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公爵令嬢と環の街の魔石たち  作者: 石川零
エピローグ
25/25

4.完璧な謎

一人には窮屈すぎ

三人にはゆるすぎる

二人にはちょうどよいもの——それはなあに?



◇ ◇ ◇



 ある日、カフェ・ツェントラールで朝食を取っているとき、コンスタンツェの一言でダニエルが驚いたように新聞から顔を上げた。


「乳母の息子に会いに行くって?」


 それが吃驚するようなことかしら。コンスタンツェは首を傾げる。


「そう。一度も会ったことないから。ヒルダとゆっくり話もしたいし、彼女の家にお邪魔してくるわ」


 するとダニエルは急に新聞を閉じてドゥンケル・メアー・ドゥンケルのモカをあおり、とっくに空だったことに気付いて少年給仕を呼ぼうとしたが、満席で忙しそうな給仕が捉まらなかったのでもういちど新聞を開いた。


「逆さでも読めるの?」

「え?」


 コンスタンツェは手を伸ばして新聞の上下をいれかえてやった。

 ダニエルが、記者の張り込みを警戒するように窓の外を見る。

 それからコンスタンツェに視線を戻して、やけに余裕のない硬い声で言った。


「ポルツィア宮のほうが安全といえば安全だ。移ってきたほうがいいんじゃないか」

「どうしたの急に」


 コンスタンツェは怪訝にダニエルを見つめ、ダニエルの目が泳ぐように逸れたのでますます困惑しながらも、ポルツィア宮の暮らしを想像してみる。

 あの方とかあの方とかに熱烈に勧められて、以前にも考えてはみたのだが。


「ポルツィア宮には立派な侍従長さんたちがいるから、執事コボルトの仕事がなくなっちゃうのよ」


 アップルシュトルーデルをフォークでつつきながら、コンスタンツェは十七歳で激変した生活についてのとりとめもない考えごとをはじめる。


「でもそうね、そろそろこれからのことも考えなきゃね。ずっとダニエルのところに間借りしているわけにはいかないわ」


 崩れたアップルシュトルーデルから顔を上げる。

 ダニエルがテーブルに半身を預けるように頬杖をついて、コンスタンツェをじっと見つめていた。

 瞬きを忘れた闇色の瞳に宿る表情が、心なしか、……気のせいかもしれないけれど、名残惜しそうに見えた。


 やがて姿勢を正しく戻して腕を組むと、ダニエルは仕方ない認めてやる、という微笑みを浮かべてこう言った。


「完璧な謎というのはないが、君は完璧な依頼人だったよ」


 戸惑って訊き返しかけたコンスタンツェの口を、漆黒の視線でつぐませる。


「完璧な——ドゥンケルの依頼人だった」


 またそれなのね。

 ダニエルはわたくしの持っている色が気に入っているのよね。

 わたくしは、ダニエルの纏うのがどんな色でも——。

(どんな色でもべつに、怖くなんてないんだから)

 ちょっと考えてコンスタンツェは言った。


「次は完璧な助手になるっていうのもいいかもしれないわ」


 探偵ダニエル・バルテルが魔の罠に誘うような闇色の瞳を煌めかせて、コンスタンツェの提案を値踏みしている。


 探偵が何と答え、その後の二人の未来がどうなったかは、小さな秘密レーツェルとしておこう——。





                                おわり


エピローグのなぞなぞの答え


・くちづけ

・望み、願い

・秘密


・引用文献 木下康光(2012)『ドイツのなぞなぞ』同学社

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