境界線上で手を繋ぐ
エピローグー詩音ー
双樹が四年前の女の子で生きていることがわかった。そして私たちを助けてくれたのが彼女のお母さんである真弓美さん。
双樹が教えてくれたのは基本的なことで、私たちの日常に鬼という危険が在ることと、その鬼を退治する者たちがいること、それだけ。
言えないことの方が沢山あるはずで、彼女が語ってくれたことも本当なら私たちは知ることも、教えられることも無かった事柄だ。
それを教えてくれたのは私の悪夢を終わらせるため。一応、鬼に囚われたまま、その鬼を斬るという建前で教えてくれたのだ。
私たち三人は真弓美さんに御礼を言いに言った。鬼斬りのこと、鬼の存在を双樹が独断で被害者の私たちに話たことに眉を顰めてはいた。けれど、私たちが無事に育ったことに安堵していて、記憶を封じるのがあまかったことをに胸を痛めていて、謝ってくれた。
それからあの日の夢に魘されることもなくなった。
その双樹はというと、私の肩に凭れかかって眠っている。白金の髪が陽に透けて溶けるようだ。
ちらりと寝顔を覗き見る。長い睫毛。可憐な唇。眠る彼女はまるでドールのようだ。しかし、静かな寝息が彼女が生きている確かな証だ。
昨夜は御役目だったのかもしれない。
鬼を斬る業には霊力を使うと言っていた。まるでゲームのようだ。そう言うと対して変わらないと笑う。ただ、回復薬がなく、眠ったとしても即回復という訳にはいかないらしい。
取り敢えず食っちゃ寝していれば回復するという。それで見た目に反して良く食べるというわけだ。
それでいて肥らないとかどんなチートな身体なんだ。……胸か? 胸に行っているのか? 一部では胸部装甲なんていうけれど、貴女のソレは霊力タンクなの? これが戦闘力の差というやつなの?
冗談でも言っていないと、彼女、凄く良い匂いで理性が飛びそうになる。勘弁してほしいわね。
お弁当を食べ終わって、彼女が船を漕ぎ始めた当たりから千尋たちも静かにして、双樹を眠らせることにしたみたいで小声で会話している。私もそうしている。
クラスメイトも何故か静かにしている。
まぁ、眠る美少女なんて侵してはならない神聖なものだものね。
もうすぐ夏休みだ。氷鏡たちとの関係はリセットされた。私たちの遊ぶ予定に絡んでくることはなくなったから安心だ。
氷鏡と妻夫木は真実の愛に目覚め、今日も今日とて双樹が新たに名付けたパーフェクトディスティニーマキシマムラブハーモニーフィールドを展開していている。
色々と問題があったみたいだけれど、氷鏡の両親が恋愛に関して、彼自身に何が言えようか。そう本人が縁結びをした双樹に言っていた。
彼は高校を卒業したら家を出て、親と縁を切ると言っていた。あと、部活も辞めて自立資金を貯める為にバイトを始めたという。
妻夫木も真面目にしている。二人は小旅行を計画しているとか。
私たちも計画をしてみようかと千尋たちと相談中でもある。
でも、双樹には御役目があるから無理かな? 放課後、話してみよう。もうすぐ昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
私は双樹を起こすべく声をかける。
ちょっと艶かしい声が零れて、睫毛が微かに震えて、瞼が開く。澄んだ青い目が私を捉える。おはよう、と儚い笑みを浮かべる。
それは反則だ。双樹の安らげる場所になりたいと思ってしまった。その安らぎを守りたいと思ってしまった。心を支えたいと思ってしまった。
四年前、鬼に囚われるよりも、私の心を強く捕らえて離さなかったのは、双樹だ。
双樹を思い出せるのが、あの思い出しかなかったからだ。
私はあの一瞬で惹かれ、魅了されてしまった。
まだ恋だなんてまだ言えないけれど。私は彼女が好きなんだ。
書き直しから始まった長ぁいプロローグ的な第一幕が終わりました。
百合百合しい展開には発展しきれなかったですが、プロローグ的な第一章ですので、百合百合しい展開は後々に、ということで、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
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