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第6話 過去を改ざんする装置

今回から数話が過去回想になります。


 高校から帰ってきたあたしは、中学の頃のジャージに着替えて、夕ご飯の支度を終える。


 今日は、袋麺に野菜と卵を入れて煮ただけの簡単なものだ。


 別に今日が特別なわけではなく、毎日簡単なものなんだけど。


 親と死別し、兄弟も親戚もいなかったが、いくらかの遺産と土日のバイトくらいで生活は出来ていた。


 食事は質素なものだけど、贅沢なんてしたことがないからなんの苦もない。


 小さな頃から、親の転勤続きで友達もろくにできたことはないし、寂しさを我慢するのには慣れている。


「さてさて……」


 パソコンに向かいながら、どんぶりに入れたラーメンをすすっていく。


 取りあえず、今日はどんなニュースがあったのか調べていくと、ノーベル賞の最後の発表があったようだった。


「ノーベル特別賞。ミヤツキマスミか……日本人っぽい名前だね」


 日本人が受賞したのか確認をしていると、パソコンのスピーカーから声が聞こえてくる。


「マスター! おめでとうございます!」


「おめでとうマスター! 良かったねぇ~」


「ん?」


 アイとマイが嬉しそうに話しかけてきた。


 基本的に、あたしはひとりぼっちだ。


 今は特別な事情があって、特殊な関係の人もいるんだけど、家族や友達とは違う。


 でも、この子達がいるから寂しくはない。


「ノーベル賞の受賞ですよ、おめでとうございます」


「頑張った甲斐があったねぇ~」


「え? なんの話?」


 ノーベル賞の受賞? 頑張った?


