デート(終)
わたしは滅多に映画館に赴いて映画を見ない。見るとしても見ていたアニメの続編が映画化されたり、原作を読んでいたり、嵌ったゲームが映画化された場合だけ。
数十年に渡りアニメ放送されている劇場版の中には、まともな演技経験がなかったり、ドラマだけの演技経験者が声優を務めて浮いている映画もあったりする。
――アニメ版から制作会社も総入れ替えで作られていたからアタリだったなぁ。
当時、グランシャリオーの声優さんは新人で棒読みだとか演技が下手だと叩かれていた。しかし、それからその声優さんは色んなキャラを演じ続けて演技も上達して、改めてグランシャリオーを演じてくれていた。
黒歴史、トラウマ、傷になったキャラクターになっているはずだ。
インタビューでは改めてグランシャリオーを演じられて良かったと言ってくれていた。
「私、アニメの映画はほとんど円盤で買ってるから、好きな作品のみ映画を同じ趣味の貴女とデートで見に来れて良かったわ」
「わたしもだよ。けど千尋たちとは?」
「千尋たちは根っからのオタクじゃないから。漫画とかラノベとか読んではいるけど、そこに拘ったり深みに嵌まってるわけじゃないもの。それがあってもなくても変わらない。でも私たちオタクはそれを生きる希望にしてるじゃない?」
「そうだね。そう言えば千尋、初めてのアニメ専門店に驚いてた」
「でしょうね。リンクでもそんなこと言ってたもの」
「こっち側に堕ちたら楽なのに」
「千尋たちを堕とさないでよ。彼女たちには彼女たちだけの交友関係とか、家族との付き合い方があるんだから」
「まぁ、解らないでもない」
親の仕事が漫画、ラノベ原作者だからとか色々言われたり、からかわれたりした。
――涼風なんて、さらに姉がオタクだから、家に友達呼ばないし。ん? あの子、友達居るのかな? ちょっと心配になってきた。
「じゃあ、普通の映画は? パニック、ホラー、アクション、スパイ、ヒーローとかあるじゃん。家族で観たりとかしないの?」
「観に行かないわね。レンタルするか配信や放送されるのをテレビで観たりするくらいよ。それでも家族で観るなんて滅多にないわね」
そこからはテレビ版の吹き替えの話になって、昔の映画なら当時の吹き替えのままが良いか、新しい声優が良いか、と議論が白熱した。
意見が一致したのはアイドルやティーンファッションモデルから女優に転身した人、俳優起用は止めてほしいという点だった。
わたしとしては往年の名作を当時の配役で観たければ、レンタルしたり配信で観たり、リマスターのDVDなりBDを購入すれば良いと思ってる。
声優さんとしても演技の引き出しが増えるはず、わたしが言うと、詩音は、やっぱり往年の名作ファンがいるんだから変えない方が良い、その配役込みで作品のファンなんだからという。
そして、新たな声優反対なのは今の声優はたとえ演技派であってもアニメ、萌え、オタク向けだからという。その理由として、アニメのキャラの声としてイメージが強すぎてそのキャラが頭にチラついて映画を邪魔してすとーりに没入出来ないからという。
それに、流行って大成功を収めたアニメの声優を起用すれば、そのアニメを観たファンや私たちオタクが喜んで観るだろうっていう意図が透けて見えるからだと詩音はちょっと不機嫌になる。
「そういうのがネットニュースに取り上げられて、たとえオーディションや指名依頼での配役だったとしても、コメントとか否定だと、好きな声優の批判に見えてしまうもの。どこ目線で語ってるんだって話だけど……」
「まぁ、わたしたちの声優以外反対もアイドルや俳優のファンからすれば詩音と同じ感情になるだろうけどね」
「特大のブーメランが返ってきたわね」
「そうだね……っとオチがついたところで、そろそろ出ようか」
そうね、と詩音がゴミを纏めてプレートを重ねてくれている。わたしは詩音の荷物を持つ。
「ありがとう」
「こっちこそありがとう」
ゴミとプレートのこと。荷物を持っていることに対するありがとうを伝え合う。
「ちょっとゴメン」
詩音に断りケータイ端末を取り出す。リンクを開くと、『“縁切り”鬼を全て相手にしていては切りが無い。その為に今夜、総本山の鬼の討滅を決行す』――とあった。さらに『職員及び実働員は対策機構にて待機を命じる』と記されていて、デートの終わりを告げられた。
「詩音……ゴメン……」
「何があったの?」
「召集命令が下されちゃった……だからデーテはおしまい。送ってくよ……」
「そう……。命令なら仕方がないわね……。気にしないで、今日は十分に楽しめたわ」
そう言って詩音は笑みを見せてくれた。
――何で急に討滅することが決定されたの? 場を封じて監視しつつ、小間使いの“縁切り”鬼を討つんじゃなかったの?
わたしたちは残り少ない二人の時間を名残惜しむように帰路につく。家に着くと詩音が荷物を預かってくれるというので、その言葉に甘えて、わたしは認識阻害の呪符で人目を避けて対策機構へと急いだ。




