅふふっ!! デュフッ!!」
鬼は歓喜のあまり絶頂し有頂天になった。
「それなら、悪鬼の末路も知ってるよね」
絶頂の真っ只中にいる鬼に冷水を浴びせたのは金髪の美少女だった。
【ラブベリー】甘酸っぱく愛し合うこと。甘酸っぱい愛が溢れていること。またはその気持ちを喩えたり、その(スイートな)時間や、その気持ちを表した食べ物。ラズベリー、ブルーベリー、ストロベリー、を使用したスイーツなどをさす。