結花媛命1
「金色の髪に青い眼……そなた外つ国の者か? あの頃は鬼だのと迫害されておったわ。鬼と通じ交わった女も、生まれた混血の子も、鬼に魅入られ堕ちた女と鬼子として迫害されたものよ。種を植え付けた外つ国の者は無責任にもそれらを捨て国に帰るか、鬼斬りから逃げよった」
外つ国の船を襲って宝物を奪ったとも島を襲ったとも聞いたぞ、と結花媛命は嘲笑う。
「どれほどの身分であろうと知識もない愚かなものよ。怖がるくせに鬼の持つ、見たことも聞いたこともない美しい宝には目が無いのだから、人のなんと浅ましいことか」
わたしの髪を指で梳く。
「絹の様な、とはそなたの髪のようなことを言うのであろうな」
その声音には何処か悠くに向かって放たれた言葉だった。
「そなたも損な役回りよのぉ。人と謂うものは幾星霜経とうとも変わらぬ醜き生き物よ。自分たちが生きたいが為、厄災を避けたいが為に、それら禍を一人に背負わせ、怖るる存在に差出す……度し難きものよ」
死装束――もしくは花嫁衣装――または巫女服それらを合わせたような和装の美少女がわたしの頬を撫で、肩に触れ、腕をなぞり、ウエストラインを何度も上下させて撫で回す。
残る手はわたしの胸を弄んでいる。
「声を殺すでない。そら、可愛らしい声で我を愉しませよ」
――フェザータッチとか……。ふ……く……。
結花媛命の言うとおり、わたしは声を噛み殺して与えられる快楽に、流されまいと耐えている。
「媚薬の類でも盛られたか?」
あの霊水かエッセンシャルオイルか、もしくは両方が原因だ。それは鬼を愉しませ、血を甘く匂い立たせるためだ。
「血も甘く薫ってきたぞ?」
いよいよ結花媛命の手が下腹部へと伸び――
「ほう、そなた……このような紋を刻まれておるとはなぁ……。絡新婦の紋…。だが、紋を刻み呪を植え付けた絡新婦は鬼斬りに討たれたか……。ん? んん? なんとそなた、元は男の児か!?」
「そうだよ……悪いかよ。元に戻る方法なんてないんだから仕方がないだろう」
吐き捨てるように認める。
「ふむ……。単なる呪なら戻せてやれたが……命――産まれを流転されてしまっておるからな……生まれは覆せぬ。それを成したその絡新婦、只者では無いな。無いはずだが……鬼斬りに容易く滅せられておる」
呪いを通じて過去を視ているのだろう。
「……異界より来た鬼……か……。古来より門が開くことはあるが……気に食わぬし、何より無粋よな」
そう言うとわたしの下腹部に刻まれた蜘蛛の紋様に触れる。
意識を飛ばされた。
「ふむ、我ながら良い出来だ。そなたもそう思うであろう?」
息も絶え絶えに視線を向ける。
――蜘蛛から花に変わっただけじゃん。
しかも節操がない。花の種類が統一されていない。
「気にいったか? 気に入ったであろう?」
得意気な笑みを浮かべる。
「蜘蛛よりマシってだけ……」
「だが、そなたの身体はそうでもないようだが?」
耳元でその事実を告げられて現実を突きつけられる。
「贄の娘の血というのは、コレも甘い――」
濡れた指を舐める。
「ほれ、そなたも飲め」
「ん、く……」
口移しで酒を飲まされた。口の端から溢してしまうも、最終的には飲まざるを得なくなっていた。コクン、コクと喉を鳴らして飲み干していく。
喉が焼けるような感覚、あとはフルーティーな香りに次第に抵抗感が薄れていった。
「鬼斬りの力を封じられてはなぁ……」
「わたしは御勤めを真っ当に全うしてるだけ……」
「だがな……現実はその鬼斬りは誰一人とて辿り着いてはおらぬではないか。見よ、あやつも暇を持て余してしもうておるではないか」
先程、吊るし上げられた鬼斬りと術師は同士討ちという血塗られた輪舞曲を踊らされ、その果に血の海に沈んでいる。
「まぁ良いわ。そなたが我に落ちるのが先か、鬼斬りどもが此処へ辿り着くのが先か、それまで贄の娘で存分に愉しませて貰うとしよう」
――真絢さん、疾く来て……封じ解いて……。




