第8話 三姉妹
ボディーガードの人達は、家の周りを固めて、不審者があたしに近寄れないようにしてくれた。
盗聴器のチェックやマスコミ対策なんかもしてくれて、通学に付き添ってくれたり、日曜も祝日もなく至り付くせりで対応してくれている。
でも、それで一安心していると、今度は嫁……フィアンセのことがマスコミにばれて、ネットにもその写真が出回ることになってしまった。
どこから情報が出たのか、それはわからない。
誰かの陰謀だと思っても仕方がないし、防ぐことも難しいだろう。
火がおさまるのを待っているのに、次から次へと燃料が投下されていくのは、本当に疲れる。
「さあ、今話題の女子高生ノーベル賞受賞者、宮月真純さんですが、なんとフィアンセがいることが発覚したんです」
「まだ高校生なのに、もうフィアンセがいるんですか?」
「いやそれがですね、なんと驚くことに、お相手は女性、しかも宮月さんよりもずっと年下の方なんです」
「女性で、しかも年下の方なんですか?」
「そうなんです、しかも、一人ではありません、なんと三人、しかも三姉妹のフィアンセがいるんですよ」
「驚きですね、それは一体、どんな方達なんでしょうか」
テレビでは、あたしのことがニュースになっていた。
嫁……原川さんの家の三姉妹が顔写真付きで、ボードのようなものに紹介されている。
いくらなんでも、未成年をこんな見せ物にして良いのかとも思うが……それには理由があった。
「まず、長女の原川結奈さん。14歳とお若いのですが、なんとバイオリン奏者として日本の数々の賞をを受賞している才女なんです」
「こちら、髪の色が少し明るいですが、染めているわけではないんですよね」
「そうなんです、なんとお父様がドイツの方で、お母様が日本人という、いわゆる国際結婚をしたご家庭なんです」
「つまり、結奈さんはハーフと言うことなんですね。いやぁ、若さと美貌と才能、女性としてちょっと羨ましくなる部分がありますね」
「それでは、そのバイオリンの音色を少しだけお届けしたいと思います。VTRどうぞ」
コンテストなんだろうか、ドレスを着た結奈がバイオリンを弾いている姿が十数秒間お茶の間に流れる。
それは、アナウンサーの言う通り、女性として羨ましくなるような画だった。
「美しい音色でしたね、そしてやはりハーフということなのか、ちょっと日本人離れした美しさにため息が零れますね」
「そうなんですよ、そしてですね、初めにお伝えした通り、三姉妹ということでして、これが三人ともに、男の子が放っておかない魅力を持っているということなんです」
「そして、これは二女の方でしょうか」
「あっ、VTRが入りますね、二女の原川響さんの映像です」
トレードマークの帽子を被った響が、ゲームの大会で優勝し、トロフィーを受け取っている姿が映る。
一見すると、かわいい男の子にも見えてしまうが、れっきとした女子で、中身は普通にオタなゲームマニアだ。
「原川響さんは、若干十三歳にしてe-sportsの世界でプロとして活躍しておりまして、賞金やスポンサー料など稼ぎまくっているらしいんです」
「おばさんみたいなことを言っちゃいますが、時代なんですかねぇ」
「時代ということもあるかも知れませんが、やはり才能がおありになったということなんでしょうね」
「響さんはボーイッシュな感じですが、綺麗な金髪碧眼で、こちらも、女性としてちょっと羨ましく思っちゃう女性ですね」
「しかもですよ、原川響さんは、自身で動画サービスのチャンネルを持っていまして、そこでも世の中のお父さんがびっくりするような金額を稼いでいるということなんです」
「もう、本当に羨ましいとしか言いようがないですね」
さっきから羨ましいを連呼している女性アナウンサーに、スタジオから笑い声が聞こえてくる。
きっとこのアナウンサーの男女に、悪気はないんだろう。
でも、隙あらばあたしを叩いてやろうというテレビ局の悪意も感じる。
「そして、こちら、皆さんもよくご存じだとは思いますが……」
そこでボードに出てきたのは、末っ子の天音だ。
「はい、私も大ファンで、よく見ています。天才子役の天音ちゃんですね」
「そうなんです、三歳でCMにデビューしてから、朝ドラなどでも人気になりました天音ちゃんが、なんと十一歳にして宮月真純さんのフィアンセなんです」
「もう、驚きとしか言いようがないですね」
そう、ニュース番組とは言え、未成年の写真をテレビに映しているのは、三人とも、元々からしてメディアに露出している人だから、という理由があった。
これはもう、アイとマイが暴走した結果としか言いようがない。
あたしは、ボディーガードの会社に連絡を入れると、今日から原川家の三姉妹にも警護を付けてもらえるようにお願いしていた。
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