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誰ソ彼時ータソガレドキー

 転校生に騒ぐ前に氷鏡と妻夫木がカップルとなってセンセーショナルな話題でクラスが困惑しつつも、受け入れた頃にようやく転校生の話題になった。


 本物のホワイトゴールドの髪。カラコンではあり得ない青い目。2.5次元を地でいく顔。るところは出て、引っ込み括れるところは括れていて、手足も長く、何処のモデルだと言いたくなる様な体型。

 ツリ目、猫目といえばどうしてもキツイ印象があるけれど、大きくつぶらな目はどこか仔猫を思わせる可愛くも美しく魅力的な目だった。通った鼻筋に薄い唇はややアヒル口。

 

 羨望、嫉妬、欲情、様々な視線を送る。そして何より、今朝ニュースになった有栖川シェイラに似ていた。


 美少女転校生、その転校生が有栖川シェイラに似ているという話題は他のクラスにも行き渡る。


 しかし、誰もが大っぴらに騒げなかった。彼女に迷惑をかけてはいない、と。その理由は私たちのクラスが原因だった。今朝のやらかしが抑止力になった。それでも騒ぎたい者や双樹にお近付きになってあわよくば、リンクを交換しようと考える者、有栖川シェイラの代わりに会える、お近付きになれて、喋れるサークルのアイドルにしようと画策する者は、歓迎会を行う事にした。


 声をかけたのは陽キャパリピな雪早ゆきはや 拓真と宗鳳蓮しゅうほうれん 麿芽雄マメオだった。


『誘ってくれてテンキュ! でもゴメーン。わたし放課後バイトなんだよねー』


 と、言っていた彼女が鼻歌を歌いながら歩いていたのを見かけた。だから一緒に帰ろう、なんてキャラじゃないのに誘おうと思って――


 ――あとをつけたらシリアスな展開になってるんだけど!!


「やめたら?」


「え?」


「確かに此処でキミが自殺すれば皆がキミに注目してくれるよ。けど、そんなのは一瞬。あとは生きている者同士が責任の在処を押し付け合って、罪をなすり付け合って、キミが自殺したことが、かえって面倒くせぇことしやがって、とか言われて迷惑がられるだけだよ? だからさ、やめときなよ」


 夕焼けに染まってオレンジレッドに輝く長いツインテール髪が夏の風に揺らいでいる。


 魅惑的、蠱惑的、小悪魔めいた少女。


 明るい少女の声。悪戯を思い付いた時の様な楽しそうな声。要するに私とは反対の陽キャギャル。転校してきたばかりの少女が今日見せた姿とは違う姿。


 今、私の目の前にいるのはまるで別人だった。私たちに見せていた姿は陽キャギャルを演じているとでもいうかの様に。


 イヤーカフのチャームキラキラと夕陽に照らされて煌めく。


「放っておいて!! 生きてたって苦しいだけ!! 先のことなんて考えられない!! こんな苦しい想いを抱えてこの先ずっと生きていくなんて辛すぎる!!」


「貴女は死んでどうしたいの?」


「どうしたいって、だから楽に――」


「――楽になんてなれるわけ無いじゃん」


 少女――双樹は女子生徒の言葉を遮って、少女の考えを否定して切って捨てる。


 言の葉――言の刃で。


「どうして!! 貴女にそんなことが言えるの!!」


 その通りだ。


「その苦しい想いに縛られ続けるから。だから聞いたの。死んでどうしたいのかを」


 女子生徒の激昂に対して、双樹は静かに言葉を返す。


「貴女を苦しませた人に復讐をしたい? 見て見ぬ振りをしたクラスメイトにその苦しみを分け与えてやりたい? 救ってくれなかった大人に一生、重い十字架を背負わせてやりたい? それとも――」


