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朝・日常〜双樹〜

 柚姫おねーちゃんは洋菓子店ウィスティリアの準備で直ぐに家を出た。おとーさんも着替えを取りに来ただけだ。おとーさんは柚姫おねーちゃんを店まで送って行くと言っていた。


 残されたわたしはゆっくりと過ごす。抹茶を牛乳で溶いて抹茶ラテにして飲みながら、録画していた深夜アニメを観る。


 しばらくするとインターフォンが鳴り、出ると画面には思った通りの人物が来ていた。


『若杉です。おはよう御座います。涼風さんをお迎えに参りました』


「ハヨー、真絢さん。ご苦労さま。開いてるから入って来て」


「お邪魔致します」


「上がって待っててよ。そこに抹茶入ってるから好きに飲んで」


「では、遠慮なく頂きます」


 わたしは二階に向かい、涼風の部屋をノックしてドアを開ける。


「涼風。起きなよ」


 朝練には遅れない涼風が寝坊するなんて珍しい。それだけ、練習をして身体を酷使しなければ世界とは渡り合えないのだろう。


 眠る涼風がまた少し痩せた気がした。


「んぁ。もう朝ぁ?」


「真絢さん迎えに来てリビングで待ってもらってるからね」


「お姉、おはよーのチューしてくんなきゃ起きれない」


「仕方が無いなぁ。何時も頑張ってるごほーびだからね」


 チュ、と軽く啄む様なキス。


「違う〜。して欲しかったのはおデコじゃない〜」


「何言ってるの。わたしのデコチューほど御利益があるデコチューは無いんだぞー」


 何せ、鬼斬りの厄除け、魔除け、必勝、病快復の祈り、願いが込められたデコチューだ。


「御利益があるって、お姉が言うと冗談に聞こえないよ……」


 冗談で術なんて使えないよ。期待だとか、欲望とか想念とか濁り澱み溜まれば重くなる。それに雁字搦めにされてしまう。


 ――あとで燃やすか。


 丁寧にたたみ折り、更に呪符で封じる。


「双樹さん。彼女ですが……」


「彼女が対価を払う覚悟を決めて、それでも迷い、悔やみ、捨てなければならない自分に、その要因となった全てに怒りながら選んだ道を誰も邪魔出来ないよ。わたしに出来ることは鬼を斬ることで彼女を守るということだけ」


 アフターケアもしている。


「全てが同じ、とはいきませんが、最低限度の生活のフォローはしておりますが……」


「居るんだよね。母親を大切にしない奴を許せない、とか軽蔑するとか、誰から生まれてきたんだ、とか言う人。けどそれって埒外に居る人間にしてみれば不快極まりないと思うのよね。子供を産んだから母親になる? 全員が? そんな訳無いじゃない。自分の子供を人とも思わない親も存在する。傷付けて殺してしまう親も存在するわ」


「そう……ですね」


 彼女は親の下から抜け出した。アイドルとなって事務所が管理するアパートに住み始めた。“サザンクロス”というグループで一、二を争うほどの人気があった。


 母親と父親と名乗る存在が彼女の人気に目を付けた。醜聞誌を見たけれど、彼女の情報をその二人がリークして、お金を受け取っていた。それがまた醜聞誌に掲載され、厄介な人たちが彼女を張るようになった。


 それによってアパートも知られ、厄介ヲタクも湧き出た。


「有栖川シェイラさんを狙ったモノは――」


「視たでしょう? 飼い猫は主人の恨みを晴らす為に、鬼になってまで生きていたし、それに奴の部屋も。彼女を攫って監禁していた場所も」


「……はい。ですが、本当にあのモノは鬼と変容したので――!!」


「見た目が鬼らしい鬼、の方が珍しくない? 人を貶め、苦しめて、攫い脅かし、襲えば立派な鬼、でしょう? 鬼斬りにとっては、さ。人の姿形だから逃した、とか、見落とした、何ていうそんな情けない不様な言い訳をして、人一人、鬼に喰われたのを仕方が無いって鬼部の様なこと許されると? 救える時に救わないで何時、鬼から狙われ襲われている人を救うのかしら? ねえ? 一番隊副隊長さん」


