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邂逅Ⅱ

「な、何なんだ……。みんな何を言ってるんだ!! 俺は何も間違ってなんかない!! 間違ってない!! だってそうたろ!! 俺は間違わない男。パーフェクトハーモニーマスターなんだぞ!!」


「ストーカーみたいな卑劣なことをオレはしねぇ!! オレは何時でも何処でも、正々堂々と千尋に告って来たんだ!! マッソウルに誓って嘘は言ってねぇ!!」


 自己弁護を騒ぎ立てる二人に、侮蔑と憐憫の目を向けるクラスメイトたち。


 ――違う! 違う違う違う違う違う違う違うッ!! こんなのは俺の世界じゃない!! こんな世界知らない!! 何で元に戻らないんだ!! 何で何で何で何でナンデナンダッ!!


 逃れられない現実が否応なしに氷鏡に迫り、妄想と現実の板挟みにされ、氷鏡を挟み押し潰そうとしていた。


 ――好きだって気持ちを伝えて、一度駄目でも何度もアタックすればオッケーを貰えるんじゃねえのかよ!?


 この人私が居ないと駄目みたい――何ていう武士の情け結婚を狙っている妻夫木は、それがストーカー行為だという事に気が付いていない―― と、まぁ、改めて教室に来てみれば、氷鏡と妻夫木のおもしろ発言が聞こえて来て、オマケにイタくて、ひび割れていく心が視えた。


「どこをどう捉えて解釈したら好意を持ってもらえてるって勘違いできるん? やっぱ、わたし“好き”とか“愛”とかって言葉嫌いだなぁ。迷惑行為も犯罪好意も正当化出来ちゃう便利な言葉だもん」


「本来は暖かくなったり、嬉しくなる言葉のはずなのにね……」


「度が過ぎる依存ヲタクが使うとヤバい言葉になっちゃうもんね」


 あのストーカー鬼と言い。営業スマイルにガチ恋するなんて、これだから非モテの厄介ヲタの童貞はキモいっていわれて、ルールを守るオタクまで偏見の目で見られるんだ。


「それにしてもまた言っているのかあいつらは……。あと、高校生にもなって自習も出来ないの? 学級委――有馬は保健室。片割れは問題を起こした当事者か……。先生自信なくしそう……」


「また!? MMS(マキシマムマッソウル)MPHミスターパーフェクトハーモニーって男子二人は何時もあんな恥ずかしいことを言ってんの!? しかもストーカー的思考のプロポーズとかマジウケる!! キッモ!!」


「藤咲さん、やめて! 先生も保健室に行きたくなるから!!」


「センセーも苦労してるんだねー。食べます?」


 カバンから山幸彦さんの山を取り出してシズセンセーに差し出す!


「センセー。禍福は糾える縄のごとし。人生、塞翁が馬、だよ。これ食べて元気だしなよ」


 あとは心が落ち着くハーブ(ティー)をキメればカンペキ!


「そうよね。ありがとう。呼んだら入ってきて」


「はーい」


 ――あ、ログボ貰わなきゃ! 忘れてた。


『また貴方たちが騒ぎの原因ね!! 毎回毎回、何をしているの!! 氷鏡くん、貴方、学級委員よね!! 自習は? 氷鏡、妻夫木両名は昼休みに生徒指導室に来なさい。良いわね!!』


『ま、待ってください!! 俺たちは悪くありません!!』


『悪いのは約束を破ったしぉ――』


 バンッ!! と持っていた教材を教卓にでも叩きつけたなのだろう。


『いい加減にしなさい!! 彼女たちには彼女たちの意思があって、貴方を拒むのも彼女たちの権利で意思。貴方たちの行いは、彼女たちの人格と意思を否定し、自分の都合の良いペットか、奴隷として扱うに等しい行いだと言うことを自覚なさい!! どうやら本格的にご両親を呼んで話さなければならないみたいだから、それだけは伝えておいて。良いわね!!』


