金髪紅眼の討滅の刃Ⅱ
高度を下げたホバリングするヘリからダイブする。
わたしは手を合わせる。術式が展開さる。ピンクゴールドの装飾の柄頭、蒼と純白を匠に織り交ぜたの柄、やたらとファンシーな鍔だけが現れた。
ガードの先にはクリスタルが輝いている。
憐れわたしの愛刀である霊刀〈千破矢〉のかつての姿は無く、何処か変身少女ものの変身アイテムのような姿に変わり果てていた。
もし、〈千破矢〉にアバターがあったなら姿を見せ号泣しているに違いない。
その鍔にチョーカーのクリスタルを填める。
――マジでアレをやるの? やんなきゃダメ? マジでこんなの罰ゲームじゃん!! はずか死ぬ!!
「デュアル スターライト メタモルフォーゼ!!」
柄が七つの星光を召喚し、わたしに降り注ぐと、わたしを取り囲む。星光は結界だ。
伸ばした手、その掌の先で回転するスティック。
――もうスティックで良いや……。
七つの光一つ一つをスティック―― 北極星に纏わせ――
――……舞をやるぅっ!? 聞いてないんだけど!! 舞わなきゃいけない?
天枢。
円を描く様に舞うと星光の一つを決められた位置に配置する。
天璇。
天璣。
天権。
玉衝。
開陽。
揺光。
七つの光、全てを配置し終える。
点と点を結ぶ様に舞う。
そして〈ポラースシュテルン〉を天に振り上げる。
「グランシャリオー!!」
七つの光が〈ポラースシュテルン〉の装飾に集まる。
――集まったからってどうなるっていうんだよー!! 開発部のバカーッ!!
わたしのコスチュームも変わっている。
――無駄に凄い技術だね!!
千羽天剣流 文曲 月兎。
静かに降り立てるはずがザッと少し音を鳴らしてしまったのは、わたしが動揺しているからだ。
水干、もしくは狩衣をファンタジー風に仕上げた肩あき袖ありの上衣にプリーツのミニスカート。ピンクゴールドのハート ガーターリング。純白のニーハイブーツ。およそ戦闘向きとはいえないハイヒール。あとフィット感がある。
――……身体にピッチリでラインがわかるボディスーツとか忍び装束風じゃなくて良かった……と思うべきなのか、あんま変わんないと思うべきなのか……。
わたしの格好はグランシャリオーのキャラデザそのままだ。
それにしてもさっきからキモい鬼の独り善がりな好意を押し付ける妄想が酷い。
――黙らせるか。
「それって!! それって!! アレでふよねっ!! 『デモンスレイヤー グランシャリオー』の天宮 七星ちゃんが悪鬼を討滅する時に変身した姿!! ベネトナシュ―― 決戦フォームのコスプレをしてくれるなんてっ!! 嬉しすぎまふぅっ!! 流石オレっちの嫁でしゅでゅふふっ!! デュフッ!!」
――うっわ。マジムリ。歓喜して絶頂して、有頂天になってるし。マジあの顔キッモ!!
「それなら、悪鬼の末路も知ってるよね」
絶頂時に冷水を掛ける様な言葉で威圧して解らせると、相堂 拓流だったモノが涸れて萎み枯れていき、賢者タイムを経て、漸く現状に理解が及んだみたいだ。
「ちょちょちょ待てよ!? シェイラたんが愛するオレっちをやっつけるって、冗談は止めろよ!! あ、そうか、そういうプレイなんだね!! 良いよ! やろう! オレっちは悪魔の種子を植え付けられて変貌しちゃったって設定だね!! 知ってるよ!! 分かってる! フヒ! 二次元創作でお馴染みの彼氏ポジションか両方想いのクラスメイトって設定だね!! うん良いよ!! い、行くよ!! デュフ、デュフフっ!!」
「陰キャヲタクに、ギャルが優しいなんて現実にはマジ無いから! もし、あったとしても、清潔感があって、僻んでなくて、厄介なヲタクじゃないって条件があってだから!! アンタは生理的にマジムリ!!」
「ぶっきっー!! オレっちのシェイラたんはそんな酷い性格ブスじゃないんだなっ!! お前はシェイラたんの偽物何だな!!」
「何言ってんの? あのアイドルも同じだから事務所に気持ち悪いって、怖いって訴えたんじゃん。頭、マジでボウフラとか湧いてんじゃない?」
「あのアイドルってシェイラたんのことか……?」
「だからそうだって言ってんじゃん。バカなの?」
「シェイラたんをバカにするなっ!! シェイラたんのこと何も知らない、シェイラたんのコスプレギャルが知ったような口を聞くなんて許さんぞ……。許さんぞーーーーッ!! オレっちは本気で怒ったかんな!! クソビッチ女ァァ!!!!」
「残念だけどさぁ、最初の相手、わたしじゃないんだよねー。どうしてもアンタに借りを返したいっていう奴がいてさぁ」
わたしが肩を竦めて困ったちゃんが居たものだと、ヤレヤレと首を軽く振るジェスチャーをしている足下を駆け抜ける影が在った。
駆け抜けた影が鬼を威嚇して飛び掛かる。
「ブぎぃぃぃぃっ!? 痛い痛い痛い!! 何なんだよこいつはぁっ!!」
連続引っ掻きから拳の連打。凄い打擲音。跳び上がりサマーソルトキックを繰り出し、着地と同時にわたしの隣に跳んで来た。
――見事なサマーソルトが顎にヒットしたなぁ。うわぁ……。元々酷い顔が余計に酷く成ってるし。
