縁切り鬼1
※プローグ的な話です。
「双樹、待って!!」
私は双樹を呼び止めた。
「明日、明日また……」
言葉に詰まる私に、双樹が微笑む。
「うん。また明日。約束」
そうして左手の小指を結ぶ。
「約束ってさ、神代から存在する誓いなんだよね。契約を守る限り加護が与えられて、違えれば加護が失われて、それまでに得た幸運の倍、不幸が返ってくるんだよ。だから大切な人との約束は何が何でも守りたくなる。それがわたしの力になる」
そう言って双樹は優しい笑みから、力強い笑みを見せ、背中を向けて任務へと赴いた。
「双樹が無事に帰ってきますように……」
夕焼けは怖い。双樹の姿が夕日に溶ける様に見えなくなった。それがとても不安を掻き立てる。私には待つことしか出来ないから、だから彼女が勝つこと、無事に帰ってきてと祈る。
『そなたも損な役回りよのぉ。人と謂うものは幾星霜経とうとも変わらぬ醜き生き物よ。自分たちが生きたいが為、厄災を避けたいが為に、それら禍を一人に背負わせ、怖るる存在に差出す……度し難きものよ』
死装束――もしくは花嫁衣装――または巫女服それらを合わせたような和装の美少女がわたしの頬を撫で、肩に触れ、腕をなぞり、ウエストラインを何度も上下させて撫で回す。
残る手はわたしの胸を弄んでいる。
何故、こんな事になっているのかといえば、“縁切り鬼”の被害の多さに、対処が追い付かなくなったからだ。
鬼一匹に対して三人一組で当たったり、中には数十人で対処しなければならないと、鬼斬りと陰陽師の質の低下が理由だった。
陰陽庁は経験も無いに等しい学生まで動員しなければならないほど。そして、その学生のカバーにプロが入る、という無駄な事をしている。
そして彼らとわたしたちの組織の対立関係。現場が同じになり、どちが先に着いた、だとか、自分が先攻する、だとか争い、“縁切り鬼”を討つ機を逃し、その尻拭いで誰かにしわ寄せが行き、その誰かの穴を埋めるために誰かが――という悪循環に陥る。
そこで使い回されるのが、わたしのようなソロで討伐出来る者。だけど、疲労は蓄積されて不満が溜まり、皆、精進潔斎に入った。
そして、今日、精進潔斎強制終了の御達しがリンクに送られた、というわけだ。
『無表情を装っておるが、身体の方は先程から良い反応を返しておるぞ? 何時までその無表情が保つか愉しみよの』
わたしの身体を愛撫している鬼こそが、この“縁結びび”神社に奉られている神であり、“縁切り鬼”の総大将の鬼。
※どのように今回の話に至ったか次話から始まります。




