縁切り鬼3
脱衣所で着ている物を脱いで籠に入れて、さっさと禊場へと向かう。
禊場といっても自然の中で流れてくる滝に打たれる訳ではないし、秘密の巌窟の禊場でもない。
単なる広い総檜風呂。禊とは己の霊魂や身に巣食う――纏わりつく穢を削ぎ、霊気――清浄な気を注ぐことだ。だから形がお風呂であっても清い水で霊魂や身に巣食う穢を洗い流せれば良い。
「姫様、私たちがお浄めのお手伝いをさせていただきます。雪と申します。」
「私は蘭です。では双樹様、失礼致します」
――わあ、あからさまだなぁ……。
雪と名乗る少女が冷水を桶で掬い、わたしの身体にそっとかける。
わかっていたけれど水の冷たさに息を呑む。
心頭滅却しようとも冷たいものは冷たいし、寒いものは寒い。
――桃の香……か。
微かに感じ取れた薫り。
――桃は魔除け、厄除けなんだけどなぁ……。
とはいえ、桃は霊妙たる果実。仙果――仙桃と云われていて不老長寿、不老不死を齎す果実、それが三千年に一度だけ花が咲き、実を結ぶという三千年の桃と云う。
霊力や不老不死を得たいのは人だけではない。神も鬼も若輩の仙人だって同じだ。
それならば鬼に捧げる供物としても間違いではない。
そこでわたしのファンタジー脳が働いた。
じーさま、ばーさまが仙桃を食べて若返ってニャンニャンした結果、桃太郎が産まれたって云う説があるけど、だいたい不可思議な場所の住民って、乙姫様然り舌切り雀然り、女の子や女性なのだ。
若い女性を老夫婦が攫った、連れてきて子を産ませた。もしくはじーさまが連れ帰った愛人とか?
桃太郎も実は女子で仙女とばれない様に男装に男の子の名前を付けて、正体を隠していたか。
鬼退治は本当は贄として差し出された。
それならば(正体を)隠されて大切に育てられたのも納得出来る。それに鬼退治ならば、きび団子より、具足や太刀や弓矢などを揃えて持たせるはずだ。
現実的に言うなら、外つ国の者に嫁として差し出された。その対価として技術、または宝具を提供されたか。
何せ桃は■■■のメタファーなのだから。
雪と蘭に任せて妄想の世界へとトリップしていたわたしに、雪が終わったと声をかけられた。
――ワァオ! ツルツルピカピカだね。金髪も普段より輝いてるよ。
霊水で満たされた浴槽に浸かる。
「双樹様、準備が整いました。此方へ」
蘭に従う。そして雪と蘭の二人にエッセンシャルオイルを使用したマッサージを受ける。
――ン……。気持ち……いい。
心地良さに甘い声が零れそうになる。
マッサージも終わり、衣装を着せられて宮入り―― 鬼の許へと輿入れとなった。
――こんな子供騙しに引っ掛かるかなぁ。贄に酒、料理、菓子 果物という、どこからどう見ても鬼の騙し討ちセットじゃん。
騙されるわけがないと信じたい。




