デート
双樹に戻ります。
不自然に空いた前列席。
キヒ……ヒィハー!! キヒヒヒヒ……。
見鬼の眼を開けば肩を震わせて笑う人が在る。
ネェ……タノシィイ? タノシィイ……ネ。
グランシャリオーが痛めつけられている姿に嗤う人がぐりんと頭を反らしてこちらを見た。
――気付かないふり。気付かないふり〜。
首を傾げる霊。
愉しく……ないィ?
ことあるごとに周りに問い掛けている。当然ながら周りは視えないし、聞こえない。
けれど、霊意が振り撒かれるために観客も異変に気付き始めた。
席を外したくても周りに迷惑を掛ける為に席を外せない。
共感者を求めて霊が動き出す。
「双樹、前の方が……」
「詩音、今は映画観ようよ? せっかくのデートなんだよ?」
「そう……ね」
「ほら、グランシャリオーたちを応援しよ?」
わたしはペンライト(ステッキ)のスイッチを押す。すると蒼白い光が灯る。
詩音も同じ様に光らせる。
それを皮切りに小さな星が灯り、想い――願いの力に変わる――という演出になる。
『みんなの力をわたしたちに……』
『……皆の想いを一つに』
グランシャリオーたちは傷付いた身体を起こす。
『束ねるは――』
そうして二人のロッドに力が集まっていく。
『塵芥が幾ら集まったところで!! 我を斃すことなど不可能と知れぃ!!』
『――ニルヴァーナァァァァァァッ!!!!』
『ヌゥオオオッ!!!!』
宿儺は多腕の手に持つ剣と弓で瘴気の波動で、グランシャリオーとナンジュの協力技の破邪の法撃を迎撃し、ぶつかり合う。
『私たちは負けない!!』
気合を込めて力をさらに出していく。
『オオォアアッ!? ブルゥアアアァァッ!! バ、馬鹿な……この我がこんな小娘どもにィィィ!!』
破邪の法撃によって宿儺は塵も残さずに消滅した。
全力を出し切ってグランシャリオーとナンジュは倒れた。
『つっかれた〜』
『私も、もう無理……』
そう言いう二人の顔には達成感が浮かんでいた。
手をつなぐ二人の間には確かな絆が結ばれていた。
日常パートが流れ、エンディングが流れる。暫らくすると館内が明るくなる。
わたしは余韻に浸ることなく、余韻に浸りたいであろう詩音を急かすと館内を出る。
「ちょ、ちょっと双樹! 待って」
「急かしてゴメンね。これ以上中に居ると無視出来なくなるから……」
「何か居たのね?」
「うん。あんまり気持ち良いモノじゃないから聞かないでくれると助かる」
「それなら聞かないけれど……」
「わたしと居るとこんな感じだよ。気にしたらきりが無いから無視してるけど、たまに無視出来ない存在が在って、今みたいに急かすこともあるし、避けることで回り道をすることもあるし、楽しめる場所も楽しめなくなる、なんて、けっこうあるんだ……」
「じゃあ、別の所で楽しませてよ」
「じゃあいっぱい調べなきゃだね」
――楽しめる場所? 楽しめる場所ってなに? それってどんなとこ〜? わたしと詩音が楽しめるのってアニメ専門店? サバゲー?
内心では頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと本屋寄っていい?」
詩音が小さく笑った。
「良いわよ。二人で調べればお互いが楽しめる場所くらいみつかるわよ」
本を買ったものの、結局は読んで妄想―― 想像して楽しむだけになったのは、また別の話。
キヒ……キヒヒヒヒ……。
タノシィイ? タノシィイヨネ? キヒヒヒヒ……。
しかしキミは来ない。まだ来ない。何時になったら来るんだろう。私服のキミはどんなに素敵なんだろう。
緊張で鼓動が早く、少し胃が痛い。初めてのデート。仕方がない。それでも楽しみだ。キミを待っているこの時間も。
約束の時間を過ぎた。何かあったのかな? 心配になる。
今日は暑い。喉が乾いて唾液が喉に絡み付くようで不快だ。メールを送る。あと、少ししたら飲みものを買いに行こう。
アレ? おかしい。世界が真っ暗になった。暗闇に落ちていく感覚。
キヒ? ニテル……。チガウ……? ツギ……チガウ……?
劇場内を彷徨いキミを探す。キミじゃないかと顔を覗く。
マタ……チガウ……。
落胆を隠せずに席へと戻る。繰り返す。終わりなんて来ない。
キミが来たらどうしようか。
イツマデモマツヨ……キミガクルマデハ……。
キヒ……キヒヒヒヒ……。