 双樹の紡ぐ言葉は女子生徒の仄暗い心を誘惑する。


「それ……とも……?」


「人の道から外れて、幸せを満喫する全ての人に同じ苦しみを味合わせてみたい?」


 ――そんなこと出来るはずが無いじゃない。


「そんな……ことが、出来るの……?」


「先述のは呪言とか夢見の術とかで出来るし、更にその前に言ったけど、死んで貴女が悪霊になれば、貴女自身の手で裁ける。後述だけど――」


 双樹が女子生徒に近付く。その瞳は夕陽のせいなのか紅々と怪しい色を宿していて、その唇は愉しそうに笑みを浮かべている。


 女子生徒は双樹に魅入られた様に動かない。


「生きて、その怨みつらみをもっともっとドロドロになるまで滾らせて煮詰めて溜め込んで溜め込んで、鬼になれば良い。教室で全てをぶち撒けるのも、学園へ溜め込んだものを吐き出すのも良い、それが魔や鬼に成ると謂うことだよ。全てを吐き出し終えたなら――」


「終え……た、なら……?」


「わたしが貴女を斬ってあげます。その苦しみも悲しみも涙も無念も後悔も、一切合切なにも遺らない様に、鬼としての貴女を斬ってあげる」


「あな、た、は……なんなの?」


「鬼斬り役 千羽 双樹。人に仇成す鬼を斬る者だよ」


 双樹の名乗りを聞いた途端、収まったはずの頭痛がぶり返してきて、ズキズキと早鐘を打つように警鐘を鳴らす。


 ――鬼……斬り……、千……羽……。


 待って待って待って!! だってそれは夢に見る女性が名乗っていたものだ。


 その女性も――


 双樹の右手にはいつの間にか一振りの日本刀――それも少し形が特殊な鋒両刃造の刀身の日本刀が握られていたからだ。


 白刃の刃が夕陽の光を跳ね返す。


 ――同じ、刀?


 ――を持っていた。


「な、ぁ……?」


「死んで悪霊に成って斬られたい? それとも生きたまま鬼に成って斬られたい?」 


 双樹が女子生徒に鋒を突き付ける。


「ヒィァ! 嫌! 嫌! 来ないで!! 近付かないで!!」


 尻もちを付いて後退り、双樹の接近を拒む。


「いや!! 嫌だ!! 鬼になんかなりたくない!! 悪霊なんかに成って縛られて苦しみ続けるなんて嫌だ!! なんで? なんで私が死ななくちゃいけないの!! 私は悪くない!! 面白いからってなに!! なんでそんな理由で虐められなくちゃいけないの!! ねぇ助けてよ!! 貴女、鬼を斬るんでしょ!! 斬ってくれるんでしょ!! あいつらの方が私なんかよりよっぽど鬼じゃない!! 死にたくない!! もっと生きたい! 楽しみたいよ!! 助けてよ!!」


 女子生徒は泣き叫んだ。死にたくないと、生きたいと、それが本音だ。


「ほらちゃんと本音言えたじゃん」


 双樹は女子生徒に優しく微笑んでいた。


「ぇ?」


 ――ぁ……。


 双樹は女子生徒を何の躊躇いも無く斬った。


「貴女に巣食う鬼はわたしが連れていくから、もう苦しまなくて良いよ。ゆっくりおやすみ」


 ――ヤバ!


 双樹が人の気配に気付いて、身体の向きを変えた。私は慌てて身を隠す。


「残念。鬼はわたしが斬ったから。ね、〈鬼部〉の鬼斬りの大将源 頼央先輩と頼央四天王の皆さん」


 私じゃなかった、と気付かれなかった事に胸を撫で下ろす。


 ――生徒会長とメンバーがどうして?