 顎クイにキスが出来そうな距離まで顔を近づける。


「あーっ!! お姉、私にはおはよーのチューをしてくれなかったのに真絢さんにだけずるいっ!!」


 ビシッと指を差し、腰に手を当て声を上げる妹によって、シリアスな雰囲気が壊れた。


「それこそ毎朝、涼風の送迎をしてくれているごほーびじゃない」


「だ、だったら今年の大会全勝したら私にもごほーび頂戴!! 決まり!! 絶対だからね!! 約束!!」


 わたしの小指に自身の小指を絡ませて、約束の古式ゆかしい呪歌を口にする。


「ほら、早く行きなよ」


 朝と昼のお弁当を渡す。


 ありがと、行ってきます!! と元気に出かけて行く涼風を見送る。


 うーん。何だろう。作画に魅力が無い。美麗でも無いし、原作を真似出来てもいない。中途半端。


 最近のアニメは原作通りの作画をしなければ、原作ファンからは受け容れられない。けれど魅力的な作画をするアニメーターさんは、原作をリスペクトしつつオリジナル要素を入れて繊細かつ美麗にしあげて魅せる。


 原作も殺す中途半端な作画のアニメは原作も貶める。


 アニメや漫画好きのヲタクが、イラストを書き始めたばかりのような作画。戦闘シーン然り日常シーン然り。


 一方、しっかりとした作画のアニメもある。資金とかあるけど、作りて描きての質じゃないかなぁ。


『召喚されたのに聖女は間に合っているのでご遠慮下さいと言われ、放り出された私は絶滅危惧種な精霊術士でした!!』


 原作:千咲 繭美  Illustration:玖琉 凪紗


 おかーさんの初アニメ化作品だ。漫画版や原作イラストに似ても似つかない作画でこの夏の最大の爆死アニメ間違いなし。


 PVと人気声優さん、主題歌で出し切った感満載だ。


 逆に主題歌を担当する歌い手さんや声優さんには申し訳なくなる。


 ――爆死アニメの担当になってゴメンナサイ。キャリアの黒歴史にならない事を願います。おかーさんは不快感や態度に出せなかったんだろうなぁ。空気が読めない、とか、そんなことで怒るな、とか言われたりするから。


 本当に原作を使い捨てにするアニメが多すぎる。

 ストーリーをブチ壊すシナリオ。崩壊するキャラデザ。

 

 萌文化が生きているからアニメやマンガ、ゲームで凄い日本で存在感を放っているけれど、駄作が量産され続ければ、呆れられて飽きられる。


 現に海外ではエンターテイメント業界は崩壊しつつある。

 映画、ゲーム、モデルを起用した広告など。部外者が口を出して横槍を入れる過激思想の影響で作品が歪んできたりしている。


 世の中には様々な肌の色をした人種がいる。同じく姿形も。そんなのは当たり前だ。


 だからといって、特定の容姿は駄目だ、と言うのは逆に生まれ持ったものを否定し、拒絶し、忌避し、差別しているのと変わらない。


 ならば、そういった団体や人たちは自分たちの気に入る作品を自分たちでブランドを立ち上げて資金を出しあって作ればいい。作れないなら資金を出してメーカーに依頼をすれば良い。


