第9話 響の動画
三姉妹にボディーガードが付くと、そのことがまたメディアに取り上げられ、ニュースになっていく。
近所の人は、この方が地域も安全でいいという意見や、変な人が集まらないか不安など賛否両論で紹介されていた。
とはいえ、誘拐の危険や本当に変なのが現れても困る。
嫌がられていたのだとしても、ボディーガードを付けないわけにはいかなかった。
それとは別に、あたしと未熟な少女達との付き合いにも賛否が寄せられる。
憶測混じりの情報が錯綜し、基本的にあたしは悪者だ。
どんどん恋愛するべき、男とか女とか関係ないという大御所芸人から、けしからんという元スポーツ選手、冷静に法律を語る弁護士など様々だった。
「こばにゃ、本日も響けTVのお時間がやって参りました。ハイ拍手」
あたしの嫁……というか、フィアンセのチャンネルをのぞいてみると、新しい動画がアップされていた。
拍手の音が重なっているので、複数の人間が拍手をしているようだ。
「今日のゲストは、こちら」
響がカメラを引くように写すと、視界が広くなって三人の姿が画面に収まるようになった。
「長女の結奈です」
「末っ子の天音です」
「はい、ということでですね、たまにゲームの実況とかに出てもらっている二人ですが、今日はちょっと違った企画を考えて参りました」
「変なのは嫌だからね」
「わたしは……頑張るよ」
嫌なことは嫌とハッキリ言う結奈と、押しに弱い天音ちゃんの性格が良く出ている。
真面目で長女体質だから、響のイタズラを叱るのは結奈の役目だ。
天音ちゃんは、子役なんてやっているけれど、あまり積極的に物を言うタイプではない。
「変なのではありません、ボク達にとってとても大切なことです」
そう言いながら、響がカメラの枠外をごそごそとやって、何かを取りだした。
「ジャーン、ボク達が真純ちゃんを誘惑するための、エロ下着~」
動画の編集で、パフパフという鳴り物の音と太鼓のSEが入った。
間髪入れずに、結奈が響の頭を叩く。
「バカっ! そんなの動画を消されるだけに決まってるじゃない!」
「わぁ……」
そう言いながらも、結奈は響の持っている下着に興味がありそうで、天音ちゃんは顔を赤くして見つめていた。
「まず、スレンダーなお姉様のエロ下着はこちら!」
フリルの付いたヒモが三角の形をしているだけの、到底下着とは呼べない物だった。
上下供に三角のヒモだけで、これを真面目な結奈が付けているところは想像できない。
「こんなの着られるはず無いでしょうっ!」
怒っているのか照れているのか、結奈は顔が真っ赤だ。
赤いヒモに白のフリルがかわいさを装ってはいるが、それはまやかしに違いない。
なんと言うか、世の男の悲しさを見るような変な気持ちになってしまう。
「しかし、こちら、お値段なんと19800円の高級下着です!」
「もったい無い使い方するな! どうせ使わないのにっ!」
「そんなこと言っても、身体は正直だぜ」
ちょっとイケボっぽく音声が加工されて、おっさん台詞が流れる。
そして、また結奈に頭を叩かれていた。
「そして、真純ちゃんに一線を越えてもらえるように、天音っちにもこんな下着を買っておきましたー!」
今度は、その下着を持つ手を結奈に叩かれる。
「わ、わたしの……?」
「天音、こんなの真に受けたら駄目だからね!」
天音ちゃんの下着は、さっきのヒモよりも布地の面積が大きいが、肝心なところがガラ空きで、油断だらけと言った下着だった。
無駄に布地がある分、穴の空いているところが余計に卑猥に見える。
本当に、世の中って辛いなという見本のような製品だった。
「そして、なんと驚きなのは、姉ちゃんと天音っちのバストサイズがほとんど……」
そこで画面が暗転すると、ドスッという重いSEが入った。
結奈はスレンダーだし、天音ちゃんは大きいからなぁ……。
そして、何事も無かったかのように動画が再開された。
「さあ、天音っちはこの下着を着て真純ちゃんを誘惑できるかな?」
「そ、そんなこと……」
天音ちゃんが、恥ずかしがりまくっているのがかわいい。
顔は茹でたように真っ赤になって、見ているこっちまで恥ずかしくなってしまいそうだ。
「アホ、バカ、変なのは嫌だっていったでしょ! 天音、もう行こう」
「ちょっと待ったっ! まだこれで終わりではありませんよ」
「えええぇ……」
天音ちゃんは、結奈に掴まれながら、のぼせたようになっている。
「次は、こうやって、服の上からエロ下着を着てもらいます!」
それは響の分なのか、ハンガーに掛けたTシャツに、エロブラを付けた物を画面に映し出していた。
「出来るわけ無いでしょーっ!」
結奈が響から渡されたエロ下着を投げつけると、動画の終わりのBGMが流れ始めた。
はぁ……なんか、きっとまた、あたしが叩かれるんだろうな。
確信に似た思いを抱きながら、ブラウザをそっ閉じした。
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