 源 頼光とその四天王の渡辺 綱、坂田 金時、卜部 季武、碓井 貞光が鬼を退治した。


 源先輩が率いる生徒会メンバーが渡辺 純美つなみ、坂田 暁時、卜部 義武、碓井 貞雅という奇跡的な名字を持つメンバーが揃った為に、現生徒会を頼央らいおうと頼央四天王と呼んでいる。


 ――奇跡でも……何でも……なかったのね。


 〈モノノベ〉とかいう組織に所属するメンバーだったのだから当然のはなし。


「彼女を鬼に成るまで放置して処分して、彼女のクラス、ううん、教師も含めて、一人を犠牲にする事で学園の秩序を護りたかったんでしょうけど、残念でしたね。このことは明日、明るみに出るよ。貴方たちが何をしようと、一度世界に拡散したものは消せない」


「きっさまぁっ!! 御国を護る使命も志も失った鬼斬り風情が!!」


「この国は遠の昔に終わってるって気付きなよ。いや、気付いていて現実から目を背けてる。〈鬼部〉が護る人たちを必要としているのは一部の信者だけ。昔の様に天変地異が起きれば帝がどうのとか神意がどうのとか言ってる時代じゃないし、まして政治家なんてリーダーシップが取れるなら誰だって良い。けど、そんなリーダーなんていないから誰がなっても一緒。代わりなんていくらでもいる。その人じゃ無いとヤだぁ何ていうのも、応援している一部の信者。世の中良くしてくれれば大半の人にとっては誰だって構わない。ほら、あなたたち〈鬼部〉は存在する意味がない。あなたたちが護る者よりも個人を護る方が今は必要とされてる。民あっての国。居心地が良いからこの島国にするんでるだけで、同じレベルの食文化や娯楽文化があれば別にこの島国じゃなくても良くない? ほら、やっぱりあなたたちの存在は無意味、ね?」


 双樹と生徒会メンバーが所属する組織は対立関係にある様だ。双樹の言葉の端々に生徒会メンバーが所属する組織への侮蔑が込められている。


 地震も豪雨も日照りも津波も解明されている。そんな自然現象が祈祷なんぞで起こらなくなる、なんていう事は全く無い。

 

 ――でも、双樹は……。


 双樹が斬った女子生徒を見る。双樹は首を斬った――


 ――あれ? 首が……繋がってる? 血も出て……いない? 


 斬られて倒れたはずの女子生徒は無傷だった。


「私が鬼にして誰でも彼でも斬ってるって言うけどさ、それ、あんたらじゃん。救えるはずの人間、救わないで鬼にしてさ、何でもかんでも鬼即斬。ポイント稼ぎしてるのはどっち? ねぇどっち?」


「黙って聞いていれば!! 頼央様を、私たちを愚弄した罪、償って貰います!!」


 渡辺副会長が勢いよく飛び出して双樹に襲いかかった。


「クス。マジウケる。これが渡辺さんの妹なんて」


「え……?」


 双樹が消えたと思ったら渡辺副会長の身体が宙を舞い、フェンスを大きく超えていた。


 呆然と何が起こったのか理解出来ていない渡辺副会長の声。


「純美!!」


 源会長が逸早く飛び出していた。


「雑魚すぎっしょ!!」


 ケラケラと笑う。


 残された三人は階段を駆け降りていく。


「さて、と……」


 気付かれてた!! 早く逃げないと、と思い、踵を返す、も平衡感覚を失って膝から崩れ落ちる。


 頭痛が酷くなり過ぎると、自分を守る為に意識が落ちる。


「詩音!!」


 私が憶えているのは双樹が悲痛な叫び声を上げて私の名前を呼んだこと。

リンカネこぼれ話。


雪早を“ゆきはや”ではなく、“せっさ”と読むと、雪早拓真は“せっさたくま”になります。


宗鳳蓮は報連相から順番を変えて。麿芽雄は“まめな男”になる様にと名付けられたから。 報告と連絡、また大きな買い物をする時は相談をこまめにしろ、という意味になります。


 麿芽雄くんの家庭事情が気になります。


 長々と一日を書きましたが、プロローグはこの辺りで締めに致します。


 やぁ、リメイク前とは違った形になってしまいました。

 もし少しでも続きが気になった読者様、面白かったと思って下さった読者様、気に入って下さった読者様、良ければブクマや評価をして頂けると嬉しいです。

 それではまた、お会いしましょう。

 

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