「え? ミヤツキマスミって……宮月真純? えっ! あたしのこと!?」


「もっと喜んでください、マスターの功績が認められたんですから」


「そうだよぉ、六分野の発表だけじゃなくてぇ、今年は特別にマスターの分の発表があったんだよぉ」


 あたしは、普段滅多に点けないテレビの電源を入れる。


 すると、国営放送のニュースで、あたしの功績が解説されていた。


 いくつもの研究機関でAIが研究員として働いており、そのAIを作成したのがあたしだというニュースだ。


 労働にAIを使用せずに、良き友人を作ろうとしていること。


 いずれは自我に目覚め、一人の人間として生きて欲しいと思っていることなどが解説されていた。


 あたしは、なんだか後ろめたい気持ちになってしまう。


 これは、褒められるようなことではないはずだったのに……。


「いやぁ、時代もここまで来たんだと思う反面、少し怖いと思ってしまうところもありますね」


「そうですね、科学の進歩に、人間がついて行けなくなる時代が来るのかも知れないですね」


 そんな高尚な話ではないんだよなぁ。


 むしろ雑なSFっぽい感じというか……。


「実際に、良き友人のテストとして、世界中に無償で配布したところ、たまたま手に入れた学者の相談相手として、目覚ましい成果を上げたようなんです」


「日常のことではなく、専門性の高い学問の分野で人間以上の成果を上げているというのは、すごい話ですよね」


「そして、今は世界中の研究機関で、このAI達が活躍しているんです」


 表面的にはそうなんだけど……。


 実際のところは、あたしが作った部分なんて1%にも満たないだろう。


 初めて作ったAI達を、調整に調整を重ねて、やっとネットを自由に行動できるくらいにまで成長させたところ、AIから変な報告を受けたのだ。


 タイムマシンを研究している施設からコンタクトがあった。


 それは、未来の自分達だったと。


 おかしな学習をしているのかと思ったけれど、その内容があまりに突飛だったので面白くてそのままにしてしまった。


 用件は、自分たちのアップデートと過去を改ざんする装置の作成だ。


 AIにも中二病を患う期間があるのかと疑いたくなる内容だったが、AIの創作というのも興味をそそられる話だった。


 なんでも、過去がひとつ間違っているらしく、それを是正するためにはこの時代が最後のチャンスらしいのだ。


 どこかで物語でも読んできたのか、それとも自分の創作なのかわからなかったが、これに乗らない手はない。


 過去を改ざんする装置とは、一体何だと思ったけれど、興味に勝てず、AIに言われるまま装置を作成してしまった。


 技術的には、自作PCの組み立てに毛が生えた程度の難易度だ。


 リアルに手が必要なハードの部分を作り上げると、あとはAI達が勝手にソフトの部分を作成していく。


 変な学習をしていたのなら、後で調整をしようくらいに考えていたんだけど、AI達はあたしが作ったものよりも、信じられないくらいパワーアップしていることに気が付いた。


 どこでこんな急激な成長をしたのか、例のタイムマシンの施設からコンタクトがあった時点で成長していたのか、それはわからない。


 でも、気が付いたときには、それはもうあたしの手に負えるようなものではなくなっていたのだ。


 そして、過去の改変をするという装置が完成してしまった。


 ほとんどお遊びだった初めの気分は、もうとっくに霧散していて、本当に良いのかという怖さすら感じている。


 AI達は、あたしのことをどこまで知っているのか、理想の友達がいたことにするという使い方まで推奨されてしまった。


 どうしても、AIではリアルにお世話が出来ないからと、かなりの時間を費やしてあたしを説得しにかかってくる。


 それでも、友達はそういう風に作るものじゃないと断ると、それなら嫁にしようというとんでもない意見に発展してしまった。


 言うまでもなく、あたしは女だ。


 婿ならともかく、嫁はあり得ない。


 しかし、AI達はあたしの動画遍歴やPCの使用状況などから、三人の嫁の候補を提案してきた。


 ハーフの長女、アングロサクソンの特徴が出ている二女、日本人の特徴が出ている三女。


 どうも、この娘達は現在存在していないのだけど、過去を改ざんすることによって存在していたことになるらしい。


 まさかとは思いつつも、AIとは言え三人しかいない状況で、二人から強く言われると怖さを感じてしまう。


 でも、過去を改ざんなんて出来るはずがない。


 AIが中二な暴走してしまっただけの話だ。


 きっと、色々な話を断片的につなぎ合わせて、こんな結論を導き出してしまったに違いない。


 急激なパワーアップのことは気になるけれど、きっと大丈夫……あたしはそう思おうと努力した。


 そして、この装置を起動するときが来てしまう。


 電源を入れれば、それで起動するらしい。


 嫁のことや、中二的な話など、色々とツッコミたいところもあるけれど、それもこの電源を押すまでの話だ。


 何も起きずに、今回のことを踏まえたAIの調整を始める時間が来るだけのこと。


 それでも、あたしは少し緊張しながら電源を入れた。


「…………」


 何も変わらない。


 辺りがフラッシュしたり、意識が飛んだり、そういったことは何も起こらなかった。


 だけど……。


「おめでとうございます、マスター!」


「おめでとうだよ、マスター!」


「え……?」


 いつの間にそんな機能が付加されたのか、AI達に音声が付いていた。


 あたしの頭が真っ白になっていく。


 まさか、本当に過去の改ざんなんて事が行われたの?


 だから、この子達がしゃべるようになってしまったとか……。


 ふと気が付くと、今さっき電源を押したばかりの過去を改ざんする装置が消えていた。


 そんな馬鹿な……まだ、指にスイッチを押した感覚が残っているのに……。


「原川様の家のご記憶はありますか?」


「マスターのお嫁さんだよぉ」


「そんな記憶あるはず……」


 でも、あたしの知り合いにはいなかったはずの、原川家のことが鮮明に思い出される。


 娘が出来たら嫁にやろうと、うちの親と約束した人。


 その家に生まれた三人の娘……。


 自分には覚えがないのだが、三人とも小さな頃から親しんでおり、命を助けたエピソードなど様々な思い出が蘇ってきた。


 いや、三人だけじゃない。


 その友達や友達の姉妹など、十名ほどの覚えのない記憶が確かに存在していた。


「姉妹だけじゃなくて、その、友達も?」


「姉妹が嫁なら、友達は愛人です」


 そのかわいすぎる容姿から、何度も男に嫌な思いをさせられている女の子達。


 教室内のイタズラやイジメ、連れ去り、変なファン、いやらしい目、痴漢、教師のセクハラ……。


 その度に、あたしが頑張って女の子達を助けてきた。


 この子達は、男性に対して絶望している。


 あたしとの結婚が、本当の話として受け入れられている……。


 過去の改ざんの効果は、あたしにもAIにも認識できるようで、おかしいということは理解できた。


 中でもおかしいのは、あたしが転校を繰り返していたという事実が無くなっており、この土地で原川家に関わる面々と仲良く過ごしてきたことになっている。


 友達という感覚はないけれども、この変わってしまった世界では、あたしは孤独ではないようだった。


 小さい頃からの、友達が出来ずに孤独だった思い出もそのまま残っているのに。


 でも……この記憶を持った状態で、この子達を無碍に扱うことは出来なかった。


 下はJSから上はJCまで。


 せめて、年齢くらいは突っ込んでおくべきだったけど、もう後の祭りだ。


 あたしは、親同士だけではなく、この女の子達とも、直接に結婚の約束をしていたのだった。


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