顔がドス黒い紫色に腫れ上がり、歪んで原形を留めておらず、引っ掻き攻撃で前髪が禿散らかしたようになってしまっている。
猫又の猫娘。有栖川シェイラの飼い猫だった。不安も恐怖も相談にのり、受け止め、癒やして来たのだろう。
折れず曲がらず負けなかった有栖川シェイラが歪み壊れていく心を見てきた。自身が殺された事よりも有栖川シェイラを苦しめて来た者から守れ無かった方が悔しく無念だったのだ。
――実際は死にかけていたのをわたしが見つけたんだけどさ。
真絢さんが猫又の猫娘を見て複雑な顔をしている。
生まれたばかりの变化も出来ない猫又が变化し、元人間だった鬼を、奇襲とはいえダメージを与えられるほどの力と、变化が出来るだけの妖力を得られた背景には勿論――
――わたしが血を与えたからなんだよね。
猫ちゃんの願いは脅威から主人を護ること。その為に生物として輪廻の環に還ることを拒んだ。
『アナタが生き物として生を終えることを良しとせず、鬼になっても主人を護りたいと願うなら、わたしがアナタのその願いを叶えてあげる。ただし、対価が必要だけどどうする』
小さくか細く『にゃー……』と鳴いた。
『アナタの新たな生を使い魔となってわたしに捧げなさい』
そうして、血を与え、契約した。
「もう、いいの? それとももっと殴る?」
フルフルと首を振る。
「マスターの、お仕、事」
「偉い偉い。ちゃんと言葉も覚えてるじゃん! これなら彼女の警護も直ぐに任せられるようになるね」
「本当? 嬉しい」
「使い魔だってところは見せたし、そんじゃあわたしの実力って奴を見せますか!!」
「クソ猫ガアアァァァ!! おレッちヲナメやがっテブチ殺ス!! 何処にイッタクソ猫!!」
鬼が取り出したるはガスガン。
「どこに行ったぁっ!!出て来いクソがァァ!! 的にして撃ち殺してやんよ!!」
オラオラ! と乱射する。
「ガスガンを乱射しても無駄!! 因果応報よ!! 北極星とネコちゃんに代わって悪い鬼は調伏よ!!」
ビシッと決めポーズ!!
――必要? ねぇ、これ必要? メッチャ恥ずいんですけど!!
「ウルサイッ!! ウルサイウルサイウルサイウルサイッ!! オレッチト、シェイラタンノ、ラブベリーケイカクヲジャマスルノガワルインダ!!」
一方通行の独り善がりな欲望に染まるその心と身体に変化が起きた。
『アアァァツゥうぅいヒィィアァッ!! カラダガモエアガルヨウニ、アツィイ!! ソウダ、モエアガレ、モエアガレ、オレッチノオモイノホノオヨ、テンニトドケ、オレッチノネガイヲカナエテクレナイナラ、モエテコゲツイテシマエ!!』
ブルヒィィブルキィィピギィィィ!! と天に向かって咆哮する豚男。
異世界風にいえばオーク。
――人の言葉も失っちゃったかぁ。
西遊記的にいえば猪。猪悟能――猪八戒。
元々は軍神だったけれど宴の席で泥酔して月の女神に襲いかかって、下界に堕放された際に豚の胎内に宿ってしまった、半人半豚の妖怪として零落した姿。
『転生したら猪人だった!?』―― そのために自暴自棄になり、母親である豚もろともに人畜を殺して貪り喰らい続けた。
半妖として暴れ人を殺し喰らっていた時にも、玄奘三蔵の弟子になる前にも妻を娶っている。
出家してからも女と食と酒への欲には勝てず。
西洋の魔物オークも性欲、食欲、酒、破壊を愉しむというのが、共通している。
それはそれとして――
――変身少女もののアイテムって凄いよね。変身後のアイテムの知識も戦闘術も使用者にインストールされるんだからさ。
神速の一歩で相手の間に入ると、豚鬼の驚く顔。それでも破壊本能か、生存本能が働いたかは知らない。慌てて繰り出した力の籠もっていない腕を振るだけの打拳。
さらに踏み込み、それを払い、相手の体勢を崩す二歩。
地を揺るがす様に攻撃の為の踏み込みと同時に掌底撃。
豚鬼の背に衝撃が抜け、空気が破裂する。
『――――――――――!!!!』
崩れ落ちる鬼豚の左腕を掴む。
「破ッ!!」
その顔面に掌底。仰反る鬼を引き寄せ掌底。また引き寄せ掌底。
「破ッ!!」
最後に回し蹴り。
錐揉みしながら吹き飛んでいき、その勢いのまま地面を抉り削りながら転がっていく。
〈ポラースシュテルン〉を喚び出し、北斗七星を描く。そして天へ振り上げる。
顔に付いているパーツの穴という穴から血を流す鬼がヨロヨロと立ち上がる。
「臨める兵闘う者皆陣列ねて前に在り! オン ソヂリシュタ ソワカ・オン マカシリエイ ヂリベイ ソワカ!! 星光よ悪鬼を穿つ螺旋となれ!! ミーティア!! 破ァァァァーーーーッ!!!!」
短槍に変化した〈ポラースシュテルン〉――ミーティア。
穂先は不純物のない水晶で造られたような美しさ。その中央には蒼玉が埋め込まれていて武器というよりは芸術品のようだ。まさに宝。宝具。
天狗。短槍を構えて突撃。
漸くその二本の足で身体を支えて立ち上がった鬼の胸を刺し穿つ。
螺旋の星光が鬼の胸を削り浄化していく。
鬼の内に収まりきらなかった星光が溢れ、爆発した。




