デート
日常パートです。
『今、振り返ると、あの頃は時間がたくさんあるように感じたんだ』
『そうだな……確かに……。あの頃は一日で色んな事が出来ていた様な気がする』
『一日中、趣味に没頭できてさ、夜なんてRPGで徹夜でレベル上げして一、二時間も眠れば余裕で、朝起きて直ぐに続きして、その合間に飯食ったり漫画読んだり、出かけたり……』
『それでも時間はたくさんあった』
そう語る壮年の男たち。
『あの頃遊んでた思い出深いゲームがリメイクされたから久々にゲーム買って息子にゲーム機借りてしてたら、突然こんな場所に吸い込まれちまった……』
『私もですよ……』
『これが娘が読んでるゲーム世界にトリップする小説の展開って奴か……いやはや自分が体験することになるとは……』
土日祝日休み無しといったサラリーマンの男。
ゲーム実況動画をアップしている男。
男手一つで娘を育てるシングルファザーの男。
それぞれが運命的な出会いを果たし、夕暮れ迫る空の下語り合っている。
彼らは壮絶な戦いを経てようやく元の世界へと戻る手段を手にした。その帰還までの語らい。
男たちは疲れ果てていた。それでもその表情は精悍さと、過ぎ去りし青春を取り戻したかのような晴れやかな表情だった。
そして一瞬の寂寞。
男たちは言葉少なに別れの挨拶を告げ、それぞれの日常に戻っていった。
サラリーマンの男はブラック企業を退職し、趣味を仕事にした。
ゲーム実況動画配信者の男は異世界の経験を活かしてアクティビティ動画配信者となった。
シングルファザーの男は娘とともに始める青春、と言って同僚の女性の告白を受けた。
タイトルは『約束の場所〜輝ける思い出の地〜』。
漫画が原作のアニメ映画だ。
普通の男子学生が無双したりハレムを築く冒険ものでも、SF青春ものでもない。疲れ果てたサラリーマンとゲーム実況動画配信者、思春期の娘に戸惑う父親が出てくるアクションもの。
映画の予告編が終わる。
グランシャリオーが夜の街を飛び駆けて、鬼を追う。追い詰めて激しい戦闘が繰り広げられていく。
鬼が大きく息を吸い込む。鬼の腹が膨れる。鬼の行動に気付いたグランシャリオーは攻撃を止め全力で飛び退いて距離を取るが、一瞬早く鬼が瘴気を吐き出した。
さらに飛び退くグランシャリオー。鬼は瘴気の中その姿を眩ませ逃げ遂せることに成功した。瘴気が晴れ、悔しげに、苛立たしげに夜闇を睨むグランシャリオー。
ライトアップされた鉄塔――
『へぇ。あの娘が私のライバルかぁ』
――意味ありげに笑みを浮かべる少女の影。
映画用に作詞作曲されたオープニングが流れる。
わたしたちの手には映画前売り券入場者限定のアイテムであるスターライトクロス(応援ロッド)。
これを光らせてグランシャリオーを応援するというアイテム。少し恥ずかしい。
隣の詩音を見れば、静かにウキウキしている表情をしている。うん、かわいい。映画よりも詩音を見ていたい。




