結花媛命3.5
※内容はこの話の設定上のものであり、現実にお務めをしていらっしゃる方々を貶めるものではありません。
しつこい――
真絢は心の中で悪態をつく。既に勝敗は決しており、作戦は失敗した。
結花媛命の結び結界によって参道を無限ループさせられ、結界の結びめを見つけられず時間だけが過ぎていった。
陰陽師も法師も見つけられない。
見鬼の才を持つ真絢の眼でも見つけられずにいた。
因みに陰陽師などの誰もが見鬼の才を持つわけではない。
ここでいう見鬼の才というのは隠れていようがハッキリと視える者のことだ。何となく、漠然と気配を感じる程度では霊感。視えるけれど隠れている霊、隠れようとする霊、物事や己を偽り騙そうとする霊を見破れなければ陰陽師として法師として神主として凡人の域を出ない。
程度差ではあるけれど、全て詳らかにしてしまう者とそうでない者の差は大きい。
その点で云うならば真絢は非常に優れた見鬼の才を有している。
その真絢をもってしても結花媛命の結界を見破る事が敵わない。それが人と神を隔てる限界ということだ。
そして真絢はまだ経験も浅い鬼斬りであり陰陽師だった。
――気持ち悪い。
人の欲望、願望で変容した生霊――異妖。その想いに当てられて こみ上げてくる嫌悪感と吐気に加えて、タイムリミットが迫る焦りによる心的負荷によって酔ってしまっていた。
――羨ましいとか嫉ましいとか、疎ましいとか他者から奪ったものが永続きするわけ無いでしょう!!
ガクッと膝から一瞬力が抜けて身体が崩れ落ちそうになるのを何とか堪えるも、それが大きな隙となった。
「っ! 禁!!」
異妖の爪を弾いて防ぐ。ホッと息をつく暇もなく追撃の鞭のようにしなる腕――巨大な拳が迫る。
身体が硬直する。脳――眼球が捉える全てが遅く感じる。それは“死”が迫っているということだ。
――あ、これダメだ。私、死んだ……。
死を前にして冷静な自分が自分を諦めた。
鬼の総大将を誘き出すために贄となれ、と彼女の鬼斬りの力を呪を以て封じた。人柱になんてしない、助け出すと彼女に言った。
――あぁ、だけど、言葉では信じてるって言ってたけれど、本心では信じては貰えていなかったわね……。
実際その通りであり、敗走後、土地ごと封じることになる。
また一つ綺麗な伝説が紡がれることになる。
重い衝撃―― 真絢の身体が吹き飛ばされた。
真絢だけではない。対策機構に所属する鬼斬りも蹂躙されている。
『……まぁ、この程度か。出口は開いてやったぞ!! ほぅらどうした? さっさと逃げ帰るが良い!!』
薄れゆく意識の中、真絢は結花媛命の嗤う声を聞いた。