『くっ!!』


『クソッ!!』


 ――あの二人も相変わらずだね。


 氷鏡と妻夫木は変わらずとも、周りは変わった。センセーもクラスメイトも二人に賛同しない。


 ――四年前に氷鏡の守護霊を斬ったから、洗脳も魅了もご都合展開も起こらないね。良し良し上手くいった上手くいった。


 健全で正常だ。


 しかし、氷鏡と妻夫木は幸運の対価を何一つ支払わずに今日まで来た。


 ――これは多分、利子とかでまだ序ノ口なんだろうなぁ。


 だから、本当にマイナスへ勢いよく転がり落ちて行くのはこれからだ。


 彼らが無償で幸福を享受してきた陰で、本来、それに見合うだけの対価を払い、その席に座っていたであろう誰かが不幸になった者がいる。


 氷鏡と妻夫木はその罪を償っていかなければならない。

 誰も肩代わりは出来ない。だけど、巻き込まれかねないのが心配ではあるところだ。


 ――一度転がりだした石は壊れるまで止まれない。


 過程はどうあれ、その瞬間は見たくはない。


『それでは今日から皆と共にこのクラスで学ぶ転校生を紹介します。入ってください』


「はーい」


 わたしが教室に入った瞬間、教室が騒がしくなった。


 ――おっぺぇに腰に脚。他にも色んなタイプのフェチがいるなぁ。ファンサの握手会のアイドルってこんな感じ? 


「静かにしなさい。授業中の他のクラスに迷惑です。手短にね」


d'accord(ダコール)。了解しました。今日からこのクラスの一員になる藤咲 双樹です。みんな仲良くしてください」


 ウィンクスマイル。


「はい。静かに拍手〜」


 シズセンセーの言葉に、器用に応える。


「質問は後で。藤咲さんの席は一番後ろの神宮寺 悠斗くの隣よ」


 神宮寺 悠斗が手を挙げる。


「前の空いている席は雪城さんよ」


「d'accord……」


 ――ワォ! 氷鏡とはタイプの違うイケメン勇者キター。


 氷鏡が爽やかでも、熱い心のスポーツマンなら、神宮寺はスタイル重視のモデル系だ。


 有名なファンタジーゲームの主人公の対比を見ているようだ。

 

「よろしく。藤咲さん」


「よろしく」


 ――よろしくするつもりは無いんだけどね。


 元男だからという気持ちは無い。だって生まれてからずっと女の子だし? 精神が元男だから? それも無い。


 元が男だから女の子が好き? それも違う。だからといって元々が男子もオーケーって事はない。


 ――そもそもが友達なんていないからね。


 もう、逢えないあの子以外は……。


 残りの時間は少ないけれどシズセンセーの担当科目の時間は粛々と行われ、無事とはいえないものの終わりを迎えた。


 無事とはいえないというのは――


「た、大量の課題って……なによ……」


 一時限目が終わって戻って来た詩音たち。わたしの前の席の自分の机の上に置かれた大量のプリント(シズセンセー作)の課題の山。


「自習もせずに騒いだペナルティーだって。他のセンセーにも今頃通達されている筈だから、今日の課題はこの倍以上になるかもだし?」


 そう言ったわたしの言葉への反応が先の一言だ。


 シズセンセーの生徒を思い遣る置き土産の爆弾()に運動部だけではなく文化部も血涙を流し、遊ぶ予定もしくはバイトがある帰宅部のクラスメイトも虚ろな表情で笑っている。


「しかも今日中に、ですか……」


「今日やらかしたから今日中に反省して、今日の罪は今日中に清算するように、だって」


「はぁ!! 騒いで自習しなかったのも喚き散らかして他のクラスの授業の妨げになったのはあの二人でしょ!! あたしら完全にとばっちりじゃない!!」


「連帯責任って奴じゃん? “一人の失態はみんなの失態。みんなの失態は一人”の失態って有名な言葉あるじゃん」  


「双樹。それを言うなら“一人はみんなのために、みんなは一人のために”です。ですが、良い言葉の反対としては正しいのかもしれませんが……納得いきません」


 戻ってきてみれば課題は大漁なのだから憤るのは当然だ。


 ちなみに、戻ってきて改めて挨拶をして、名前で呼び合うように決まった。


 教室に満ちる空気はピリピリとしている。ボルテージは最初からMAXだぜ!! 

