縁切り鬼2
召集されたわたしたちに長――もしくは頭である若杉 伊織様が謝罪した。
急な呼び出し、休暇中の皆には申し訳ない――と。
そこからは老練病の奇をてらったりウケを狙った自分が考えたカッコいいスピーチなどなく、淡々と状況説明が行われた。
人手不足による調査員、隊員の過労。
“縁切り”鬼の数、強さにわたしたちの手が回らなくなり、討伐や人に対する対応の質が落ちてきた。
元々、鬼退治というものは後手に回ることが多く、先の理由からさらに後手に回ってしまっている。
そのためには本丸を討つしかない、となった訳だ。
陰陽庁と共同戦線を張るという。
――呉越同舟という訳ね……。
神社の敷地全体図がスクリーンに映し出された。
作戦を伝えるのは千羽 真弓美。
誰もが真剣にしている。誰もが異妖の強さを甘く見て楽観視などしていない証拠だ。
普段ならそこそこ舐めた様な態度を見せていた者も今回はおとなしい。先程から一言も口を挟んでいない。
――まぁ、仕方がないよねー。普段通り舐めプして異妖の念を喰らわされたり、念の織りに捕らわれて呪われたんだから。
「但し、本丸の鬼を引き摺り出すのは勿論、神社の本殿に侵攻するのは容易ではないわ。そこで――」
おかーさんが内心を隠すように、裡で荒れ狂う感情や葛藤を抑え込むように目を瞑ると静かに息を吐き出す。
――ガチギレしてるなぁ。
本気で怒った時に見せることがある。目を瞑り、息を吐き出すことで冷静でいようと、なろうとしている。
「藤咲 双樹。貴女を鬼を誘き寄せる贄として使う事になったわ。その役目を果たしなさい」
「ダ·コール。供物を捧げて宥め賺して、気を逸らして討つのは常套手段だもんね」
酒に酔わして、美女に扮装しての鬼退治。
「勝てなかった時の為の人柱、地に縫い付ける楔、鬼神の花嫁、何でもこなして見せますとも」
異妖の強さ、それも使い程度の相手に苦戦してるんだから、偉い人たちは誰も鬼神を討てるとは心底思っていない。使いの異妖には本体である神獣が存在しているのは皆が承知済みだ。その神獣すら討てるか怪しいのだから贄の血の正しい使い方だ。
「貴女には贄に―― 柱に相応しい衣装を用意してあるから、禊をしてから身形を整えて待機していなさい」
感情を殺した声。淡々とした事務的な態度で命じられてわたしは退場した。
――騙し討ちをするなら、実力者が贄役にならないとだし。それに贄は美味しそうで若い美しい果実じゃないとねー。
身体が果実なら血は果汁か美酒だ。
【老練病】――中二病の進化系。年齢を重ね、経験を積み重ねた結果、時代の流れ、変化する常識を学べず、時を止め学ばなくなった大人が(時折)発症する(させるであろう)病。何が悪いか理解出来ていない。
例:私の考えたカッコいい、感銘を受けるだろうワードを入れたスピーチをして炎上するという事態となっている。
そして、彼らは『不愉快な思いをさせた』という。見ている、聞いているお前たちが不快に思ったせいで、不快に感じたせいで謝罪しなければならなくなった、と。
彼らは不愉快に感じても思っていないからスピーチをしているのだから。彼らからすれば不愉快に思われる事が不愉快なのだ。




