異妖“縁切り”
前回の3.5の双樹視点1
異妖を実体化させた彼女が消えたのは子供の事を思い出したから。後は――
「朝かぁ……。帰ったら少し仮眠を取って、宿題しなきゃなぁ……」
あくびを噛み殺す。流石に夜型に適応した身体だ。日光浴ならぬ月光浴の方が身体に良いとはつくづく人から外れたんだなと改めて実感させられる。
鬼斬りは大抵は夜型だけれど、どんなに身体能力が高くても、特殊な能力があっても人の範囲だ。
屋根から屋根へと跳び移る。
認識阻害の術のおかげもあって、早朝から活動をはじめた人たちにも気付かれない。
夜でも十五夜のお月様でも無いけれど、朝月は見えるからギリギリセーフってことで。
ポーンと屋根を蹴って跳ねる。空中で捻りを入れてみたり。
千羽天剣流 文曲 月兎という業の無駄遣い。
――涼風に覚えさせれば、ほら――
4回転なんて簡単に出来る。
――教えるのもありかも? 無いか。
母さんからすれば弟子ではない娘は涼風しかいなくなったしね。
それにそんな事を提案すれば涼風との関係が悪くなる。
――ただでさえ、離れていた姉が急に一緒に住むってなってまだ少しぎくしゃくしてるのに。
それはそれとして――
――ここまで何一つ妨害も事故も起きなかったなぁ。
鬼というのは自身の怨みつらみを晴らすのを妨げる者を普通なら排除に掛かるものだ。
それが一切無い。
「ここか……」
お洒落なアパートだ。
「ふーん。まだ喰い破られてないか……」
子供の存在が強く心に在るために異妖は抑え込まれている。
「けれどそれも時間の問題かな」
一瞬とはいえ成ったからには次は蓋をしている子供を狙う様になる。
――お母さんの手で殺させる、とか絶対に阻止しないと。




