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デート

詩音サイド。

 映画館でも思ったけれど繋いだ―― 繋がれた手。双樹の手は剣士としては滑らかで指も細く、綺麗だ。

 この手はどれだけの人を守って来たのだろう。この手はどれだけの鬼を討滅して来たのだろう。


 表では裁けない者の命を鬼として絶って来たのだろう。


「あー……ゴメンね。気持ち悪いよね」


 そう言って手を離そうとするから、逆に恋人繋にして繋ぎ留めた。


「気にしないわよ。ただ、余りにも自然すぎて繋いだままだなって思っただけよ」


「……言われてみれば当たり前のように繋いだままだった」


「嫌だなんて思っていないわよ。だからこのままで……」


 私が次に訪れたのは双樹が何時も服を見てるショップだった。


 深いスリットが入ったショートパンツ付き黒のロングスカート。カッコいいヘソ出しトップス。形の良いおヘソと腹筋のラインがとてもセクシーだ。


 私の目はある一部に釘付けになった。

 それはパーカーだ。


 アレンジされた水干型、振り袖型のパーカー、それらと合わせるようにスカートもある。コーディネート例としてディスプレイされている。


 値札を見て、お値段通りだなと思った。タグは値段の他に洗濯や手入れのタグがあった。サイズのタグ。ショップ(メーカー)の此処までは当たり前に見かけるタグけれどもう一つ訳の分からない、否、目に入った情報は理解出来ているのだけれど、リアルでは絶対に見かけないであろう文字と数字が記されたタグがあった。


 ――物理攻撃・防御、特殊攻撃・防御、力、体力、霊力(魔力・呪力)、精神、すばやさ、運――って……。


 まるでゲームの防具屋だ。


 私が手にするパーカーは物理防御と特殊防御が3、精神が10、すばやさが1上がるらしい。


 ――部屋着だからかしら? フードで顔が隠れるから? 精神が安定するからかしら?


「面白いでしょ? ここのはインナーから全てそんな感じ」


「この店って貴女たちの組織に関連してるの?」


「ナイショだけどね。何時戦線から離れなければならない身体になるかわかんないしね〜。わたしたちは食いっぱぐれることなく、普通の社会に戻れる。客はお店の遊びだって思ってくれる。だから問題無い」


 双樹は微笑む。


「だから少しだけでも売り上げに貢献。それにわたしって自分に似合うって思う服は、世間の流行からズレてるのは自覚あるし」


 ドヤ顔で胸を張る。スタイルに自信がある人の暴論だ。

 流行りの服に頼らなくても良い。

 むしろ一般人には着こなせない奇抜なものや大胆なのが似合う、という理論。


「それはそれとして、個人的にも詩音には必要だと感じたんだ」


「それは視る眼や霊力を持つ者としての感?」


「うん。だから、千尋と紗奈のも選んでよ。わたしより詩音の方が二人の好みわかるっしょ?」


「まぁ、ね。二人にも、ということはあの日に居たから?」


「まぁね。でも万が一の為に気休め程度だけど、備えあれば憂いなし、って言うじゃん」


 だから気にしすぎないで、と笑う。


 双樹が出してくれたけれど三人分の服代だ。お値段通り。以上でも以下でもない。商品もお値段通りのクオリティー。


 お店の値上げもしなければ値下げもしない、という強い意思が感じられた。


 ティータイムの為に入ったファストフード店でプライドポテトとナゲットなどをつまみつつ双樹に尋ねた。


「ねぇ、剣術やってる双樹絡みてゲームとかの剣技ってどうなの?」


 双樹はキョトンとした顔をする。


「唐突だね〜。ラノベの参考に少しだけ。昔々、剣術は雑多だったんだ。型も沢山あって、それらを覚え切れる人だけのもの、だったんだ」


 私は頷く。


「ほんの一握りの人しか修められなくて、太平の世の剣術――言ってしまえばファッション剣術で、さらに剣術を神格化しすぎた。実戦向きじゃなかったんだ。ある剣術を興した人は、その雑多な型を五つにした上段、中段、下段、脇構え、八相、に纏めてマニュアル化して、稽古も実戦的にしてシンプルに、多くの免許皆伝への道のりがあったんだ。それには時間もお金も凄く必要だったんだけど、剣術を合理化し、免状を初目録、中目録、大目録の三つにした。そのことで長い修行で修めるべき剣術が短期間で習得出来るようになったんだ。その為に百姓や商人が剣術を習いやすくなった。。けれど狙いはそこじゃない。ときは幕末。外国人に負けないように諸藩の武士――優秀なものは剣術修行の為に留学させられてた。だけど、その人たちは留学期間内に免状を持って帰らなければ、藩での家での立場が無くなってしまうわけ」


