縁切り鬼4
こんなあからさまな騙し討ちセットに釣られる鬼なんていないだろう、なんて思っていた可愛い時期がわたしにもありました。
「仙桃の如き馨しき匂いに誘われ出てみれば、桃源の仙女の如き娘がおるとはな。それに美酒に酒の肴。まさに我を討つ為だけに用意された宴の場よな」
月を背景に立つ美しい鬼。見た目は私と変わらない年齢だろうか。
「結界が張って我を封じた気でおるのだろうが、まぁ、無意味よな。どれほどの使い手かと傍観しておったが術師の腕も落ちたものよな。斯様に脆弱な結果しか張れんとは嘆かわしいものよな」
彼女こそが、この縁結び神社の祭神“結花媛命”。
「それに、此方の世に名高い鬼斬り様も腑抜けばかりよな。鬼と見れば馬鹿の一つ覚えの様に勇ましく大見得を切って向かい挑んでいたというに……初手から贄を差し出しての騙し討ちに頼るとは嘆かわしいものよな」
憐憫の情を含めた嘆きは、潜んでいる鬼斬りを挑発するため。鬼の思惑に嵌り、潜んでいる鬼斬りや術師が殺気を露わにした。
「あはははは!! この程度の挑発で殺気を漏らすとは未熟よな。否、悪い。昔も今も鬼斬りは斯様な生き物であったな!! いやはやなんとも、実力に見合わない誇りだけは一人前であったわ」
鬼の娘は一頻り笑うと、スッと手を天へと翳す。
「宴の場には芸が付き物であろう。であるならば何か演じて見せよ。そうさなぁ、こういうのはどうだ?」
悲鳴が上がる。
隠れていた鬼斬り隊士と術師が吊り上げられた。その姿は天から見えない糸で吊るされたマリオネットの如し。
吊られた二人は喚く。
「では演じて貰おうか。贄の宴に相応しき、血湧き肉躍る舞を、な」
鬼が嗜虐的な笑みを浮かべた。
“ヒメ”の使い分け。
媛:美しい。美女。所作が上品な女性。
比売(毘売):主祭神の妻、娘、関係が深い女神。
姫:高貴な女性。
日女:天照大御神の美称。