 ――まぁ、さっきアニメを批評したわたしにブーメランだけどさぁ。


 初回生産限定の円盤買う身にもなって欲しい。好きな声優さんが歌うキャラソン。原作者書き下ろしの小説。


 欲しい!! 心から欲しい!! けれど作画がアレじゃあ限定グッズが本体でアニメがオマケになる。


 限定版はヲタ活をするバイトJKには手を出したくても出しにくい。けど、欲しい!! だから、バイトをして貯金する。だけど……。


 ――中古にするかぁ……ってなるじゃん!! 今月はシングルもアルバムも出るし、新刊なんて……。


「双樹……」


「おかーさん。ハヨー」


「真絢からメール来ていたけど、貴女、その為に実績を上げている訳ではないわよね?」


「わたしが冤罪で鬼に仕立て上げて斬ってるって? ナイナイ。わたしが預けられた先で、そういうことも学んだけれど、この眼に限って見誤って冤罪でした、なんて無いよ。まぁ、あえて言えば、正気では無く、飼い猫一匹殺めたとはいえ、まだヒトの範疇と言えなくもなかったけれど」


 まぁ、それでも――


「そんな鬼を斬るのは初めてじゃないもん。七つになるかならないかの時に斬った鬼も、まだヒトの姿をしてたじゃん。でも、人を襲った。だから斬った」


 わたしが仕留め損なった鬼を斬ったのは目の前のおかーさんだ。


「ヒトの姿形を留めてるから斬るな、って言わないよね。まさか、正義感や常識、倫理観を持ち出したりしないよね」


「お母さんが問うているのは、証拠をでっち上げたかどうか、よ」


「ナイナイ。あんなの集めないって」


 どうやって撮ったのか、というような写真まであった。


「まだ、戻せるとか、戻れるとか思わなかったの? 説得は?」


「あとから、謝るくらいなら何で人を襲ったり、傷付くことをしたり、言ったりするの?」


「……」


「人を貶めて一時的に自分が優位に立って偉くなったつもりなのかな? 仮にも彼女を応援しているなら、悩んでいる彼女を見ているだけのファンも、煽り、一緒に蔑み貶めるものも軽蔑する」


「だから、彼女にあんな提案をしたの?」


「消えたい。死にたい。けど死にたくない、が彼女の願いだったからね」


「はぁ。一度くらい相談しなさい。柚姫ちゃんの時も、詩音ちゃんの時も、救い出す方法とその後の手段が過激なのよ」


 自覚はある。


「でも、時間無かったんだもん。狗が縄張りを主張して、こっちの邪魔をして来て、その間に鬼の逃亡を許すなんてさ、フツー思わないじゃん」


 頭を抑えるおかーさん。


「鬼斬りの質もそこまで落ちてしまったのね」


「や、だって千羽の御老公様、わたしより弱かったし、死合った時の傷癒えてないみたいだし、それくらいには質落ちてるんじゃない? あと、自分の復讐が遂げられればいい人や遂げた人は、他人を救うって所までモチベ上がんないんじゃない? それに今の子供って家業だからって、それに誇りなんて持てないんじゃない? その割には自尊心だけはやたらと高いからさ、初期スペックだけで俺なら私ならやれるって勘違いしたままだから、学んで成長することも無いし」


 ――おかーさんを頼りにしてたんだろうなぁ。


 ベテランを起用して若手を育てたり、使わないで来ているチームみたいだ。


「誰かを守る為に貴女自身を顧みない様な行いはしないで」


「そんなつもりは無いけど……」


「柚姫ちゃんの時は、柚姫ちゃんに知られないように相手を揺さぶったでしょう? 詩音ちゃんの時は自分に敵意を向けるようなことをして偽悪を装ったりしたでしょう? ……鬼斬りにしてしまったお母さんが言うのも説得力なんて無いかもしれないけど、千羽と私の確執や柵に囚われないでね」


「それ、違うじゃん」


「え?」


「わたしが楽な方に逃げただけなんだから」


 夢はあった。だけど、生まれ持った見鬼の才と霊力を活かす方に逃げた。


「霊力、見鬼の才、剣術の才があるのに態々他の進路を進む為に勉強するのもダルいし、勉強好きじゃないし。だからおかーさんは気に病む必要はないよ」


「……」


「そういうことにしとこーよ」


 おかーさんが何かを言い出す前に、行ってきます、と言って家を飛び出す。


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