 氷鏡と妻夫木は詩音と仲良くしているわたしに話しかけたがっているけれど――


『氷鏡くん、妻夫木くん、転入初日で藤咲さんも馴れていないだろうから、他人(・・)の貴方たちがそれを理由に迫れば迷惑になる、解っているな。お前たちにではなく、学級委員長の有馬さんにお願いしているから今朝のような問題は起こさないで、いいわね」


 シズセンセーに釘を刺されていた。他人という言葉を用いたのも、彼らが詩音たちの親友=俺たちの仲間である。仲間なら当然、グループの和を大事に、と言いそうだからだ。


 ――今のところ、堕ち易くて成り易いのは氷鏡かな。


 視たところ澱みが強いのは氷鏡で、妻夫木は不満は有ってもその澱みは陽気に消える。


 ――盟友氷鏡がセイヴァーズの仲間だから、か。 

 

 正義のヒーローに憧れる者同士であり――


 ――妻夫木って氷鏡に惚れてるよね、絶対。


 妻夫木から見て男が見ていて気持ちいいと思える爽やかさとイケメンぶり。男が憧れる男を体現しているからだと思う。


 ――でも、それにしても氷鏡が批難されたり理不尽に傷付けられると、氷鏡が悪くても、氷鏡を良く言って尋常じゃない怒り方をするんだよねー。小学生から全然変わってないじゃん。マジウケる。


 時にはセンセーにも食って掛かるほどに。


 ――本人、無自覚だけど、やっぱり“Like”じゃなくて“Love”のほうだよなぁ。


 ガタタッ!!


大きな物音に思考を止め、現実に戻ると詩音、千尋、紗奈、そして何故か神宮寺 悠斗、及びわたしの席の近くにいた目隠れ眼鏡っ娘が戦慄していた。


「そ、双樹……全部口に出てたわよ」


「マジッ!? ヤバ! 何処から?」

 

「盟友氷鏡がセイヴァーズの仲間だから、か、辺からよ」


「マジ?」


「本当ですよ。双樹」


 詩音の言葉を千尋が肯定する。


「双樹、あたしらのこと知ってたみたいな言い方だったけど?」


「そうね」


「いったい何処でお逢いしたのでしょうか?」


 有馬の鋭い指摘にドキリとした。


「小学六年の頃さぁ。修学旅行に京都行かなかった?」


「秋の遠足ね。私たちの学校は広島だったの夏前」


「そうなんだ。わたしたちは秋の修学旅行でさ行ったわけ、そしたら他所の学校の男子が二人他のクラスメイトらしき子たちと言い争ってれば目立つっしょ?」


「それで良くあの二人って判ったわね」


「そんなの簡単じゃん。往来のド真ん中で自分のことPHてかMMSとか叫ぶ奴なんて他にいないじゃん」


 アハハ! と笑うと――


「そ、そうですね」


「確かに、そんな奴あたしらの卒業した学校であの二人だけだわ」


「最悪……。それ、私たちも関係してるじゃない……。他所の学校にまで私たちの汚点知られてるとか、ホント無い」


「あ、あの私たちのことは……」


「後ろ姿だったから良かったじゃん」


「そうね。貴女のプラチナブロンド見てたなら簡単に忘れられないも――」


 詩音が頭を押さえて顔を歪ませる。


「だ、大丈夫?」


「ええ。この時期には嫌な思いをしてたから……」


「そっか」


 少し空気が暗くなる。


「藤咲さゃんっ!! イタヒ〜舌噛んじゃった」


「ダイジョーブ? マジ痛そうなんだけど、ちょっと舌見せてみ」


「ふぇ?」


「あ~やっぱ、血滲んでんじゃん! あんま酷くなさそうだけど、保健室で手当てしてもらった方が良いんじゃない? あと殺菌効果のある緑茶とかで口ゆすいだりした方が良くない?」


 わたしの提案に直ぐに動いたのは、なんと神宮寺だった。


「ありがとう。藤咲さん」


「え!? 悠くん。ま、待って! 藤咲さん! 心配してくれてあ、ありがとう」


 目隠れっ娘連れて行かれちゃった。


「彼女、真田 幸花って言うの。それで彼の幼馴染み」


「仲良さそうだねー」


「実際に仲が良いわよ。家も隣で親同士も同級生で仲良いって言ってたし」


「でも何で彼女あんなに動揺してたん?」


「え、えっと〜」


 紗奈の目が泳ぐ。


「あぁ。ナルホド。そういうことか。うん、判った、解った」


「なによ? おかしい? 気持ち悪い?」


 詩音が睨んでくる。


「思わないってば!! 好きになったなら仕方が無いじゃん。そんなのさ」


「え!!あ、うん」


 チャイムが鳴り、先生がやって来る。


 ――こんな見た目だからキッモ、っとか言われると思われたかぁ。


 因みに真田と神宮寺はチャイムの直後に教室に無事に復帰を果たすことができた。


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