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デート

詩音サイド

 朝、時間は10時前。


 私と双樹は映画を観に来ていた。タイトルは『デモンスレイヤー グランシャリオー』


 一度アニメ化をされて爆死。真弓美さんがシナリオを担当したオリジナルストーリーでアニメ制作会社など総入れ替えで制作された『劇場版デモンスレイヤー グランシャリオー』。


 予告を見る限りキャラデザも作画も原作に忠実に再現しつつもアニメ仕様になっていた。戦闘アクションシーンにも力が入っている。


 アニメ版は黒歴史となったけれど、それ故に原作でちゃんと読みたい、という人が増えた。

 それは原作を愛する人が動画やメッセージアプリで原作の良さを広めたからだ。


 ビジネスオタクやオタクだと暴露した芸能人やニュースバラエティで取り上げられて、興味がなかった人にも興味を抱かせ、ブームになった。


 夏休みとあって親子や私たちのようなオタク、流行に乗って話題作りの為に観に来た人たちが並んでまっている。


 そして、私たち――というより双樹が人々の視線を集めていた。


「ママ見て! グランシャリオーの七星ななせちゃんがいる!!」


「あら? ホントね」


 女の子の言葉をが呼び水となって『とんでもない美少女が居る』から『クオリティーの高いコスプレ美少女が居る』へと注目度が変わった。


「実写じゃん」


「ヤベー」


 スマフォのカメラが向けらる。


「あ、あれ? 起動しねぇ?」


「何も写らねぇ!?」


「え? あ?」


 所々でスマフォが不具合を起こしている。


「双樹、何かした?」


 私は何食わぬ顔をしている双樹に囁くように聞いた。


「認識阻害の術をちょっとね。ほら心霊スポットでカメラが突然不具合を起こすってあるじゃん? アレと同じ感じにしたんだ」


「だ、大丈夫なの?」


「大丈夫でしょ」


 ほらっと言って親指で合図する。


 言われた通り見てみれば、私たちに向けられていないカメラは通常通りに撮影出来ているようだ。


 ――それにしても着ぐるみじゃないのに子供に“天宮 七星”って言われるって凄いわね。


 色んな漫画やラノベが実写化されて、衣装に着られているコスプレイヤー。または“漫画、ラノベ世界に転移、転生して自分のことをそのキャラクターと勘違いした人”のお話という感じになってしまう事が多数であり、大事故になる。


「……コスプレしてないのにね」


 そう言って双樹は微苦笑を浮かべる。


「グランシャリオーの方が貴女に寄せられてるのに」


 モデルは双樹だ。


 小さな女の子が手を振ってくる。


 子供の夢を壊さないように双樹は応えて手を振り返す。わざわざ決めポーズまで決めて。


「物怖じしない……」


 やけに実感のこもった声だった。


「わたしさぁ、ヒーローショーとか着ぐるみショー、サーカス……ピエロとか怖かったんだよねー。今でも凄い苦手意識がある」


 ヒーローショーとか突然悪役が子供を人質にする展開があったりする。


 ピエロはあのメイクと圧と得体の知れなさが怖いという。


 私は胡乱げな目で見る。


「幼稚園くらいだからね。あの頃は弱虫、泣き虫だったからねー」


 私は根本的にはあまり変わっていない。


 千尋や紗奈がいなければ友達なんて作れないし、上手く会話が出来ないだろう。彼女たちのお陰で潤滑に円滑に会話を滞りなく行えている。


 「え……」「あ……」「え〜と……」「あの……」、それを繰り返してどもる。


 双樹との会話で、それが出ず、会話が出来るのは、素を出しても大丈夫な人だと安心できるからだろう。


 時間が来るまで私たちは夏アニメのことやしりとり、指相撲などをして遊び時間を潰した。


 劇場に入り、しばらくすると暗くなって予告が流れる。三人の男性が黄昏れている。

 少年期に思いを馳せ、今はその地で転移してからの日々を振り返り、別れを惜しむ。


 ――私たちのこの日々もいつか終わる。心も想いも色褪せて、いつか思い出に変わってしまうの……?


 私は双樹の手を握る。


 映画が始まった。紙芝居のような街並みでは無い、夜の街の風景画。アングルも良い。鬼とグランシャリオーとのチェイスも迫力満点。一瞬の不敵な笑み。その表情は私たちを魅せるには十分で、頼もしさがあった。


 それはグランシャリオーから私たちへのメッセージのように見えた。


 ただ、この時のグランシャリオーは狩りを楽しんでいた。鬼を追い詰めて楽しんでいる印象だった。

 

 変身ヒロインもの。見た目は魔法少女なのに戦闘は超近接戦、肉弾戦。ハイスピードの攻防。蹴り飛ばし、掌打で吹き飛ばし、エルボーで鬼の身体をくの字に折り、後頭部を肘の打ち下ろし、膝蹴りで顎を蹴り上げる。

 そこへ新キャラ“ナンジュ”がダブルスレッジハンマーで撃ち落として地面へと叩きつける。


 ちなみに“ナンジュ”は“南斗”から。北斗七星に対となる感じだ。北斗七星の“死”に対して南斗六星は“生”を司る。


 北斗七星が剣なら南斗六星は弓。


 鬼も容易く倒れない。ダメージは多少は負ったものの平然と立ち上がる。


『なんだそれは? まさか攻撃のつもりか?』


 と、自身の肉体に付いた埃を払いニヤリと嗤う。


 グランシャリオーとナンジュの顔に絶望の色が浮かび、心が折れかかっている。


 鬼――宿儺スクナの猛反撃が開始される。


 先ず狙われたのはナンジュ。スクナはナンジュが反応出来ないスピードで彼女の前に現れるとボディブローを食らわして頭を鷲掴みにして次々とビルに打ち付けて行き、最後は赤い鉄塔の一部に磔にする。


 私はドン引きしていた。


「少年漫画のバトルものだしね」


 と、双樹が耳打ちしてきた。


 少し声が色っぽくてゾクゾクした。


 こんなの脳がイく。


「だからって子供にも人気出てるのに……こんな残虐シーン、絶対にクレームがあるわよ」


「少年だけが知恵、勇気、友情、努力、闘いってわけじゃない。女の子だって知恵、勇気、友情、努力、闘いって当てはまることだよ」


 双樹はスクナとグランシャリオーとの構図を例える。


「スクナは男。理不尽なパワーはパワハラ、セクハラ、モラハラ、DVに言い換える事が出来る」


 その理不尽に対して女性が立ち向かうという構図になるという。


「でもさ、女性の中にもいるじゃん。貴女に隙があったからとかさ。女性が賢いと、一線で活躍すると可愛げがない、とか」


 そういえばグランシャリオーに出てくる男性ってストーリーや世界の添え物という感じでしか登場しない。


 どんな話でも女性が活躍する話でも、その女性を支えるヒーローが活躍してしまう。そこから恋愛に発展したりして男に媚びていくヒーローが居なければならない女性になっていく。


「それって結局、女性は男の下、って認めちゃってる」


 だから、グランシャリオーは女の子だけで戦う。支えあう。


 スクリーンではグランシャリオーが手足も出せずにやられている。崩れ落ちるグランシャリオーが笑う。


『ハハ……ダメかも……』


 そこからは衝撃音とその衝撃波の背景映像。その映像にグランシャリオーの絶叫が響き渡る。


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