「それが短時間に強くなって免状を授けられるなら話題になる、か」


「それに、各藩のエリート、つえー奴が集まって実戦的な稽古が出来るから、強くなれるし、強くなって帰れる。精神的な信仰心を持ち込まない、剣の実力のみ、自らの意志を貫く、自らの道は自分が切り開かなければならないって時代だったからね幕末って」


「その時の剣士のニーズに合ったんだ」


「新興の剣術ながら門下生がメチャクチャ多かったから江戸三大道場の一つとなったんだね。現代剣道の母体と言われているね。だから、もし、ゲームの世界に閉じ込められてってなったら、剣技を出すのに苦労しそうだよね。型を全部覚えて、敵の技を全て間違えることなく読み切って淀みなく型を作って技で迎撃する。型が正しく認識されなければ発動しないとか、迎撃技の選択を誤った時の結果は想像したくないなぁ」


 ――短期間で、シンプルな剣術とは言ったけど、楽に強くなるとは言ってないっていうことではないかしら……。


 現代のような感じだとクレームが入っているわね。


 負けた子の親から『簡単に誰でも上達して強くなるって言ったじゃない!! それなのにウチの子、同じ門下生の子に負けて傷付いて引き籠もりになっちゃったじゃない!! 差別じゃない!! どうやって責任とってくれるのよ!! 慰謝料はらいなさいよ!!』って。


 だけど、参考になった。


「天剣流は洗練されてきたけれど、鬼を討つ為の業だから型は多い方かなぁ。何か尊いものがあると思っちゃってるから……」


 やれやれと溜息を吐く。


「人手不足の要因の一つ?」


「そ。特別視しちゃってるんだよね〜。だから新人には北辰一刀流を学んでもらってる。裏を活かすには表を知って修めなければならない、からね。あとはやっぱり視える力を持つ人が滅多に居ない。いたとしても辛い修行なんてしてまで世の為、他人の為に苦しい思いをしたくないのが普通じゃん」


「じゃあ、双樹は?」


「わたしはわたしの為に鬼斬りをする理由があるし、まぁ、最初の原因は身から出た錆だしね」


 そう言って苦笑を浮かべて、冷めたナゲットをソースにつけて食べた。


「……視る力があったら貴女と肩を並べられたのに……」


「なに?」


「冷めて不味いわね……」


「……だね」


 ――変身できたら良いのに。


 そう、グランシャリオーとナンジュのように。


日常パートも次で終わりかなぁ。それから“縁切り”に戻ります。


此処からは前回の鬼の続き。


 何時も目で追ってしまう程に気になる女子が居る。


 何時も見てきて困っている男子が居る。


 何時も同じ時間に、同じ通学路。


 何時も同じ時間に、待ち伏せされている。


 ある日、その女子から告白されて舞い上がるほど嬉しかった。


 ある日、その男子に告白しなければならなくなって死ぬほど気分が落ち込んだ。


 休みの日に映画デートに誘った。 


 休みの日に映画デートに誘われた。


 待ち合わせの一時間前に待ち合わせの映画館に着いた。


 待ち合わせの一時間も前から映画館で待っていた。


 何時になったら来るかな?


 何時まで待つつもりだろう?


 

 彼に告白したのは罰ゲームだった。時間前から観察していたグループの男子が笑いながら報告してきた。それに友達の女子が嘲笑う。そのうちの一人が賭けに負けたらしく、私たち全員にジュースをおごる事になっていて、バブマで買ってきた。


 私は耐えきれなくなって飛び出そうとした。けれど、友人が私を押し留める。その顔が嗤っていた。とても歪んだ笑みだった。


 しばらくすると彼が待ち合わせ場所から離れようとした。ようやく諦めてくれたのだろう。少し安堵した。その瞬間だった。彼が倒れたのは。


 最初は誰もが見てみぬふりだった。起き上がらない彼に誰かが何やってんだよと気軽な気持ちで近付く。


 近付いた人が飛び退ると、救急車と叫ぶ。


 私たちは青褪めた。男子の誰かがオレ知らねーからと言って走って行ってしまった。また一人が女子を急かす。


 野次馬で見えない。私は救急車が来ても、彼が運ばれても、救急車が去っても呆然と見ていた。


 後日彼が亡くなったと朝のホームルームで聞いた。私たちのグループは解散した。必要事項以外、接点を持たないように避けた。



 あれから10年。私はあの日以来となる映画館に訪れている。大学進学を機にあの街には行っていない。引っ越した街で就職して結婚した。


 娘が手を引っ張る。待ち時間に飽きたのだ。私は娘を連れてアニメ映画を観に来ている。

 

 

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